第18話 外交折衝
アマテラス銀河連合・中央次元・中央銀河・中央星系・首都星ミネアリア・テラス・官庁街外務省庁舎・旧統治宇宙渉外課。
渉外課のオフィスは数多くの思考操作システムのディスクがあり、課員が自分のブースで執務を続けている。
そこへミドルオールドスオペースからの連絡が入ったと放送が鳴る。
「イワタニ君いってね。」
課長のセン・レタリカに言われて今まで天の川銀河周辺の国家との交渉案の素案を作っていたイワタニ・マナブは嫌な顔をした。
「課長、こっちのタスク多すぎるんですけど・・・応援は?」
「ちょいまち・・・・だれか空いてればいいんだけど・・。」
「・・どうせなら管理官学校卒業者の新規採用枠ふやしてくださいよ。職員の増員は逼近の課題ですよ。」
「わーてるって。こっちはこっちで・・・・イササキ!いまの仕事後回しでいいから、新規採用のためにヘッドハンティングの素案つくれ。未経験相手でも構わん。それはそうとイワタニ、また未開文明国家の面会者だ。話だけは聞いておいてくれ。どうせけっぱなすことになるんだろうけど・・・。」
「・・・またですか・・・。そういうのになんで係長の俺をまわすかな・・。」
「仕方ないだろ。プライドだけは向こうさん高いからな。役持ちが対応したというお土産だけはもたせてやらんと面倒だろ?いま給湯室で休憩してるナガヤ君とタテ君をつれてけ。」
「へいへい。」
マナブは自分の思考反応システムディスクに手を振ってロックをかけると立ち上がる。わきのパネルにかけていた灰色の詰襟の上着に袖を通すと、上着のシステムを思考で動かし、しわを取る。それから詰襟の爪をとめて、部屋をでる。
しばらく歩いて給湯室にいた二人の女性に声をかける。
「ナガヤ、タテ、仕事だ。課長からの命令だぞ?」
その言葉に、なかでだべってた二人の女性は一瞬嫌そうな顔をした。
「イワタニ先輩、今度はなんですか?」
「また、どっかのお馬鹿さんの国の賠償請求とか?」
「どっちも違う。ラングウェイ宇宙のテネル銀河にあるイラリオン王国という国からの同盟のお誘いだ。まあ、結局断るんだがな・・・。」
「また、面倒な仕事ですね?」
「あと、こっちが保護している移民船団の人員と移民船の返還要求もある。」
「特大に面倒ごとじゃないですか!!」
「返還におうじるかどうかについては、フリーハンドだ。」
「ひとそれを丸投げという。」
ナガヤの言葉にマナブは一瞬言葉につまる。
「まあ・・・・面倒なら最初から捕虜収容所送りにしちまえばいい。どうせ、こっちの要求は向こうさん拒否するだろうし。」
「私だって、言われたら普通拒否しますよ?すぐに全面降伏して、こちらの指導を受け入れよ。ですもん。」
「仕方ないだろ。そうしないと、再併合事業が成り立たん。」
「外務官僚として非常にやりにくいです。」
「何万年も続いている国策だから仕方ないだろ。」
「次善の案の保護国化にしても、たぶんうけいれないだろうしねぇ。」
マナブは肩をすくめた。
三人はそういいつつ廊下を歩いて行った。
外務省庁舎を出て、五人の男女が歩き始めた。
そして一人の男性が振り返って怒鳴る。
「最初から前面降伏しろとは外交のガの字もしらん未開国家め!!」
周りにいた男女が首を振る。
「シーメント侯爵、落ち着きましょう。」
「ベンノ伯爵、これが悔しくないわけないだろ!!?」
「まあまあ・・・・仕方ない部分もありますよ?現実問題として我々の船は時空次元上の別の宇宙にすら移動できないのですから・・・未開国家扱いを受けるのも仕方ありません。」
イワン・ヴェルクス・ノア・シーベントは悔しくて仕方がなかった。こちらの星に来るまで、自分たちの船での移動ができないからと、こちらの大型母艦に収容されての移動。
そのおまけに高次元宇宙や時空宇宙、通常宇宙の構成についてのレクチャーまでうけるはめになった。
本来このような技術の類は隠すべき技術という認識がイワンにはある。しかし、アマテラス銀河連合の担当者は惜しげもなく、まとまった数の技術の開示をしてきた。
外交的にあり得ない事である。このことが意味するのは、アマテラス銀河連合は一切外交相手としてイラリオン王国を見てないということを意味する。
外交相手として見ない事への説明も一応はあった。テネル銀河のあるラングウェイ宇宙自体がそもそもアマテラス銀河連合により発生させられた宇宙であり、当然のごとく、その統治権は一切合切アマテラス銀河連合にある。
その後の独立文明だろうが何であろうが、そういう理由なのでアマテラス銀河連合の指導下にはいるのが当然である。
それを聞いてイワンは激高仕掛けたが抑えた。正直、造物主気取りなのかともいいたくなった。
むこうが譲歩として示したのはイラリオン王国がアマテラス銀河連合の保護国となり、将来の共和制移行を受け容れるようにという内容のみだった。
思いっきり上から目線である。なんなんだこの傲慢な奴らは思いながらも顔にださないようにするのが手いっぱいだった。
そこまで我慢していたのに、向こうはさらに致命的な一撃を加えてきた。
それは文明論に関することであり、王政は科学技術が惑星内の国レベルから恒星系レベルまでが適正であり、恒星間国家レベルになると不適当で、社会的活力をそぐだけだとはっきり言ってきた。
社会制度そのものの不安定さがその要因の一番にあげられるとか、いくつも具体例を示されて、正直、複数の恒星系をもるイワン達イラリオン王国は不適正な国家形態とまではっきり言われたのである。
さすがにこの言葉にイワンは怒鳴りつけた。
しかし、むこうの外務官僚はまったくそれすら相手にしなかった。
結果、実質的につまみ出されて今に至っている。
外務省庁舎、面談室。
「イワタニ先輩、結局、コロニー提供の話はできませんでしたね?」
「どちらにせよ事実のウラどりがおわってからだ。いまはまだ情報収集段階だ。」
マナブにしてみれば、正直こんな仕事で時間を取られたくない。面倒だから譲歩してやりたいところだが、規則があり、そうそう簡単に譲歩はできない。対等な軍事同盟なんてもってのほかだ。
アマテラス銀河連合が恒星間国家に王政を認めてないのは、科学技術の成長が著しく阻害されることを知っているからだ。そのうえ科学術により、生活格差のヒエラルキーは王政国家だととんでもなく悪化する。
独裁権のある首長のもとで、民主共和制を敷くのが一番効率がいい。独裁権というと全体主義とか国家社会主義を思い浮かべる人が多いが、実際のところ、そういう仕組みとは一線を画している。
判断しなければならないタスクが増大し、即断即決が求められるタスクも恒星系間国家では増大する。議会でのんびり話し合いをできる状態ではないのである。能力を強化され、そのうえ政治的、社会的、科学的技術を習得している人間が独裁権を持たねば国が成り立たなくなる。かといって民意を無視することも不可能だ。そのジレンマを解決するのがエネルギー通貨制度と管理官制度による被選挙権者になるための政治教育と心理学教育の義務化である。国民全体としないのは向き不向きがあるからというのと、本人の意思が重要だからだ。
そのうえ使える時間の関係上、工業に携わる人間にはほとんど不要な知識や教養だったりするので社会活性の関係上、志願者のみが学べる機会がある形になっている。
その日のミネアリア・テラスのニュース番組。
『テネル銀河への出兵が大統領が命令書に署名されたことによる実施が決定しました。この動きについて・・・・・。』
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