第30話 アッケドン財閥

天の川銀河某所・アッケドン財閥仮本部コロニー。


「総帥、傘下の宙賊八つとの連絡が途絶えました。」

「なんだと!」

 そういって執務室の立派な木製執務机の革張りの椅子から立ち上がったのはアッケドン財閥第二百五十四代総帥のリーミヤ・アッケドンだった。

 リーミヤはかなり肥満体の体をしている。

「あいつらは何をしている?」

 目の前で報告をしている男性は息をのみつつ、報告を続ける。

「それと、連絡が取れなくなていたソル星系ですが・・・・一応重力トンネルでの行き来は可能のようです・・・が、現時点で時差がかなり生じるらしく中で一分でも過ごすと外では数年以上たってる場合が報告されております。」

 リーミヤは椅子に座りなおす。

「・・・視聴者には取り置きのデーターでとりあえず我慢しといてもらうとして・・・・問題はゲーム参加者だな。」

「現時点で月からの救出は無理かと・・。」

 くそ!またアマテラス銀河連合かとリーミヤは吐き捨てる。

「代替場所の確保は進んでいるか?」

 部下は首を振る。代替場所をテネル銀河に構築中に天の川銀河の封鎖に加えて、テネル銀河への侵攻が行われた。事業状況は正直言って絶望的だ。

「例のアーミラス財閥からの横やりで行っていた、確保したアマテラス銀河連合の管理官のオーバーライドさせたうえでの、地球地上でのハラスメント対象化が、予想以上にアマテラス銀河連合を刺激したことが原因ではないかと分析が出てます。」

 その言葉にリーミヤは首を振る。あのゲームと放送を融合したコンテンツ自体はうまくいっていた。惑星一個を巨大なゲーム空間にして、そこにゲーム参加者を地上の人間に接続させて、地上での生活を体験してもらいつつも、自由な行動を認めて戦争を起こさせたりしていた。

 それが低俗なハラスメントコンテンツなどを行うようにとアーミラス財閥から持ち掛けられて、その結果がこれだ。やっていられない。

 ハラスメントコンテンツでの収益は確かに高かった。特に通商連合共和国の国内で上流階級よりも下層階級に受けが良かった。人間は自分より低い立場の人間を見ることや、上にいた人間を引きずり下ろしたときのカタルシスに酔いやすいというのは事実だが・・・・相手が悪すぎた。

「こちらの戦争で、本国要塞の消滅がかなり響いていますね。あそこが一番の稼ぎ場所でしたので・・・。」

 そこにさらに緊急連絡が入ったのか立体スクリーンが立ち上がる。

『総帥大変です!ソル星系の金星の我が方の施設が旧シトラス配下の者たちに襲撃を受けています!』

 リーミヤはダンと机を叩いた。

「くそ!!・・・・・・・あちらの時間経過は遅くなっているのだったな?土星の艦隊を出せ!!この際だ。太陽のセツの拠点もつぶしてしまえ!!」

「しかし・・・協定に違反するのでは?」

「協定破りを先にしたは向こう側だ。やられたままにしておけるか!!」







天の川銀河中央星系惑星クラヌス・新管理官ビル・B4056会議室。


 会議室の中ではSAコロニーから脱出してきた採掘作業船のクルー達とイサ達が話し合いをしていた。イサがわざわざ時間をとったのは生の向こうの状況を聞くのが主目的だった。

 話を聞いていると、そのなかで映像コンテンツのデイバイスがけっこう販売されており、そのなかに例のソル太陽系のコンテンツが含まれていることも分かった。

 それにくわえてソル太陽系の月のゲーム参加施設へのチケットが240万エネルギールートくらいで販売されており、アッケドン財閥の販売網が予想以上に広がっていることがわかった。

 どうもソル太陽系は天の川銀河のアウトロー界隈では娯楽星系という認識が強いらしい。

 ライドオンを用いて地球の地上の人間を操作するゲームは割とメジャーなゲームになっているそうだ。

 またゲームをするうえでその時点での有力者だったりすると、ライドオンにプレミア価格がつくらしい。逆に、一般人だとこの値段は安くなるそうだ。あと参加者のプレミアランクにより科学技術の持ちこみなどに制限がかけられており、記憶の制限もうけたりするらしい。

 値段の高いプレミアアカウントだと逆に何をしても自由ということで、いかにも拝金主義の通商連合共和国らしい形態になっているといえる。

 ただ、時々政府関係の調整などで運営しているアッケドン財閥が地上の状態に集団ライドオンをりようしたりしてコントロールをかける場合があるそうだ。

 話を聞いているとどうもイサが地上に降りたときに強制的に殺され部隊を壊滅させられたのはこのコントロールによるものらしかった。

 とかく、必要以上の実力者が生まれないように地球をアッケドン財閥はコントロールしているらしく、三権分立や報道権の確立などをおこなわせたのも権力が集約され、地球圏が独立に動くのを阻止する目的だったそうだ。

 相互監視が行き過ぎると社会は効率や活力を落とす。宇宙では権力はある程度集約しないといけないというのが常識だが、地球ではそれが逆になっているのはそのせいらしい。



 聞き取り調査を終えると、今度はワンダラーズ商会の作業母船の話題に移った。いまの作業船の状態では天の川銀河から出ることは無理である。

 イサとしても天の川銀河内の協力者を増やしたいという下心もあったので、軍用の小型移動コロニー母船の斡旋をした。

 がた落ちとはいえ軍用コロニー母船を斡旋されると聞いてワッツはかなり驚いた様子だった。ワイオン達やシロはいまいちぱっとした感触はなかったが、移動の自由を手に入れれると聞いてからワイオンは飛びついた。

 幸い、ワンダラーズ商会の作業船により換金率の高い鉱石が持ち込まれていたためそれを代金にすることで交渉は妥結した。

 それに加えてラキの提案で、新入植区域の鉱石採掘とその輸送でワンダラーズ商会とプリウム一世が組むことになった。

 ワンダラーズ商会が採掘現場で採掘を行い、プリウム一世がその素材を入植惑星に運び込むという計画だ。

 フェンラールとしては定期の仕事にありつけるならと思い承認した。


 そのあと、コロニー母船の武装などについても話し合いがもたれ、イサが色々詰め込もうとするので、ラナンが窘める場面がよく見られた。

 せいぜい宙賊あいてなのだからそこまで武装は必要ないのだが、イサとしては実験兵器を色々試したかったようだ。ただ、乗り込まれた時のことを考えて、旧式の武装ロボット兵器は搭載することに決まった。


 それから宇宙標準時一カ月後、プリウム一世と、小型コロニー母船ワンダラーズ三世号はクラヌスの地上宇宙港を出発し、採掘区域の南東領域∑セクター宙域へ出発した。


 母船は非常に大きく小型とは名前がついているが15kmはある。一応プリウム一世は天の川銀河では大型とされているが元駆逐艦なので、母船に収容することも可能だ。

 一緒に航行するのは護衛の意味合いが強い。


 位相速度航行安全宙域に到着すると、二つの船は同期して、超光速移動にはいる。

 船が大きいこともありワインダラーズ三世のクルー達は神経しつになりながら超光速移動を行った。

 三分もしないうちに∑セクター宙域・ヘイロン恒星系に到着する。ヘイロン恒星系は元々ワンダラーズ商会が採掘を行っていた恒星系だ。イサに採掘許可証を発行してもらったおかげで堂々と採掘できる。

 採掘現場の小惑星帯には採掘ブースが設置されていたが、すでにそれを利用する必要はない。ワンダラーズ三世の機能だけで採掘が可能だからだ。

 AIによって動かされる採掘マシーンたちを監督するのがアマテラス銀河連合の山師たちの仕事となる。ワッツは少し物足らない顔をしていたが、どこを掘るかも指定できるので、人間の山師の仕事がなくなったわけでもない。

 一方シロ少年のほうはあたらしいAI採掘機に夢中だ。

「・・・新しい仕事の始まりだ!やろうどもしっかりやるぞ!!」

 ワイオンに言葉にクルー達はおお!!と声を上げた。


 フェンラール達は採掘がある程度行われるまで暇である。その暇をつぶすために、恒星系内のパトロールを行っていた。操舵をしているのはピーリンだ。

「恒星系内のパトロールなんてひさかたぶりよね?」

「まあ、そうですね。それにしても無人の岩石惑星ばかりの恒星系ですか・・・。こういうところって宙賊が好みそうですね?」

 フェンラールはそのピーリンの言葉に苦笑した。

「あんまりそういうことは考えたくないけどね。まあ、ここの恒星系の採掘権はワンダラーズ商会にあるし、盗掘者にさえ注意しとけばどうにでもなるんじゃないかな?」

 フェンラールはワンダラーズ三世からおくられてくる採掘データーを眺めながら、採掘物資の売り込み先をさがして銀河ネットのサイトを眺めていた。ここはどういうわけかブラックホールで生成されるような鉱石が大量にみつかっている。圧縮された特殊な鉱石なので加工も特殊になるが、比重が重いかわりに非常に物理的に頑丈な素材だ。

 最近きったはったの立ち回りが多かったから、ここでのんびり過ごすのも悪くないなとフェンラールは思っていた。

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