第20話 感傷
ラングウェイ宇宙・天の川銀河南西宙域γセクター領域。武装輸送艦プリウス一世・統合指揮所。
フェンラールは航行状態をみつつも、わき目で宇宙ニュースチャンネルのニュースを見ていた。それと同時に、船団長から壊滅したと思われる居住惑星の一つに物資の運び込みを依頼される。
事前調査が終わり、どうやら文明の消滅を確認したらしい。これで本格的な入植が開始される。
シリウス王国とは敵対派閥だった王権連盟の国の一つの所属惑星だったことをフェンラールは知っていたが、滅んだ以上いまさらどうしようもない。
彼らの多くは転生できない存在だっただろうことが感傷を感じさせる。セツ・サダ・セレナ・グレンデルトの支配していた天の川銀河で転生ができたのは各国家の支配階級でも、シトラス政府に莫大な金額を献金ができた者たちだけだった。
そのうえ、フェンラールのいたシリウス王国では歴代王の何人かが転生していただけで、他は通商連合共和国の横やりで転生申請すら出来ない状態だった。
そのために、通商連合共和国に高いお金を支払って、精神複製体とクローンの開発を進めていた。その結果がエスカレートしてオリジナルの人間がほとんどいない状態に陥っていたのだ。
その資金すら、地球などで確保した人型殲滅兵器のジョカや愛玩奴隷人類の売却などで得た資金や通商連合共和国の敵である国家の商船を襲って収奪した資金だった。
自分は最後の王族として、責任を放棄して逃げたわけだが、そのことに後悔はない。あのまま祖国にいても祖国の展望はなかったし、自分の将来も決して明るいものではなかった。
逃げたが通商連合共和国への恨みは忘れていない。自分たちも多くの無辜の民を破滅させてきたが、その原因は通商連合共和国にあったのは紛れもない事実だ。
特に十家の関係者やシリウス以外の通商連合共和国所属私掠船団の連中には反吐が出る。
祖国の改善を行うには外の情報と技術が必須だった。だからアマテラス銀河連合に逃げる道を選んだ。しかし、祖国は滅んでしまった。
天狼星こそ残ったが、スタークエイサーの使用で、シリウス領有の恒星系のすべてがエネルギーと化して消滅した。
それを行ったのも通商連合共和国の僭主の一人だというのだから、今まで泥水を飲んでまで通商連合共和国に忠誠を誓ってきたシリウス王国歴代の王の苦労は報われない。
そのおまけに、通商連合共和国の技術で作られたクローン製造設備にかなり問題があったこともイサから連絡があって知らされていた。
ジョカやクローン、作られた愛玩人種人類の精神操作や生命維持を操作する仕掛けが施されていたらしい。ただ、ジョカのほうについては制御が完ぺきではなく、おそらく制御から一定時間で制御が破綻するとのことだった。
生命維持に干渉を与える仕組みは、複数の波長の光を変調させた一種の光信号を目に照射させて受諾させることにより発現するという凶悪なものだった。
叛乱発生時に鎮圧を楽にする目的で導入されていたらしい。
フェンラールには無かったが、部下にはその形質遺伝子があるものがいた。しかしそれはイサの行わせてた遺伝子交換処置により除去済みとのことだった。なんでも戸籍登録時に処置を行ったそうだ。
地球の人類に少なくない数にの形質が付与されているそうだ。アマテラス系の人類には抵抗能力があるから、たとえ形質があっても即死したり、操られたりすることは少ないそうだが、混血が進んでいる以上楽観はできないそうだ。
フェンラールが感傷に浸っていると船団長から追加の連絡が入る。どうやら移民の追加があり、その移民をフェンラール達が向かっている惑星に入植させるそうだ。
さらに物資の追加調達も依頼される。惑星で降下して資材をおろしたら、一度、中央次元に戻って調達してきてほしいとの事だった。
忙しくなるなとフェンラールはつぶやいた。
「あれが我々の新天地か・・・。」
イワンの言葉にベンノ伯爵、いや元伯爵が頷く。
「地表面と海中の放射線低下処置が今は行われているそうです。」
二人の前のディスプレイには居住型惑星の映像が映し出されていた。
緑色の海を持つ惑星だったが、若干雲が厚い様子だ。移民船の司令部からの情報によると兵器による大規模核融合爆発による粒子照射の影響が出ているとの事だった。
それでも動きの遅い分の粒子線やそのほかの高エネルギー波はすでに対処がされ、銀河の中の惑星にこれ以上影響はないそうだ。処置をしなければ被害範囲がとんでもないことになっていたそうだ。
「我々が割り当てられているのはあそこの大陸か・・。」
「すでに行政施設の建設は始まっているそうです。」
イワンはふっと息を吐いた。
「我々が一市民となるとはな・・・。」
「仕方ありませんが・・・・逆に責任を負わずに済むのですからよかったと考えましょう。」
ベンノの言葉にイワンはうなずくしかない。
「・・・メッサリーナにはずいぶん手を焼かされたがな・・。」
「奥様はランドレイト公爵家のご出身でしたね。」
「平民になるのは嫌だの、祖国に戻るだの・・・ヒステリーを納めるのに苦労した。そちらはいかがだったのだ?」
「私のほうは幸い妻も娘も理解がありましたね。やはり知識挿入を早めに行った効果でしょうか。」
「それもあるだろうが・・・・・性格だろうなぁ。」
二人はふっと息を吐いた。
「さてと、これで積み下ろしは完了と・・・・。」
フェンラールは指揮所の艦長の椅子に座りながら安心の息を吐く。
『第一班、作業を終了し、艦に帰着いたしました。』
「了解!問題はなかったかな?」
『地表面の放射線が高いことを除けば・・とくには。』
「さすがにそう短時間で放射能を除去はできないよね。」
『居住型惑星でこんな船外作業服をきて作業することになるとはおもいませんでしたよ。』
「うちにあるのは軍用品の装甲服だけだからなぁ・・・。さて点呼も終わったし、後片付けがひと段落したらすぐに出るよ?」
『了解です。』
フェンラールはピーリンの返事を聞きつつ、船体各部の状態を確認する。すでに搬出ハッチは閉鎖しており、出入り口のロックも完了している。
通商連合共和国への恨みを再確認しつつも、今は一つずつ、前に進む時だとフェンラールは覚悟を新たにした。
天の川銀河中央星系中心惑星クラヌス・新管理官ビル・執行官執務室。
「いやあ・・・・・やっぱり新しいというのはいいねぇ。このシステムのラグのなさ。AIジェネレーターのカスタムのしやすさ。思考の伝達のスムーズさと暴走のなさ。」
イサのことばに班員達はそろって苦笑していた。
「まあ、いままでが今まででしたからね。これで銀河系全体のシステム構築が進めれるってもんですよ。」
ラナンの言葉にラキなども頷いている。
そこの連絡が入る。
「・・フェンラール達が一度こっちによるってさ。」
「あの人たちが?中央次元で仕事してるものとばかり思ってましたが・・・。」
「移民局からの横やりがあったらしくてさ。あそこの局長やり方が強引だから・・・その説明もしたいそうだ。」
「あ~~なるほど。惑星内のセキュリティも強化できたし、問題はあんまり起きないはず・・・・・。」
「まあ、おきたらおきたらですよ。フェンラールさんたちが殺されても転生できる状態だし、以前ほど深刻ではないですね。」
ラキがドライなセリフを吐く。
「あ~~ラキ君またそんなこといってるし・・・だから女にもてないんだよ?」
「ラナン先輩に言われたくはないのですけど・・・・。」
「私にはイサ先輩がいますから。」
「・・・拗らせて籍をいれてないかたに言われたくないです。」
イサはそれを聞いて一瞬顔に手をやった。これはラナンの地雷を思い切り踏み抜いた。
二人の言い合いがどんどんエスカレートしていく。
「班長とめないんですか?あれ・・・・。」
「地雷を踏み抜かれたらラナンはとまらない。あそこに口を出す勇気は俺にはない!」
「班長が地球で亡くされた方を思っているというのが引っかかるのですが・・・・。」
「俺的には吹っ切れたつもりなんだが・・・・ラナンに言わせるとそうではないそうだ。ナミの奴の復活の目がある以上、あきらめるなとのことで・・・。」
「崩壊したシステム中から探し出すのはすごく大変そうですね。」
「いくつかの欠片は確保したが、人格を再生できるほどは集まっていない。生きてる人間から精神体引っこ抜くのも問題あるしさ・・・・」
「あ~~なるほど。」
「あと復元したとしてナミがそれを望んいるかどうかはわからないってことだな。」
「それってラナン先輩が単に未練を完全になくならないと納得できないだけなんじゃ・・・・。」
「しぃ!聞かれたらことだぞ・・・。俺は聞いてないからな!!」
騒がしいイサの周りだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます