第17話 移民船団
天の川銀河南西領域βセクター。
「艦長、こっちのほうもうちの艦は突破できそうにないですね。完全に銀河を包囲されてます。つっこんでデルタワンの連中みたいに拿捕されるのが落ちですよ?」
うんざりした様子でアンタレス連邦軍の航海士であるディケンズ中尉は上官にぼやき気味に報告した。
艦長のフェル・ベネット大尉も苦い顔だ。
「レネルベルクト帝国軍の情報を取るためとはいえ、粘ったのが間違いか・・・・・。」
「このまま補給がなければ、三十日ほどで我々は飢え死にです。しっかし、帝国もよくあのおっかない連中相手に喧嘩うったもんです。」
「未開文明だという噂だったが・・・・・あれのどこが?といいたくなる。情報をあつめた限りでは向こうも共和制国家らしいが・・。王政国家を属国にしているようすだな。」
ベネット大尉としても、どうにか状態を打開して、この銀河を脱出して母なる銀河へ帰り、こちらの情報を祖国に持ち帰りたい。
しかし、それは絶望的だ。銀河の境界部分に不可視の壁が展開されており、突破することができない。
次善の策としては、ここはグレーゾーンでアウトローな連中が利用しているコロニーに寄港して、積んでいる希少金属をどうにか売りさばくかなにかして、食料を手に入れないといけない。幸い船の推進機関の燃料は向こう五十年は稼働可能な状況だ。
そんなことを考えていたところ、突然レーザーと思われるビームが着弾した。
船が一瞬揺れる。
「損害報告!リオン通信士、相手からの通信は?」
「通信は聞こえるのですが、言葉が理解不能です!」
「被害はシールドシステムに多少負荷がかかっただけのようです。」
「船の形式から、おそらくこちらの民間輸送船を改造した武装船のようです。相手の船の数は三。」
「・・・クソ宙賊か!シールド突破ミサイルを保持している可能性がある。最大船速で離脱を図る!!」
フェンラールは移民船団とともに天の川銀河南西領域天頂方面γセクター宙域を目指して航行していた。
フェンラールは艦長の椅子に座りながら、これからの人生をどうするか考えていた。
このまま仕事をしながらある程度年を取ったら、転生申請してだれかの赤ん坊になるというのはなしとして、テメロアの長さを調整した自分の完全クローン体を十五歳くらいの年齢に調整してそれに転生し、若返るのも手かなと考えていた。
ただ、イサからいわれたが、シリウス王国の王族であるゆえに、フェンラールの遺伝子はかなりホモザイゴートによる劣性遺伝の形質があるそうだ。そのせいで子供ができにくい。
お金はかかるが遺伝子調整したクローン体への転生が適当かなとも思う。
そんな思いにとらわれて居たら、いきなり通信が入る。
『・・アルドネス船長。いまレーダーで捕捉したんだが、一隻の船が宙賊船に攻撃されている。申し訳ないが、足の速いそちらの船で救出にむかってもらえないだろうか?』
フェンラールは結局その役割をやらされえるのかとため息をついた。
「マルコム船団長、構いませんが、この借りは高くつきますよ?」
正面の画面にうつるマルコム船団長と呼ばれた口ひげの男性は肩をすくめた。
フェンラールがすぐに指示を出す。
「船団長から指示された宙域に遠距離射撃を開始。間違っても被害者にあてるな!」
アイアイマム!と返事を返し、この船の戦術長を務めるアイナは思念操作でその場に相手艦船との距離、予測軌道すぐに演算させ、九門の超光速プラズマ砲で攻撃を開始した。
「航宙長!船を目的宙域へ進路変更して加速を開始。」
返事がかえってくると同時にプリウム一世は船団から離れ、加速しつつ、宙賊に狙われている船の救出に向かった。
宙賊船は三百メートル位の小型輸送船がベースだが、相手の足を止めるための装備がかなり増設されている。そのうちの一つである強制トラクタービームが被害者の船を捉えていた。
その捉えていた船が、突然爆散した。
プリウム一世の攻撃がエネルギージェネレーターに直撃したらしい。
宙賊船は慌てて回頭したが、そこにさらに1000メートルくらいの中型の宙賊船数隻ががワープアウトしてきた。
プリウムの司令所でフェンラールが苦い顔をしていた。
「・・・相手中型艦船の船籍をスキャンして確認して。」
情報分析官のピーリンが返事を返す。
「まあ、お嬢様の予想とはずれないと思いますよ。確認完了・・・・・アレアクサ私掠船団のワーフ、モビット、ラインゲルと一致。」
「よりによってあの腐れ外道の船か・・・。移民船団に増援要請。」
「増援たのまなくてもこの船で片付けれますよ?」
「どちらのお客さんを逃がさないようにする必要があるからだよ。たっく・・・なんで貨物船が武装商船のまねごとをしなければならないのさ?」
「この船型落ちとはいえ元アマテラス銀河連合の正規駆逐艦ですしね。」
「最新型に近いってあのとき飛びつかなきゃよかった・・・。こんなことなら。ミサイルサイロ残しておくべきだった。」
「別段、高コストのミサイルは必要ないと思いますけどね。」
そうこうしているうちに向こうからのレーザー攻撃が何発かプリウム一世に直撃するが、当然のようにシールドに傷さえつかない。
そうこうしているうちにプラズマビームを照射状態のまま、砲塔を動かし、容赦なく、そのビームで宙賊船を船体を切断していく。
中型船も三分割され、次の瞬間に爆発する。
プリウム一世が戦闘をしている間に、移民船団の宙防艦が二隻、被害者の船のまわりに展開して、宙賊の攻撃から船を守り始める。
さすがに小型船一隻と中型船一隻を破壊されて、宙賊側は不利をさとったらしく、慌てた様子で加速していく。しかし、それを逃すフェンラールではなかった。
「いままでの恨み、その身で味わえ!!!」
フェンラールのその声とともに宙賊船二隻がプラズマビームの照射をうけて爆発する。
残る二隻の小型艦は這う這うの体で逃げていくがそいれも横合いからのミサイル攻撃で撃滅される。
アンタレス連邦強行偵察艦アブンヘッド。
「救援艦隊から連絡が入っていますが、どうしますか?おそらく言葉が違うので、コミュニケーションがとれない可能性が大ですけど。」
ディケンズ中尉のセリフにベネット大尉はすぐに決断を下す。
「ここまできたらかまわん。通信を開け。」
フェンラールは船団長と救護した船の通信を眺めていて、こりゃさらに面倒ごとだなと思った。少なくても天の川銀河領域では標準語としてのエスペラルが使われており、その原型の言葉になったアマテラス銀河連合人工言語乙三型はいまだにアマテラス銀河連合で使われており、言葉で困ることは少ない。
以前フェンラールが赴任していた地球はアマテラス銀河連合人工言語乙三型を原型としながらも、いくつもの言語が派生していたが、これはシリウス王国の策謀というか通商連合共和国の実験のせいだ。
言語解析AIなどの協力もあり、その後一時間ほどして、互いに言葉を伝え合うことが可能になった。
それをみていたフェンラールは言語解析まで短時間でできるんだと感心していた。
ただ問題は、言語が通じなかったという事は天の川銀河以外の銀河系で、いまだアマテラス銀河連合の統治下にない国家である可能性が高いことだ。
しばらくして、宇宙軍の大型母艦がやってきて、彼らの船を収容していくこととなった。
大型母艦は全長百キロメートルを超える葉巻型の宇宙船だ。移民船団のマザーシップもこれの同型だが、サイズが小さく全長は十キロメートルくらいだ。それ自体がコロニーとして利用されることもあるアマテラス銀河連合では古くから運用している伝統的な船だ。
もちろん形はあまり変わってないとはいえ、二、三年に一回ほどは型が新規のものになるので、いまの運用しているシロモノはみな最新型の設備を備えている。
型落ちした大型母艦は地方星系の固定コロニーして用いられることが多い。理由としてはやはりコロニーとして使う場合のコストの安さだろう。
天の川銀河中央星系惑星クラヌス。
イサはここ最近の別銀河の偵察艦や移民船が天の川銀河の領域内で拿捕されるという事件が次々起きて、頭を悩ませていた。領域封鎖でこれ以上入ってこれないが、封鎖前に入っていた船がそれなりの規模で存在しているのだ。
「これの処理も一歩一歩かな・・・。」
ため息が深くなるイサだった。
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