第27話 必然か偶然か

 ワイオン達は船をコロニーの港から出すと、パッシブレーダーの動きに注意していた。アクティブレーダーを使わないのは、この宙域でそんなものを使えば袋叩きにあるからだ。

 至近でアクティブレーダーを使うことは、銃口を向けるのと同様に扱われることが天の川銀河のアウトロー界隈での常識だ。

 しばらくしてワッツがほっと息を吐いた。

「おやっさん、追跡してくる船はとりあえずみつかりやせん。」

 ワイオンが頷く。だが、ここで油断はできない。コロニー付近はアウトローにとっても非戦闘区域だが、離れればその限りではないのだ。

 よこのサブオペレーター席に座っていたシロが首をかしげている。

「おやっさん、ワッツさんも、なんで神経質になってるんですか?まるでコロニーから夜逃げするかの・・・・。」

 一瞬シロは口に出してからはっとする。まさかとコクピットの面々の顔色をうかがう。

「・・・安心しろ、夜逃げじゃない。コロニーの掟を破ったわけじゃない。」

 ワッツの言葉にシロは一瞬ほっとした様子だが、そこで首をかしげる。それならばなぜこんな慌てているのかと。

「・・ワッツ、全員にわかるように説明してくれ。」

「わかりやした。」

 そのあとワッツから説明をうけたクルー達は難しい顔をしていた。スペースアーツコロニーが即破壊処分をうけるとは決まっていないと反論するものもいた。

 そういうクルーにはワッツも丁寧に説明をして、さらにワイオンが付け加えた。

「・・・アウトローをやるなら少しの危険も無視しちゃ生きれん。ナガールとサンデ、お前たちもその言葉の意味は分かっているはずだろ?」

 それからワイオンはここ一年くらいの天の川銀河の情勢について説明をした。すでに通商連合共和国という国が存在せず、残党どもが好き勝手やってるだけということも付け加える。

 二人のクルーは苦いものを飲み込んだような顔をした。

「スペースアーツコロニーは中央星系とも割と近い。司法執行部隊派遣の原因となった移動コロニー七つとは逆方向だが、こちらをアマテラス銀河連合が放置するというのはあり得ん話だ。」

 大方すでに調査が始まっているかアウトローのコロニーだというので即攻撃されるかどちらかだ。

 そのとき、背後からレーザー射撃がわざと外して行われた。

「おやっさん、ステルス潜航艇です!」

 ワイオンはその名称を聞いて眉をしかめた。このへんでそんな船を持っているとなると通商連合共和国直営の宙賊ぐらいだ。案の定かかってきた通信に出ると、知っている宙賊だった。

『よぅ、ワイオン。そんなに慌てて巣穴から出てどこいくつもだぁ?』

「ベンゼス・・・お前・・・アウトローの掟を破るつもりか?」

『おきて?ぎゃはは・・・・そんなもんもあったな?』

 これは話が通用しないなと思った。最初からうちの船を略奪するつもりで追跡してきたとみていい。

 通信を切ると、船を全速力で加速させた。速度が上がると物理遮蔽効果もあがるので、レーザーの被弾も少なくなる。この作業母船はそれなりの核融合炉を積んでいるのでシールドを張るのにエネルギーを費やすことに長けている。しかし逃げるには足が遅い。どちらのエネルギーが切れるかの我慢勝負が始まった。




 フェンラールは小惑星帯を抜けると、報告のためにクラヌスにプリウム一世号を向かわせていた。そろそろ次元転移加速を行なおうかとしていた矢先にレーダーオペレーターのサイネが声を上げた。

「お嬢様!後方0.3光年の宙域で作業船とみられる母船が、宙賊とみられる中型船に攻撃をうけています!」

 アマテラス銀河連合の航宙規則では、宙賊に襲われていた船を発見した場合、宇宙警察に通報する義務がある。

 フェンラールは舌打ちをする。

「・・・すぐにピーリンはクラヌスの宇宙警察支局に通報!ライナ!旋回して作業船にむかうよ!」

「あいあい!」

「・・お嬢様、あの型番の宇宙船に見覚えがありませんか?」

「母船はみたことない・・・って攻撃している中型船のほう・・・ありゃ、通商連合の船だね・・・・おまけに・・。」

「船の照合してます・・・・バルンスト宙賊団傘下の船ですね。」

「面倒な・・・・。とりあえずライナ、船体をわりこませて!」

「あいあい!」


 ワッツは驚いていた。大型船が突然現れたかと思うと、宙賊の船の間に割り込んできた。

『・・・こちらミネアリア・テラス船籍、貨客船プリウム一世です!攻撃中の船は今すぐ攻撃を停止し、停船してください!停船がない場合、こちらも攻撃を開始します!』

 宙賊船のほうからオープンチャンネルの通信で笑い声が聞こえる。

『きゃははは!貨物船の分際で、騎士を気取ってやがる!!しかも女だ!!野郎ども!!女の船をさきにやるぞ!!!』

 ミサイルが大型貨客船に向かって放たれる。どうやら表面の動力部らしいばしょだけをねらったようだが、ミサイルは貨客船の表面を滑って行って、素通りしてしまう。

『なんだと!!』

 続いてレーザーの射撃が行われるがそれも表面を滑って行ってしまう。

 その様子をワッツはみていて、なんとなく納得した。あれは軍グレードクラスの重力場フィールドだ。相対速度の差が大きすぎて、レーザーすら相互作用を及ぼせないでいる。

 それにさきほどミネアリア・テラス船籍と聞いた。だとすると中央次元宇宙の船だということになる。

『攻撃が行われたようですので反撃いたします。』

 さきほどとはちがって冷たい雰囲気の女性が言葉を述べた。

 貨客船から空中砲塔らしきものが出現し、それが九門相手の船に向けられた。

 次の瞬間、白いビームが飛び宙賊船は一瞬で破壊された。

 中央次元宇宙の船なのだから核融合爆発射撃もできたはずだとワッツは思った。それをしなかったのは証拠を残すためだなとなんとなくわかった。

『作業船の方、ご無事ですか?』

 通信をつなげると若い女性が画面に映った。ショートカットの女性だが、若干放置気味なのか髪の毛がそろってない。シャギーカットにしては雰囲気が違う。

「・・救援に感謝する。こちらスペースアーツ船籍作業母艦イフェルナ、オペレーターのワッツ・ディクスンだ。」

 女性が頷いてから口を開く。

『さきほども申し上げましたが、ミネアリア・テラス船籍貨客船プリウム一世、船長のフェンラール・アルドネスです。申し訳ないですが、宇宙警察の到着までこの場で待機して頂けないですか?』

 ワッツもむちゃをいうお嬢さんだなと思った。この宙域で宇宙警察がくるとなると大ごとだし、うちの船は未登録の採掘作業母艦だ。

『あ~SAコロニー船籍ということで言いたいことはわかりますが、この場を離れるのはお勧めしませんよ。未登録なら罰金程度ですみますからね。逃げたら逃亡罪がついてややこしいことになりますから。ほかの宙賊の船についてはご安心を・・。』

 するとワイオンがカメラと通話をよこせと言ってきた。

「・・船長のワイオンだが、わしらが逃げたらどうする?」

 その言葉に向こうはにっこり笑った。

『・・そうですね~背後から撃ちたくはないですけど、逃がすとめんどうなので足止めに動力部を砲撃させてもらいます。』

「わかった。わしらは待つことにする。」

 クルー達が何とも言えない顔をしていた。

「おやっさん、ワンチャンにげることもできるのでは?」

 その言葉にワイオンは首を振った。

「むこうの船の機動をみただろ。うちの船じゃ、すぐに追いつかれる。それに向こう武装が空中砲塔だぞ?しかもレーザーじゃない。ありゃプラズマビーム砲だ。しかも超光速加速つきだ。ひょっとしたらレーザー砲としてもつかえるんじゃないか?」

 ワイオンの言葉にワッツが頷く。

「あれはアマテラス銀河連合の軍用グレードの砲台だ。背後からレーザー拘束による超光速加速を行っている。三光年先に逃げても当てられるぞ?」



 宇宙警察の警備艦隊がくるまでそれほど時間はかからなかった。ざっと宇宙標準時で二十分くらいだろうか。

 証拠品などの押収が行われ、作業船のクルー達は一度宇宙警察の母艦に移されそこで証言を取られた。データーの提出も行われ、フェンラールの言ったとおりにアマテラス銀河連合に未登録の採掘船だったことで罰金は取られたが、船や資材の没収はなかった。

 登録作業を行うまで作業は行えないとのことで、警察の三隻の艦とプリウム一世とともに天の川銀河中央星系であるクラヌスに向かうこととなった。

 シロがその護送中にぼそりといった。

「アルドネスのお姉さん綺麗だったな・・・・・。」

 クルー達はそれを聞きつけて呆れた様子だった。

「うちの船を容赦なくうつってぬかした相手を綺麗とは・・・。」

 ワイオンは若いというのはいいなと内心思っていた。それに採掘許可証の発給について、クラヌスでフェンラールが口利きをしてくれると言ってくれていたので若干の不安はあったが、これを機に、合法の会社組織に切り替えるかと考えていた。


 クラヌスにおりた採掘作業船イフェルナと船員たちは、フェンラールの手配したホテルに泊まることになった。

 この銀河で最大の都市惑星にクルー達はどこか興奮気味だった。

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