第22話 認識の差

「シーメント侯爵、向こうに依頼していた家財道具や壁装飾の調達を行う開拓船団の担当者から連絡が入りました。通信をつなぎますか?」

 執事の一人の言葉にイワンはすぐにつなぐように指示する。

 画面がつながると、シーメント侯爵が先に名乗りを上げる。

「イワン・ヴェルクス・ノア・シーメントである。」

 そのセリフに向こう側の女性の背後が一瞬騒がしくなった様子だ。一貴族ごときが殿下にむかってという声が聞こえた。

 女性は背後に黙るよう言うと、口をこちらにむかってひらく。

『第八十二船団調達係のフェンラール・アルドネスです。そちらが求めていらっしゃる壁装飾や家財道具について伺いに来たわけですが・・・。具体的にどのような装飾品をお求めか、具体例を出していただけないですか?』

 イワンとしては先ほど聞こえた殿下にむかっての一言が気にかかっていたが、向こうはそれをなかったことにするつもりのようで、それならばと、執事たちにデーターを向こうに送るように指示する。

 むこうでそれを開いたようで、それを眺めていたフェンラールが首を傾げた様子だった。

『・・・失礼ですが、そちらに汎用工作機をおろしましたよね?その汎用工作機で、基本材料プレートやキューブなどの材料を加工すれば同じようなものはつくれますよ?』

 イワンはそういわれて苦い顔をした。

「それはわかっていおるが、なにぶん、それでは合成素材となる。我々の惑星では天然木材を使うことが貴族の証のひとつとなっていてな・・・。」

 フェンラールのほうでは正直呆れていた。

(いまどき天然木材を使う?そんなもの欲しいなら自分で林業でもすればいいのに・・・。)

「どうしても天然木材でなと使えないと・・・。」

『贅沢なのはわかっているが、天然木材を使うという点については外したくない事情がある。』

 フェンラールとしては正直どうするか迷った。一応林業を行っている惑星やコロニーといったところとの伝手はある。むろんそれは開拓船団からのつながりではあるが。加工については汎用工作機で工作が可能だ。

「デザインについては汎用工作機のカスタム設定で設定できるのでそれはできますが・・・問題は天然木材は高級品です。運ぶのにやぶさかではないですが・・・提示されている予算内では求められている量は確保できません。汎用素材で木材を再現した合成木材ではだめなのでしょうか?細胞単位で再現が行われているのでそこまで差は出ないはずですが・・。細胞核まで再現されてるので・・・」

 イワンは合成木材について初めて聞いて驚いていた。

「そんな技術がこちらにはあるんですね。」

『ええ。専門家でも見分けはつきません。節の場所なども調整できるので、最高級木材も再現可能ですよ』

「すこしばかり、お待ちください。」

 イワンは側にいた数人の貴族たちと相談をする。どの貴族たちもサンプル次第だと口々に言った。

「・・・・失礼だが、サンプルの製造方法を教えて頂けないだろうか?」

 フェンラールは汎用工作機の使用法をなぜそこで聞いてくるかなと正直思った。知識挿入しておけよというのが本音だ。

 フェンラールが操作方法を教えると、できあがるまで待ってくれないかと頼まれる。むこうとしてもあんまりフェンラールに無礼な態度をとりたくない様子だが、フェンラールにしてみればアマテラス銀河連合国民としての認識が足りないのではないかと思った。

 いまさら旧母国での立場を主張してどうなるというのだ。

 結局、合成木材作成に適している汎用工作機と材料をフェンラール達が調達してくることに決まった。

 予算はそれなりに圧縮できたので必要数は最新型を確保してもおつりがくるくらいとなった。

「お嬢様、正直申し上げると、あの方々は国民としての帰属意識に欠けるではないですか?」

 中央次元に船をとんぼ返りさせしつつ、ピーリンの言葉にフェンラールもそうだねとしか答えようがない。

「うちの生き残り連中もあんなもんなんじゃないかなぁ・・・。」

「天狼星と、ソル星系とかダワン星系とかの生き残りの星系ですか?」

「そう。」

「否定できないですね。ソル星系は特にジョカの人間牧場ですから・・・差別意識が特に強い連中が多かったですしね。」

「現場に回されてた私みたいな異端児以外はだいたいそうだと思う。」

「プライドだけは高くて、問題がある人間が回されてきてましたよね。」

「イサさんの故郷らしいけど・・・あそこをどうにかするのは正直難しいと思う。シリウスの統制下にあったといっても通商連合共和国派とうちの派閥外に、暴走AIの派閥なんてものもあったし・・・まとめるのは無理だよ。」

「あそこにセツ・サダ・セレナ・グレンデルトの複製体が複数潜伏しているそうですよ。」

「あの似非女神はほんとろくなことしないな。どうせそこでまた転生システムに干渉して好き勝手やってるのが目に浮かぶ。・・・・それはそうと気合い入れなおして仕事をしますか!」




宇宙船プリウム一世は、その日天の川銀河中央星系惑星クラヌスに立ち寄った。

 地上に設置されている宇宙港に降りた。ここによるのはイサに面会する為だった。前に寄った時にイラリオン王国移民船団の関係者の様子現地でを軽くでいいので調べてほしいと依頼を受けていたのでその報告のためだ。

 新管理官ビルの二百五十階に高速エレベーターで向かうと、係員に談話スペースに案内された。お茶を出されてそれでのどを潤していた間にイサ達がやってくる。

「アルドネスさん、仕事の合間に悪いね。報告書は読ませてもらったけど・・・・貴族の立場に固執ぎみかぁ。」

「それはもう・・・・今回なんてその考えの元で家屋の素材と家具の素材を私の船が調達してくることになりましたからね。」

「天然木材を移入するとなるとずいぶんたかつくね。」

「想定量を確保できないので、合成木材の制作に転換するように説得しました。それで相談なんですが、素材加工用の大型製作機を扱っている会社を紹介して頂けないですか?」

「それは構わないけど、木造の屋敷かぁ。」

「彼らは伝統的にそうであることが権威の継承を行わせるに都合がよいと考えているようですね。」

 イサはそれを聞いて不合理だなと思う。しかし、帰属意識を高めるためにもフェンラールが行った契約に合うような合成木材を造れる大型製作機を準備しないといけないなと思った。



 数日後、大型製作機を入植地に運び終えた貨客船プリウム一世は移民船旗艦の横で待機していた。

 フェンラールにしてみれば運び込む荷物はまだまだ多いのになぜうちの艦が護衛の仕事をしなければいけないのか疑問に思う。

 おまけに開拓地からは家具の製造方法についてしょっちゅうフェンラールの船に相談が持ち掛けられる。

 正直無視したいところだが船団長から相談料の振り込みもあり、断るわけにもいかなかった。


 合成木材の種類は好きに選べるというので家の建材は基本的に黒檀が使われ、飾りの部分や家具にはマホガニーを使うと聞いた時、贅沢な使い方だなとフェンラールは思ったものだ。

 家具のデザイン的には地球で言えば伝統的なアールヌーボ調にちかいデザインをつかわれている。

 ベッドも家の主人とその家族は天蓋付き大型ベッドで、使用人たちは二段ベッドといった感じだった。



 フェンラールからすれば、この人たち一般市民に本当になる気があるのかと言いたくなる相談内容だった。

 フェンラールはシリウス王国にいた頃から、裏のルートでアマテラス銀河連合の製品を手に入れて使ってたほどアマテラス銀河連合製品やその文化には慣れている。そのため王侯貴族の権威というものに王族でありながら否定的だ。

 家なんかアマテラス銀河連合の標準家屋のパーツを調整するだけの特殊なプレハブ工法で十分だと思っている。

ただ船団長らの判断も分からないわけではない。軋轢を減らすための特別扱いなのだろう。


 この件が妙なことにつながらなければよいなとフェンラールは真剣に思っていた。

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