第28話 新たなる戦いへ
イサはフェンラールから直接報告を受ける傍ら、未登録作業船の登録作業とクルーの戸籍登録の手配を進めていた。
フェンラールもイサの執務室に通されるのに慣れつつあったが、相変わらずアマテラス銀河連合の執行官というのは忙しいのだなと思う。
まわりでは監査局での同じチームというメンバーも執務をしている。キーボードをたたく音はしてないが、入力がいくつも並行して高速で行われているのが展開されている空中ディスプレイの光でわかる。内容はさすがに部外者には読めないように何らかのスクリーンがかけられていたが、とにかく速い。
思考操作技術というのが当たり前とはいえ、ここまで一人が同時並行でおこなえるというのはいくら思考速度に精神体に追加するAIなどでブーストがかけられているとはいえすさまじいものがある。
イサがディスプレイをひっくり返してフェンラールに見せてくる。作業員たちの顔とプロフィールだ。
「一応確認だけど・・・このメンバーでいいかな?」
「あ~私はこの船長で商会長のアイオンとかいう人と、このワツというひとしか会話してません。あとこのシロっていう若い子かな?」
「まあ・・警察から報告はうけてるし、とりあえず問題はないみたいだから戸籍局に登録を依頼するよ。」
画面が一瞬で切り替わる。
「それでアルドネスさんたちが撃墜した中型船は、バルンスト宙賊団の船ということだったね?」
「そうです。基本的にあそこのSAコロニーにはサブでいるかんじで、メインはαセクターのタカーツクコロニー・・・・。」
イサが天の川銀河南東域下底方面αセクター近辺の立体宙図を出す。
「そのコロニーは・・・。あ、精神接続をするから・・。」
一瞬頭が頭痛がしたフェンラールだった。
「そのコロニーの場所をそうぞうしてくれるかな。」
若干慌てつつもすぐに天の川銀河南東域下底方面Θセクターのあたりに光が出る。
「なるほど・・・・南東域のαセクターからκセクターあたりまでを縄張りにしていると・・・・。」
一瞬で思考が読まれたことにフェンラールはぎょっとする。
「じゃあ精神接続をきるよ。」
わきではラナンとラキが呆れた様子でイサを眺めていた。
「先輩、慣れてない人にここの高機能機材の精神接続はきついですよ?」
「アルドネスさんすいません。うちの先輩が・・。」
イサはその二人の言葉に肩をすくめる。
「正確な情報が欲しい時ほかに手段がないだろ。しかし、通商連合共和国傘下直営の宙賊団か・・・。」
「広域宇宙警察が調査に入ってるし、今下手に動くと不味いのでは?」
「ん~・・・でもな、正直すぐにでもつぶしたい。特に南東域は通商連合共和国本星要塞があった場所だから。担当宙域の艦隊ははニギ・カラさんか・・・」
ラキがさらに呆れた様子だった。
「素人のアルドネスさんがいる前でする話じゃないですよ?ラナン先輩もイサ先輩も?」
フェンラールとしてはすでに天の川銀河政庁とはずぶずぶの関係だしいまさらという感触もある。
イサは宙域図を出して、いくつか説明を加える。
広域宇宙警察が調査にはいっているコロニーを除いて、相手の中枢があるコロニーのいくつかを表示する。
「この五つのコロニーは最低限軍に処理をお願いしたところだね。」
ラキが諦めたように答える。
「・・そのこころは?」
「ソル太陽系方面の孤立化。」
フェンラールは自分がシリウス王国軍人だった時代に任地だった場所をいわれて首をかしげる。
「わたしにもなじみのあった星系ですけど・・・あそこってジョカの輸出でお金を稼いでいる星系ですし、中はドロッドロの派閥というか軍閥争いをしているような星系ですよ?いまさら孤立させても・・・。」
「・・アルドネスさん、機密を漏らさない宣誓をしてもらってもいいかな?」
「かまいまいませんが・・・。」
フェンラールはイサに示された条文をよみ、再び精神接続を行ってから宣誓をする。
「・・・・たぶんしっているとは思うけど、あそこでは、精神オーバーライド、つまり上書をされた銀河連合管理官を外部から観察してコンテンツにしているというろくでもない放送局の現場になっている。」
その話はフェンラールも初耳だった。
「放送コンテンツですか?私がいたころには・・・そんな話は・・・まさか通商連合共和国のアッケドン財閥がらみですか?」
「あたりだよ。アマテラス銀河連合としては、管理官資格への冒涜ともいえるこの行為を深刻に受け止めている。もちろん銀河連合国民の戸籍をもつものはオーバーライドされたところで、記憶はいつか戻る。だが、その戻るまでの間に犯罪行為などを誘導されたりして犯すケースが多い。」
もちろんその間に行われた犯罪行為は免責されるがとイサは付け加えた。
どういやら放送やゲームコンテンツをメインに商売にしているアッケドン財閥は地球上の人類をゲームや放送の対象として、通商連合の資産家たちにコンテンツを提供しているらしい。
「地球の月の事はアルドネスさんも知ってるとは思うが、あそこは通商連合共和国の縄張りだ。あそこの表面層が放送局やゲーム参加者のライドオン、つまり精神接続ポイントとなっている。ほかにも金星の一部にもそれに類する設備がある。」
それでさらに核心的なことをイサは話す。問題はそのライドオン施設のデバイスの一部にジョカの脳髄を利用したブレインジェムの光子場演算システムとして用いられているということを。
「つまりだ・・・ライドオンを利用したゲーム利用者の精神と接続先の地上の人間もジョカの惑星殲滅プログラムに汚染されているということが問題をさらにややこしく、その上深刻にしている。」
地球が、通商連合共和国の資産家たちが勝てない相手であるアマテラス銀河連合の高位階級者をおもちゃにするというコンテンツに利用されているということを知らされてフェンラールは吐き気がした。どこまで人間の尊厳をもてあそべば奴らは気が済むのだと。
「やつら、ジョカの侵食プログラムが利用できるとライドオンやオーバーライドのシステムに使えることしか考えてない。」
イサの言葉は苦々しかった。
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