第14話 戦争後の諸問題
イサ達は王権同盟諸国との交渉を終えた。ここまでこぎつけるのに宇宙標準一カ月ほどかかった。
交渉が長期化したのは、各恒星間国家の各恒星系全体に空間情報システム、宇宙管理システム、星系管理システム、恒星管理システム、惑星管理システムなどを導入し、それの管理をアマテラス銀河連合が最初から行うという点について異論がかなり出たのだ。
しかし、そこの点はシステムのセキュリティ的な問題から、現地政府に任せることはできないと、押し切った。
特に宇宙管理システムは転生システム導入における根幹でもある。これが外部から操作可能だと問題が大きすぎるのだ。
交渉の妥結に伴い、中央次元から、システム機材とそれを護衛する艦隊が送られてきた。クラヌスで現地政府特使を拾って天の川銀河の各地へ散っていく。
同時に、中央星系のクラヌスのインフラ整備支援のための工作艦隊も送られてきていた。天の川銀河の中央星系というわりには港湾施設が貧弱であるし、中央省庁舎である管理官ビルも老朽化が目立つから、立て直す方向で話が進んでいた。
ライニールには防衛司令の役職を割り振って、艦隊提督と二足の草鞋を履いてもらっている。
天狼星以外壊滅し、急遽設けた人工太陽でどうにか命運を保っているシリウス星系も、行政局に掛け合って再生管理官をチームで派遣してもらった。
地上の制圧が終わったが、現地の状況は最悪の一言だった。
特権階級の腐敗はもちろん、制度的問題が大きすぎて、それらを全部力づくで解体し、またクローンシステムに仕掛けられた精神制御システムの解除作業を行う必要があった。
現地を軍令下において、治安維持などをおこなっていたスサが珍しくイサに相談を持ち掛けてきていた。管理官学校や士官学校でのヴァーチャル体験で似たような経験は一応積んではいるが、現実に直面するとまたヴァーチャルとは異なる問題に直面するらしい。
再生管理官の到着でようやく政治活動から抜けれてスサはほっとしていた様子だ。中央で官僚をしていたのと違って、政治的にかなり揉まれたらしいことがイサにはわかった。
スサには言えないが、正直劣化した、それも精神制御システムが埋め込まれたクローンばかりの星の正常化なんてイサとしてもやりたい仕事ではない。もっともいまはそれらの業務の一部も天の川銀河の総責任者としてやる羽目になっているから気が重い。
正常な人類が交配して増えていく状態をまずは再生しなければならない。
ホモザイゴート化からの劣勢遺伝が多い現地の状況だと、現地住民の一部を転生させて、遺伝子を調整して正常化に近づける形で調整した肉体を用意し、その人物と交配してもらうという方法と、遺伝子を入れ替えるナノマシンを使って、遺伝子組み換えの苦行に耐えてもらうかしか選択肢がない。
遺伝子組み換えナノマシンの使用は使用者に組み変わるまでに高熱に悩まされる。なるべく全身の細胞を一気に変えないと、拒絶反応から組織が崩壊する危険性がある。調整はAIに演算させつつ、微調整を短時間の間に何度も繰り返さないといけない。
現地住民を全員転生させて、遺伝子調整された肉体に紐づけるほうが楽かもしれない。
ただそこでの問題は精神制御システムだ。これが記憶に存在する状況は転生させるうえで障害になる。制御を外すのに記憶の一部書き換えは免れないだろう。
ほかに完全な手段がない以上、全員転生が安定だろうから、それの予算も問題となるだろう。
イサはそこまで考えて、予算の増額をするのに必要な施策を思い浮かべ、嘆息した。
「一時的にでも極端な経済の偏在化を許容するしかないか。」
ようするにクラヌスのある中央星系に造幣工場を当初より設置する数を増やさざるを得ない決断を下したわけだ。
クラヌス一極集中が想定よりすすむと宇宙地政学的なリスクが増える。中央集権体制の構築は必須だが、それも程度問題だ。とくにエネルギー通貨の供給は、通貨とエネルギー双方の問題となるからだ。
わきにいたラナンがイサの展開している立体ディスプレイの予定書をみて、口をだした。
「先輩、そこまでクラヌスに集中しすぎるのは・・・ここは思い切って、移民局に天の川銀河への移民船を派遣を打診するべきだと思います。移民船なら独自にエネルギー通貨の発行権と発行施設をもってますから、わざわざ星系の掌握をするまえでも対応が簡易です。まずそうなら移民船を別の場所にいどうさせちゃえばいいんですから。」
イサはその言葉に一瞬ぽかんとした。
「・・その手があったか・・・。」
「この間の件で、壊滅した星系に派遣して、居住環境化などの作業もやってもらえばいいかと。」
イサはさっそく移民企画書を班員達に作るように依頼すると、移民局へ出す資料の編纂に取り掛かった。
天の川銀河歴10459年十二月十一日。
この日イサの元へ、天の川銀河南西域天頂方面宙域にて防衛要塞所属の哨戒艦がレネルベルクト帝国とみられる偵察艦隊を発見したと報告があった。
該当艦隊は接近しないようにとのこちらの警告に従わず、偵察行動を続けた為に、防衛要塞から無人ドローン部隊が発進し、交戦に至ったそうだ。
結果的十五隻中三隻を破壊。二隻を拿捕、他十隻に損害を与えるも、低技術だが次元ワープ航法によってその場を離脱されたそうだ。
防衛要塞司令部は拿捕した二隻の乗組員の扱いをどうするかイサに指示を求めてきた。
イサとしては正直面倒くさいことになったなと思った。
レネルベルクト帝国やそれが存在するテネル銀河の事については監査局ならびに行政局から手出し無用というより、いまは天の川銀河の再生に集中するようにいわれている。
監査局長の言葉によると、テネル銀河への大規模派兵の計画が立てられているらしい。天の川銀河への派兵はアマテラス銀河連合としては小規模だったが、大規模とついてるところをみると相当本気でつぶすつもりなのだろう。さすがに銀河ごと処理とはならないことを願いたいが、すでにこちらでは犠牲者が大量に出ている。犠牲になったのは保護国にすらなってない国々や文明圏だが、アマテラス銀河連合の管理下で行われた以上、これは宣戦布告に等しい。
この場合、中央次元の第三エリアにある第一捕虜収容所に送るのが適当だろうとイサは判断する。天の川銀河単体で抱え込むには大きすぎる。
すぐに監査局本局並びに、内務省行政局本局に連絡を入れる。それから司法省宇宙警察本部にも連絡を入れた。
アマテラス銀河連合で監査局は独立行政組織で議会の決議以外の指示をうけつけない。地球でいえばアメリカ合衆国に存在した独立監察官が省庁として常設で存在しているようなものだ。
ただし、再生業務を行う場合もあるので、その場合はその班は内務省行政局文明再生部の管轄下に一時的におかれる形となる。
管理官は階級があがると絶大な権力のある役職に就くことになるが、それが暴走したり、不正を行った場合に取り締まるのが監査局だ。また行政組織の腐敗摘発も業務に含まれる他、国家の管理下にある保護国家や準保護国家なども監査の対象となる。
その関係上、軍人より給与は高い。もっとも忙しすぎて使う暇がない監査局員がほとんどなのだが・・・・・。
この件は、軍の護送艦隊が派遣されて拿捕した船ともども捕虜を中央次元に連れていくこととなった。
イサとしては余計な仕事が増えずにほっとした。それと同時に次元封鎖領域の形成を行政局本局に申請した。
ちまちまと、偵察艦隊の相手をこれから行うのは面倒すぎるからだ。銀河規模で次元干渉を起こすほど強力な重力シールドを張ってしまおうというわけだ。幸い起点となる軍事要塞の配置は終了している。
銀河系自体も、それより大きな銀河団の中心ブラックホールあるいは中性子星を中心に公転している。テネル銀河は別の銀河団なので、一定周期ごとに相手にする必要はあるが、ある程度はこれで衝突は防がれることになるだろう。
正直周期が回るまで待たずにテネル銀河が持つとは思えないイサだったが、銀河系の防衛はこれで問題はかなり減る。
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