第23話 テネル銀河侵攻

 テネル銀河攻略戦はテネル銀河の外周域をすべて防衛要塞三京個以上で取り囲むことから始まった。

 テネル銀河辺縁域にある恒星間国家の艦船と散発的な戦闘があちらこちらで起きたが、アマテラス銀河連合宇宙軍艦隊により散々に壊滅させられることとなった。

 辺縁域の国家であるイラリオン王国でも領域防衛のために、防衛要塞を敷設中のアマテラス銀河連合艦隊に攻撃を仕掛ける作戦が進んでいたが、結果的に大敗することとなった。

 今回の件はレネルベルクト帝国による天の川銀河での大規模破壊行為が発端となっていることをアマテラス銀河連合はいくつかの周波数帯で喧伝しながら進軍をしていたので、テネル銀河の国家達はレネルベルクト帝国への避難を強めていた。

 もちろん、テネル銀河にあってもほかの恒星間国家を認知していなかった国家もある。そんな国家は国内で大規模な混乱が生じているところが多かった。

 テネル銀河北西辺縁域・ラーナマーヤ王国・首都星ライナニャでは突然の侵略者の登場に、あちらこちらで政府への批判を激しく行う暴動が起きていた。

 アマテラス銀河連合のテネル銀河討伐軍司令部がおかれている総旗艦アマノハバキリ二世ではライナニャでの暴動の解析を行わせていたが、正直あまり芳しいものではなかった。

 というのも共産主義者による革命暴動であり、イデオロギー的にアマテラス銀河連合とは合わないものだからだ。

「これ、暴動のほうをつぶして、現地政府に接触したほうがいかもしれませんね。」

 ターリス六佐の言葉に総司令官であるイナバ・カエツグは首を振る。

「この場合、双方ともつぶすだ。下手に前の政府の残滓を残すのはのちのち政治統合の障害になる。政府内にも暴動を支援している勢力がある。懐柔は難しいだろうな。陸兵を送り込んで制圧だな。」

「思い切りますね。」

「正直、この程度の銀河に送り込むには過剰な戦力だよ。」

 そこに立体ディスプレイが立ちあがり、一人の士官が映っていた。

『総司令、テネル銀河の封鎖作業完了とのことです。』

「わかった。では作戦を第二段階へ進める。各艦隊に進軍を開始させよ。」

『進軍命令出します。』


 いくつかの恒星間国家では惑星を捨てて別の銀河へ脱出を図ろうと、多くの船で船団を組もうとしているところもあった。

 ラーゲンスール連邦でも議会の決定により、惑星を捨てる準備が進んでいた。

 まさか銀河全体が封鎖されており、出ることすら不可能だとは彼らは思っていなかったのである。



 天の川銀河中央星系惑星クラヌス・新管理官ビル・執行官室。

 イサはその日いつものように班員達と執務を続けていた。天の川銀河の管理領域が広がるにつれて必要な執務の量も増えてきていた。

 そろそろ行政局に応援をよこしてもらうべきか思案していたイサだった。

 中央議会の上院行政審査委員会の決定により、都合標準宇宙時百年はイサはここの行政を行わなければならない。

 イサをそこまでそこに拘束する理由は惑星殲滅兵器ジョカの件が重要視されているともいえる。ジョカの生産拠点をすべて傾圧ないし破壊せよというのが中央の意思だ。

 正直故郷の地球の件があるので都合がよかったが、責任者としての判断としてはソル星系を破却したほうがコストが安いうえに、面倒ごとが少ない。それを、通商連合共和国の関係者の追跡を行うという名目でお目こぼしをしてもらっている状態だ。

 いつかは暇を作ってまた地球に降りて、今度こそ解決の糸口を見つける必要がある。

 フリーハンドがあるから、地球の文明を進展させて、保護国化する手もある。ただ、それにしても地上のジョカを完全に排除しておく必要がある。 

 転生システムが正常なら、権力者の子供や有力国家の有力者の子供に転生することができるが、なにせセツ・サダ・セレナ・グレンデルトの妨害が予想される上、地球の惑星システムAIの一部がいう事を聞いてくれない状態にある。更新した部分はすでに掌握済みだが、はてさてほかの領域を更新する作業がすすめれるかは未知数なのだ。

 地球全体のシステムを更新したら、別の惑星のシステムも更新していくのが手順だが、有力者になれる人物にならなければその作業も効率が悪い。

 十中八九、セツ・サダ・セレナ・グレンデルトの妨害で、うまく転生できても、その人物の人生が成功する可能性は小さいと見積もらざるを得ない。時間だけは確保できているのでトライアンドエラーでなんとかしていくしかないだろう。

 イサが地球に思いをはせていると、緊急連絡が入った。

『惑星サラヌイで転生システムへ介入しようとした形跡を発見。システムが該当者を追跡したところ民間宇宙船のひとつにつながり、これを拿捕。宇宙船ないから大量のジョカ並びにセツ・サダ・セレナ・グレンデルトの精神複製体をもつクローンを発見。対処を指示されたし!』

 イサはすぐにその内容を査察班の班員で共有した。ラキがすぐに口を開いた。

「これってどこかに拠点ありますね。惑星サラヌイは中央星系よりとはいえ北東域の天頂方面Δセクター宙域です。」

 ベッソが面倒そうな顔で付け加える。

「うちらはここの仕事で動けないから・・・・セツのばあさんの複製体だけを捕縛してこっちに移送、ジョカは調査の後に破棄。船の航路システムの解析とかは、派遣してもらう監察局員立ち合いのもと宇宙警察にやってもらいましょ。」

 ラナンもベッソの言葉に頷く。

「そうですね。くれぐれも先輩は自分で動かないように。」

 しっかりラナンに釘を打たれたイサだった。


 二日後、セツ・サダ・セレナ・グレンデルトの複製体が捕縛されてクラヌスに送られてきた。

 拘束ベッドに寝かされた彼女は目隠しをされながら必死に脱出しようとしてたが、システムが完全な中央次元製の拘束具から脱出はできない。

 すぐに精神走査システムにて精神情報を引き出す作業を開始した。

 イサは直接かかわるのを部下に否定されているので、報告書だけを読んだ。

 旧型の移動型宇宙ステーションが該当域にあり、それを捕縛されたセツ・サダ・セレナ・グレンデルトの複製体は統治していたらしい。移動型宇宙ステーションの内部でジョカの繁殖と教育を進めており、ジョカがまとまった人数存在していることが分かった。また問題は、移動型ステーションであることだ。

 彼らはこちらが完全掌握してシステムを張り巡らせた宙域には入れないが、それ以外の宙域には自由に入ることができる。

 ジョカの侵入をしかけてクラヌスを再奪取する計画であったことがわかった。

 すでに該当の移動型宇宙ステーションは補足しており、宇宙警察が乗り込むことになっているそうだ。

 報告書を読み終えてしっくりこないなというのが正直なところだ。同様の移動型ステーションが複数あると考えたほうがいいのかもしれない。

 そうなるとシステム領域を広める作業が必要なると同時に、システムにバックドアを仕掛けられないように注意する必要もでてくる。物理的にエネルギー落差の関係でそうそうそんなことはできないが、用心に越したことはない。

 翌日、セツ・サダ・セレナ・グレンデルトの複製体は毒薬の投与で処刑された。処刑の執行書にサインをしたのはイサだったが、転生体ではなく複製体というのがどうもしっくりこない。

 複製体であるとはいえ本人ではないのだ。とはいえ、セツ・サダ・セレナ・グレンデルトは複製体を含めて公民権は停止され、発見次第殺害してもよいことに法律ではなっている。

 複製体の精神体も戸籍局によって抹消された。

 セツ・サダ・セレナ・グレンデルトによる劣化転生戸籍システムの存在があることを思い出し苦い思いを感じる。

 おそらくは地球にも複数あるはずだ。それどころかソル太陽系に複数あるといったほうが正確だろう。彼女がシリウス王国に壊滅させた最初の星系だからだ。当然好き勝手やっていたことが容易に予想される。むろん通商連合共和国との関係もあるから、金銭的に対立点はあっただろう。

 そこまで考えると面倒になってくる。しかし、ラナンはソル太陽系を破却するという決断は支持してくれないだろうことは簡単に予想がつく。個人的に関係があるとはいえ厳しいなとイサは思った。

 案の定、その後の宇宙警察の調査で、ブレインジェムを利用した劣化転生システムが移動宇宙ステーション内で発見され、複数のセツ・サダ・セレナ・グレンデルトの複製体を処刑と精神体の消去を行うことになったと報告が来た。

 ブレインジェムをデバイスに利用したのはおそらく大容量の光デバイスシステムが入手できなかったことが予想される。しかし、ブレインジェムで代用できるというのは非常に問題が大きい。

 ブレインジェムの非人道的なシロモノであることもあるが、製造が簡易であること。そしてジョカの脳を利用した場合、ジョカの殲滅システムが組み込まれてしまうというリスクの大きさだ。

 ジョカの殲滅プログラムは遺伝記憶に存在する。つまり遺伝子を破壊するだけではおさまらないのだ。精神体の殲滅プログラムによる汚染部分を消去しなければ、それは発動する。

 セツはジョカに対する認識が甘いと言わざるを得ない。

 セツの複製イコールジョカでもあるわけだ。本人は意図してないだろうが、実際そうなっている。

 最悪、セツ・サダ・セレナ・グレンデルトの複製体は宇宙全体の崩壊をも無意識に求めていく可能性がある。

 イサは問題の大きさに頭を抱えたくなった。ラナンも難しい顔をしていた。

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