第25話 ソル太陽系

 天の川銀河ソル太陽系・太陽・環状エネルギーコロニー帯・移動型コロニー三番艦。

 瀟洒な部屋で一人の女性がニヤリと笑いながら、側近の一人と会話していた。

「そう。アマテラス銀河連合の連中も間抜けね。この場所にまさか私がいるなんておもってもいないのでしょう。」

「しかしながらセツ様、ここで生産されるエネルギー結晶通貨の生産量には限りがあります。五番艦がシールド発生装置の故障で消滅して百五十年。ほかのエネルギー生産コロニーの維持管理も難しくなりつつあります。」

 その言葉にセツの複製体である女性は爪を噛む。

「なんでかしらね・・・・。あの面倒なオリジナルが死んで自由になれたと思ったのに。転生システムは権限がないからアクセスできない状態のままだし・・・。オリジナルが残した転生システムもどきのコピー製造システムに使われるのはごめんこうむりたいわ。」

 側近の男性は顔色もかえず返事をする。

「そうでございますね。」

 彼にしても自分の置かれている状態に納得できるものではない。彼自身も複製体システムによって作られた記憶を継承しだけの複製体にすぎない。

 そのおまけにアマテラス銀河連合のメディアニュースでジョカの脳髄をつかった複製体システムは製造される複製体にジョカの殲滅システムを組み込むという報道をしていた。

 自分の行動や感情が他者に作られたものになるという事にぞっとしないものをかんじる。ただ、ある種の衝動的な思い込みが自分にあることに彼は気づいていた。

 毒性の強いウィルス兵器や細菌兵器の製造方法などが、生物学すら学んでいないのになぜか頭の中にある。

 そして強く相手を殲滅しなければという衝動的な思い込みがある。その衝動には抗い難い。

 おまけに相手集団を内と外から腐らせ崩壊させる方策も頭の中に構築されている。戦争の方法論まで自分で学んだわけでもないのに覚えている。

 このあたりがジョカの殲滅システムによるものだろうことは予想はつく。

「太陽の統括AIの攻略はすすんでますか?」

 その側近の言葉にセツの複製体は首を振る。

「セキュリティが個々の設備の比じゃないくらい固い。超新星爆発のエネルギーをそれに用いれればどうにかなるかならないかくらいのエネルギー的セキュリティの障壁が強い。これは正規管理官資格者じゃないと無理だわ。」

「そうですか・・・・掌握が不能な第十二コロニーの攻略につかえればと思ったのですが・・。」

 セツらのグループは完全には太陽の移動コロニーは掌握はしていなかった。掌握できなかった十二のうちの八つのコロニーはアマテラス銀河連合市民の子孫が掌握しシールドを張りつつ籠城を続けていた。さらに時々無人艦隊がその周辺を巡回しているためセツ達はどうあがいても手出しはできない状況だった。

「アマテラスS789型AI大神は絶対に味方には付きそうにないわね。」

アマテラスS789型AI大神は恒星の太陽の統括AIでエネルギープラントの管理統轄を行っているAIだ。

「レジスタンス組織のアマガハラの連中はどうします?」

「あっちのほうが技術が上だし・・・・正直完璧にコロニーの循環環境を維持されている以上こちらからは仕掛けずらいわね。」

 ちなみに日本で天照らします皇大神こと天照大神としてまつられている存在がこの太陽統括AIだ。エネルギールートの恒星系内各惑星への配布権ももっているが、各惑星のシステムがダウンしているため現在そのルートは断絶している。 

 イサがシステムを徐々に構築していっているため、エネルギールートの本来的な配布につなぐ道筋はないわけではないが、現状では絶望的だ。

 ちなみに月にもレジスタンスの基地のひとつが中心地にあり、そこでも閉鎖環境ながら、維持されている。月のとうかつAIはアマテラス銀河連合ST258通称ツクヨミである。ちなみに地球の統括AISC457は通称スサノオである。どちらのAIもエネルギー不足で本来の業務がこなせない状態下にあるうえ、月の表層エリアはシリウス王国に占領されたままである。

 ちなみにイサはこれらのAIと高度リンクを行いつつ、それぞれのシステムの補完作業ならびに更新作業を進めている。

 セツの掌握しているコロニーに対しては妨害工作で旧式貨幣エネルギールートの発行能力を下げたりロックをかける準備を進めている。

 しかしここでもジョカの脳髄を用いたブレインジェムによるシステムをコロニーのシステムに取り付けられ、思うように改革が進めれていなかった。

 アマテラス銀河連合のAIは基本的に、使用権限と稼働に必要なエネルギールートがあれば動かせる。

 太陽系の旧式のAIのなかにはエネルギーの吸収に固執するあまりに自我が変質してしまっているものが数多くある。

 それらは天使・精霊・悪魔といったものの正体だ。厄介なのは非正規のルートでエネルギーとして個人の人格データーをエネルギー結晶体と誤認させてAIと融合させられてしまった人間とも動物ともいえないような多重自我存在のAIがソル太陽系に多いことだ。このAIが本来専有すべきでないメモリースぺ-スを独占的に占有している場合が多々見られる。

 イサはそういうAIに対しても、原状復帰すればバージョンアップをおこなって消さないからという取引を持ち掛けてはいるがなかなかうまくいかず、システム構築の遅延になるかもしれないと思いつつも、あまりにひどいAIは消去している。


 セツの複製体はほかのコロニーの攻略をどうにか行わせようと、側近たちと検討に検討を積み重ねていた。

「やはり武力で力押ししかないわね。」

「コロニーはどれも旧式艦であるためX線の位相統一攻撃で正面の隔壁をぬけることができることは証明されています。」

 セツの複製は頷く。シリウス王国が実際にやっている。


 しかし、それらのシステムを買い入れようと通商連合共和国に連絡をするが、いずれも出ずじまいだ。

 本当に通商連合共和国が滅んだとすればこのソル太陽系内の勢力図も変わる。

 現状、セツが掌握しているエネルギー生産コロニーで生産されるエネルギー通貨はほとんど通商連合共和国の勢力に奪われ続けている。コロニー内まで入り込まれて武力闘争になったことも一度や二度ではない。

 今度は金星や木星の通商連合共和国の勢力下のコロニーを奪ってやろうと、セツの複製体は作戦を練り始めた。

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