第二章 天の川銀河再併合事業

第15話 レネルベルクト帝国

 天の川銀河歴10460年二月十一日。レネル帝国歴862年三月二日。

 レネルベルクト帝国首都星系ベルクト帝星ベルマール・レンネンベールト宮殿。

 この日、帝宮であるレンネンベールト宮殿の一室で皇帝を含む閣僚たちが会議をしていた。

 一人の男性が不可解そうに口を開く。

「・・・・隣の銀河が観測も侵入もできなくなったと報告がはいっております。」

 別の男性が胡乱な目をした。

「リーン軍務卿、報告は正確になされるべきでは?観測できなくなったなどありえんはなしです。」

 リーン軍務卿は肩をすくめた。そして会議机のインターフェースを操作して、入ってきた情報の詳細を会議室の中央にある球形ディスプレイ装置の周りに長方形のディスプレイを表示させて表示した。

「帝国時間の二月二十五日にこのような現象が観測されてます。」

 銀河系が消える瞬間を捉えた映像が流される。そしてX線などによるアクティブ観測を行っても状態が変わらないことを偵察艦が確認したことをその場の皆が理解し始めると、いっきに騒がしくなる。

 それもそうだろう。銀河が観測できなくなるなど普通はあり得ない。

「あくまで推測ですが、先日の偵察艦隊の偶発的な衝突が原因ではないかと。」

 リーン軍務卿にしてみれば、詳細な相手の科学技術に関するデーターを見ていて現状では敵対は愚策と思っている。しかし、軍務の長としては、閣議での偵察艦隊を使った紛争化の方針の決定には従わざるを得ず、皇帝陛下にも奏上したが、あまりいい感触を得てない。

 正直これで相手が手を出さず、おとなしくしてくれるなら思わる拾い物である。その間にこちらの科学力を上げなくてはならない。向こうは現在抑制的な政策をとっているが、それがいつまで続くかわからない。

 ましてやスタークエーサーを通商連合共和国に提供した以上、危険性をしって引きこもって貰う分には大歓迎だ。

 これがほかの閣僚たちのように開戦して、他の銀河に侵攻となると、相当の苦戦が予想される。

 いつ準備したのかわからないが直径一万六千メートルを超える軍事要塞を、該当銀河の周辺に均等に配置できるだけの軍事力と経済力を相手は持っている。

 一銀河のほんの一部の領有だけでとどまっている我が国が手を出すには大きすぎる相手だ。

 しかし、皇帝陛下を含め、ほかの閣僚たちはどうもそのあたりの危険性を理解できてない。スタークエイサーの実験ができたことで気が大きくなってるのだろうが、あんな殲滅兵器はそうそう使えるものではない。

 幸いこちらの人口は多めで、移民先があればそれに越したことはないが、かといってスタークエイサーを打ち込んで相手方を殲滅し、そこに植民するという現在の方策は危険だと言わざるを得ない。

 現に、スタークエイサーをつかった人工超新星爆発を直近で受けてたにもかかわらず、相手の艦隊は無傷だったのだ。通用しない敵に対する対策を立てるべきだとなんどもリーン軍務卿は閣議で提案しているが、周りからは否定的な意見ばかりが出る。

 かといっていま自分が軍務卿を辞したところで、別の人物が立って余計に状況をエスカレートさせるだけだろう。祖国を守るためには自分がここで踏ん張るしかない。

 そもそもの他の銀河への進出機運の発生原因は、隣国イスタリカ連邦との戦争が膠着状態であることだ。

 向こうもスタークエイサーに類似した兵器を開発しており、それの打ち合いになれば双方とも共倒れが確実である。ライスーン王国あたりが漁夫の利の得るのが目に見える現状だ。

 皇帝が口を開いた。

「リーンよ、例の拾った連中の兵器をイスタリカとライスーンに運び込む計画はずは進んでいるか?」

 リーン軍務卿は頷いた。通商連合共和国との取引で得たジョカという見た目は人間そのものの人型惑星殲滅兵器を相手の国の人種に適正化して送り込む計画が立てられていた。

 その進捗状況は驚くほど順調だ。

 リーン軍務卿としてはこの兵器の非人道性が気にかかっていた。ある意味スタークエイサーをつかった大量虐殺よりわかりにくい分だけえげつない虐殺兵器だと思う。しかし、賽は振られてしまったのだ。

 リーン軍務卿は気が重くなりつつも現状の計画の進行度合いをその場で報告した。



 アマテラス銀河連合・中央次元第三星域・捕虜収容所。

「なぁ、ここってどこなんだ?」

「わかるかよ?向こうさんもおしえてくれないだろうし。」

 収容所の食堂で、レネルベルクト帝国第六軍第二艦隊所属偵察分隊に所属する士官二人が向かい合ってコソコソ会話していた。

 そこに一人がやってきて隣に座った。

「イーレン少佐もナラート大尉も、いまさら騒いでもどうにもなりませんぜ?」

「ベンゲンハルト少尉・・・それはどういう?」

 上のほうにあるディスプレイのニュース番組をベンゲンハルトが親指で指さした。

『ミドルオールドスペースのひとつにある天の川銀河での星系壊滅事件について続報をお伝えします。事件に使用されたスタークエイサーと呼ばれる兵器を供与したとみられるレネルベルクト帝国を名乗る勢力の存在するテネル銀河ならびに、ウィーレル銀河団に対しての出兵議決が、上院軍事委員会に引き続いて、上下両院評議会で議決されました。これにより大統領令による出兵が行われる公算が高まりました。また・・・・・・』

 そのニュースを見ていただろうその場のレネルベルクト帝国の士官と下士官が騒ぎ始めた。

 それを眺めつつベルゲンハルト少尉とよばれた男性が首を振る。

「やっこさんたち俺たちに隠す気ゼロです。いまのニュースは昼のニュースですが、俺は午前中のニュースであの内容を知りました。」

 イーレン少佐とナラート大尉がつばを飲み込む。

「・・・・やっこさんたちにとって俺たちは象に踏まれるアリみたいなもんです。申請すれば俺たちにもこちらの国の制度などに対する学習機会は自由にえられるみたいでね。実は午後一番に俺の番がまわってくるんです。ご丁寧に記憶挿入装置をつかうか、ペーパーの教科書をみるかも選択式でしてね。」

「記憶挿入装置が存在しているのか?」

「みたいですね。ただ、記憶挿入装置をつかうと洗脳を疑う捕虜もいるというのでペーパーの教科書という原始的なシロモノまで用意しているそうです。今回は念のためペーパーを申請しておきましたが、後日、記憶挿入装置をつかうこともできるとかで・・・。まあ、ペーパーの内容を吟味してから試してみますよ。」

 そして、その日の夕方、三人は談話室でその件の本を開いては唸っていた。

「複数の次元を統治している時点で、頭がこんがらがりそうだ。」

「・・・ご丁寧に次元航行システムの説明までされている。うちの船が最新鋭だとおもってたのに・・・・こっちではすでに過去の技術段階にすぎないと・・・。」

「これもちかえれたら勲章ものだぞ?」

 イーレン少佐の言葉に二人が首を振る。

「それは五、六歳の児童が記憶挿入で学ぶ内容らしいですぜ?」

「許可はされそうだが、持ち帰ったところで、すでに国はなくなってそうだ・・・・・。」

 後日試しにベルゲンハルト少尉が記憶挿入を試してみることにした。あとの二人はベルゲンハルトの状態をみて決めることにした。

 そして数日後、三人はまた談話室で集まり、ため息をついていた。

「・・・アマテラス銀河連合は正真正銘の巨像だな。」

「おまけに捕虜収容所の場所まで隠す気なしときた。どのみち我が国の船では到達すら不可能だがな。」

「どうします?」

「騒ぎを起こして脱出できたとしても、そのあとの伝手がない。なによりここまで好待遇なのも俺たちが反抗的でないからだろう。確認したが、我が国が陥落した時点で、準国民扱いをうけれるようになるそうだ。したがってそのあとは職業訓練をうけたりして、職について稼いで、国に帰りたくば自分で稼いでかえれってさ。」

「準国民あつかいで毎月給付金と食料のレーションと衣類はうけとれるらしいがな・・・。」

 イーレン少佐の言葉に二人は肩をすくめる。

「生活環境が違いすぎてなんともいえませんね。」

「故郷に家族を残してなければ・・・正直こっちで生活したい。貴族士官どもの犠牲になるのはもうこりごりだ。」

「給付の件で一見社会主義かと思いましたが、そうでもないみたいですし・・。」

「社会基盤が整っているからこそ、国民すべてに給付ができる。そのうえで、向上心のある人間はさらに稼いで、最低限の生活といっても俺たちからすれば贅沢なくらしだが・・・・・。それ以上の生活ができる。」

「なにより転生システムがあるからというのも理由らしいですね。あくせく稼ぎつづけることは人はできないらしい。どこかで燃え尽きて無気力になる。だから、そういうときのために給付ははずせないのだと・・。燃え尽きてもまた燃え始める時間が与えられるのは必要なことだと・・・。」

「平民以下を家畜扱いしているうちの連中にきかせたい。燃え尽きたら殺して別の人間をつかえばいいなんて兵器でいうからな。」

 三人のため息は深かった。

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