第4話 天の川銀河中央紛争

 地球、タクラマカン砂漠某所地下施設。

 この地下施設にはシリウス王国が遺伝記憶に破壊工作プログラムを仕込んだジョカを繁殖させている華北華中から、ジョカを確保して太陽系外へ運び出すための秘密宇宙港があった。

 宇宙港には、大気圏内を自由に航行できるタイプの円盤型シャトルが多数係留されていた。

 いくら地球や太陽系がシリウス王国の統治下にあるとはいえ、宇宙に出れば、場合によっては彼らにとっては不明存在である外宇宙からの侵略者であるネフェリス艦隊により容赦なく殲滅されるから、出荷は夜に行われていた。

 地球から木星の大型ステーションに向かってそこから冷凍睡眠型の大型船で太陽系外に移動するか、金星によってから、太陽内のステーションから、恒星間重力トンネルを使って天の川銀河系のほかの恒星まで一気に移動するかの二つの航路があった。

 この施設で働いている存在の多くがアンドロイドであり、シリウス王国の正規士官は二人いればよいほうだった。あとは現地人を改造した奴隷だった。


 たまたま当直でこの基地に来ていたフェリッサリア・マオ第一狼尉は顔をしかめて居た。フェリッサリアがここに送り込まれたのも、上官のセクハラに耐えかねて、決闘をして上官を叩き潰した結果だった。

「どうも好かんな。人間を兵器として仕立て上げて商品として輸出するなど・・・・・。」

 部下のメイ・バイロン第三狼尉は肩をすくめていた。

「しゃーないでしょうが。我が国は輸出できるような商品がこれ以外にない。しかもこいつらは兵器から普通の人類へは戻しようがない・・・・・遺伝子組み換えナノマシンを精密にコントロールして体すべての細胞を作り替えない限りそれは無理だし。そんな超絶技巧を行えるようなAIシステムはうちの国はつくれないし・・・・。だからこいつらの一部からブレインジェムを作って量子コンピューターの代わりにつかってるんだしさ・・・・。」

「自分の愛機のコンピューターが実は元人間の脳でしたって言われて素直にうなづけるか?私は気持ち悪くてしょうがないのだが?」

「ヒーメーサーマー、そんなことばっかりいってるから王族の癖にこんな場所におくられるんでしょうが!!」

 フェリッサリアはぐうの音も出ない様子だった。

「それより、連絡がはいったんですけど、シトラスが陥落したそうですよ?」

「ほう?あのいけ好かない転生の女神様はどうなったんだ?」

「なんでも逮捕されてアマテラス銀河連合とかいう国の首都で公開裁判にかけられるとか?」

「アマテラス?宇宙では聞かない名前だな?地上ではここのとなりの島国で信仰されている太陽神だったか?」

「その島国の連中がかつてのアマテラス銀河連合時代の生き残りの子孫ですよ?学校で習ったはずですが?」

「む・・・・・。」

「この星の人類はもともとの住人のアマテラス系と我々が生み出したフーギ系があります。アマテラス系と姿は似ていますが、ジョカとして知られる漢族は我々が開発した兵器人種で・・・・まあ、アマテラス系の人類を殲滅する目的で導入された経緯があります。ユダヤ系と・・って大枠では日本人全般もユダヤ系だからアマテラス系ですね。スラブ系は見た目が綺麗な愛玩人種として開発されましたが・・・。」

「わが祖国のやったこととはいえ・・・・自然回帰主義テロリストを作り出してまで日本を分断するようにジョカにプログラムを書き込んでいるのには怖気がする。」

「そのせいで自然回帰主義者で文字すら捨てたアイヌと文明維持論者のヤマトに分かれたんですから。まあ地上の連中は遺伝子の変遷の経過をしらないから別の人種扱いするでしょうけどね。それはそうと仕事仕事・・・・。」

「やれやれだ・・・・。」

 そこに警報が鳴った。基地全体に警報が鳴る。

「む!これはいったいなんだ!!?」

「・・・・・空襲警報ですね。遠距離から・・・・・これは・・・・・超光速プラズマで射撃されてます。これはまずい・・・・地下鉄道で南極に逃げましょう・・・・・。」

「基地は放棄でいいんだな?」

「はい。」

 二人は急いで、タラップを走っていく。時々上の構造物が落下してくる。下に降りて階段を慌てて何段も降りる。

「くっそぅ!!あのヘタレ自称女神め!!」

 メイが悪態をついた。



 シリウス王国首都天狼星惑星軌道。

 ここにはシリウス王国の軍事施設が天狼星を囲むリングのように配置され、そこから次々と円盤状の宇宙戦艦が宇宙空間へ出て行っていた。

 この円環状の軍事要塞はシグナスと呼ばれていた。軍民が生活する生活コローニーであり、シリウス王国の最後の守りでもあった。

 円状の宇宙艦たちは隊列を組み、粛々と進んでいく。

 その艦隊行動はまさに見事といっていいいものだった。


 シリウス王国総旗艦フェーン・リール。

 そう旗艦の指揮所では国王であるリウムシュタットフェルト十五世が玉座に座り、総旗艦幕僚の指示を受けて艦隊各所に通信士官が連絡を入れている様子を見ていた。

 そこへ一人の参謀の肩章をつけた男性が近寄り、敬礼をした。

「陛下、出発の準備が整ったよしにございます。」

リウムシュタットフェルト十五世は立ち上がり指を挙げた。参謀士官がうなずき声を上げる。

「陛下の玉音を全艦隊に伝えよ!」

「アイアイ!通信開始します。」

『よいかみなのもの!我々シリウスは苦難をいくつも超えてここにいる。そしてこんどの苦難も我々が乗り越えれると確信する!よいか皆の者、戦いに励め!!』

「バーンヘイル!シリウス!!バーンヘイル!シリウス!!」

 各艦からシリウスは勝という意味の掛け声が次々と上がった。

「目的地はシトラス中央惑星クラヌス!銀河連合を名乗る叛徒を撃滅するのだ!全艦、発進せよ!」



 同日、通商連合共和国第六星系カナリウス傭兵団本部

 筋肉質の男性が凄みを感じさせながら声を上げていた。

「いいか!今回も俺たちが勝つ!!ラクールの犬どもやベルントールやベンネンレートの連中に戦績でまけるんじゃねぇぞ!!今回の戦は勝ち戦だ!!この銀河のほとんどの国が手を組んで、アマテラス銀河連合とかいう過去の遺物と戦争をする!時代遅れな連中に目にものみせてやれ!!」

 そして男たちはつぎつぎと艦隊を進めていく。

 通商連合共和国は直接の軍隊は持たないが、それぞれの商会や財閥が私兵集団を抱えており、それらがあつまって侵攻軍を組織する。私兵集団は表向き傭兵団となっているが、実質所属財閥あるいは商会の私兵だ。カナリウス傭兵団はそういった私兵団の一つで、現在の通商連合共和国の首班を務めるバイエント商会の私兵だ。そして彼はその懐刀とされる、メリ・モリクソンだ。




 一方のアマテラス銀河連合艦隊はすでに天の川銀河を包囲し、攻撃の開始を待っていた。投入された戦力は36億隻以上。

 惑星より大きい大型艦も含まれているが、軍全体としては1%も投入していない。天の川銀河のある宇宙において遊撃艦隊として運用しているうちの12%ほどである。


 天の川銀河天頂南方領域、アマテラス銀河連合・天の川銀河叛乱勢力討伐部隊総旗艦アマノハバキリ・第一集中指揮所。

 大統領と国防長官により叛乱勢力討伐部隊の司令を任じられたタサ・ナキ五等将は軍の配置を終え、一息ついたところだった。

「わざわざうちの遊撃師団艦隊をこんなところにまわさんでも・・・・。」

 銀河連合の宇宙軍は師団段階においてすべての要素を含む艦隊となっており、陸軍師団に対して艦が陸兵一人と等価である。師団艦隊は標準艦隊とも呼ばれている。

 もっともアマテラス銀河連合には宇宙軍しかないわけで、陸軍・海軍・空軍といった惑星内軍も宇宙軍に内包されていた。

 物資の生産・補給から燃料の生産・補給まで完結しており、乗員が生きている限りほぼ無補給で行動できる艦隊となっている。

 タサにしてみれば、わざわざこんな辺境の戦争に回されたことが不満だった。それもこの宇宙自体、アマテラス銀河連合が過去に生成した宇宙の中でもミドルオールドスペースと呼ばれる種類のいわば不良債権のような宇宙だからだ。

「独立だの自治なんだのかっこつけてるけど・・・・・どいつもこいつも欲の皮のはったことで・・・・。」

 タサにしてみれば独立したがる理由がわからない。独立とかへんな反抗さえしなければ、個人は自由に生きれるのがアマテラス銀河連合だ。十二歳で成人というのもそのころには記憶挿入システムでそれなりの知識経験が濃縮してあたえられているからだし、そこで若い性を爆発させて子供を作ったとしても、国が養ってくれるから心配がない。

 仕事をしなくても、最低限の文化的生活は保障される。ほかの国と違って変な税金もない。事業を行えばさすがに事業税はとられるが、それにしたって微々たる税率だ。

 衣食住が無償で保障されているのになぜ独立したがるのかが理解しづらい。結局自己承認欲求の不足で意地を張ってるだけにしか見えないのだ。

「転生システムの管理は基本的に厳密だし、記憶の保持転生か消失転生かは選べるし・・・・・自己顕示欲のためにそこまで周りを巻き込む精神性が理解できないね。」

 副官のアマノ・ウズメ三等佐がコーヒーを入れて持ってきた。タサはそれをうけとって口をつける。芳醇な香りが鼻を抜けていく。豆はトーリアと呼ばれる品種で酸味少な目、甘目のもののようだった。

「提督、それは世の中の矛盾をすべて解決できればいえる言葉ですよ。矛盾がつねに発生する以上、それに対する反骨精神も発生します。」

 タサは苦笑いをした。

「君にかかると、形無しだな。」

「もっとも、今回の原因はセツ・サダ・セレナ・グレンデルト個人に発するものでしょうね。それが八百年の間に波及した結果。」

「前から気になってたんだが、なぜセツは管理官学校の入学試験を受けなかったんだ?何回落ちても再チャレンジの回数は制限されてないだろ?」

「・・・・私個人の見解ですが、彼女は管理官学校に入学すれば洗脳されて、自分たちの銀河の事を考えれなくなる・・・・とでも勘違いして考えていたのではないかと。」

「・・・・勘違いね・・・・・その勘違いで殺されて永遠に失われた命のなんと多いことか・・・・。これから我々が刈り取る命もなぁ。さて配置も完了したし・・・・そろそろ作戦を開始しますか!」

 タサはそういってコーヒーカップをテーブルの上においた。

「各叛乱勢力の前面にいる艦隊すべてにに伝達、担当叛乱勢力に対して『降伏せよ。しからざれば殲滅する。六宇宙標準時間待つ。返答なければ殲滅あるのみ。』と通告せよ。」

「アイアイサー!担当叛乱勢力に対して『降伏せよ。しからざれば殲滅す。六宇宙標準時間待つ。返答なければ殲滅あるのみ。』と通告。伝達完了しました。」

「さてと、やっこさん達はどう出てくるかな?」



 通商連合共和国首都オリビ・アンテ

 天の川銀河の交通の要衝にその巨大な宇宙ステーションは存在していた。球形であり直径は十万キロメートルを超える。

 通商連合共和国の第十二代主席僭主の声掛けにより建造された巨大宇宙要塞だ。

 首都機能や交易機能を持ちながらも、高度な防衛を行えるということを通商連合共和国は喧伝していた。

 ここが交通の要衝たりえるのは少しはなれた場所に小型のブラックホールが五つ存在し、それをコントロールする要塞が五つ存在していて、ブラックホールを使って重力トンネルをはるか離れた場所のブラックホールあるいは恒星につなぐことで、重力トンネルワープを可能にしていたからだ。

 もっともアマテラス銀河連合ではすでに忘れされつつある技術で、アマテラス銀河連合の艦船は、時空次元の座標を移動することで宇宙の好きな場所、あるいは別の宇宙へ移動できる次元跳躍システムを保持しているので、重力トンネル自体ろくに使わない。

 800年前のセツが天の川銀河を壟断しはじめた時期にもすでに次元跳躍システムはアマテラス銀河連合において普遍的に存在していたが、辺境宇宙のさらに辺境の天の川銀河の勢力はどの勢力もこの技術の開発を断念していた。理由としては跳躍に必要なエネルギーシステムを構築できなかったことが大きい。時空次元上の座標移動は時空座標が離れれば離れるほど類数的に天文学的数字になるからだ。

 したがって彼らが実用化できたのは短距離の次元跳躍のみだった。いまだに緊急時の短距離移動につかうくらいしか使われていない現状だ。


 オリビ・アンテにはγ線レーザー要塞砲が設置されており、その射程距離は二億キロを超える。

 今まで使われたことはあまりない。全くないわけではないのは、宙賊や叛乱勢力が攻めてきたことが何度かあったからだ。しかし、ブラックホールからの所定距離位置に艦隊が現われたとたん、要塞砲の餌食になり爆発四散している。

 アマテラス銀河連合の艦隊が相手とは言え、この要塞砲があれば安全だとオリビ・アンテの市民の多くは考えていた。


 しかし、この日アマテラス銀河連合からの通告が行われたとたん、要塞の防衛司令室は泡を食った状態になった。

 それというのもブラックホールの全くない場所から超光速電磁波通信が行われたからだ。

 しかも観測された相手の質量はオリビ・アンテ以上であり、アマテラス銀河連合が金にものを言わせて要塞を運んできたのではと騒ぎになった。

 防衛司令のチェナ・チッキ元帥は混乱する司令室を眺めながら考え込んでいた。

(・・・・質量の大きいものを運んできたということは・・・・おそらくリエンタール砲対策のはず。要塞主砲を要塞の反重力場でそらすか打ち消すのが目的・・・・。その間に死角から艦隊によって攻撃を加えるつもりか・・・・・。)

「・・・哨戒艦隊を出撃させて、大質量の観測された方向以外をすぐにさせろ。哨戒艦隊は七艦隊すべて出動させよ。また、戦列艦隊は大質量の方向とは逆方向の要塞直上に集結させよ!」

 チェナの命令にすぐに通信士が各地に連絡を入れた。



 一方、それに相対していたアマテラス銀河連合対通商連合共和国艦隊の旗艦トールイールの第一指令所では艦隊提督のニギ・カラ七等将が彼女の長髪をまとめながらため息をついていた。

「・・・・・・・美しくない。」

 隣に立っている副官のハク・セレナル八等佐が白い目で上官を睨んでいた。

「作戦に美しいも汚いもないでしょう?」

 直截なものいいにニギが渋い顔をしていた。

「ハク、あなたねぇ?一応わたしが上官なのにその言い方はなくない?」

「くだらないことを任務に持ち込むからよ。」

 実はこの二人幼馴染であり、暴走しがちなニギを抑えるためにあえて副官としてハクが配置されていた。

「くだらないって・・・・・・これ力攻めよね?作戦もなにもなしの・・・・・・。」

「向こうはそうは思ってないから、あちらの要塞の背後に艦隊を展開しているようだけどね。こういうときは力攻めに限る。余計なことをしないぶん、科学技術の実力差がおもむろに出る。」

「・・わたしとしてはこの要塞を破壊するのを推奨っていう閣下の命令が面白くない。あれ一応、交易都市でしょ?」

「主砲の超光速プラズマビームリニア砲一発でおしまいでしょ。何を悩む必要がある?それに代替施設は運んできている。あれの必要性は全くない、以上。」

 ニギがため息をついて、言った。

「・・・・・返答期限切れ次第、各艦主砲で砲撃を開始。防空戦闘に留意せよ。カウントを開始する。」



 オリビ・アンテ防衛司令室。

「向こうさんから返答はなしか?」

 チェキのことばに通信士がうなづく。

「・・・リエンタール砲のエネルギー充填を開始せよ!発射時刻はヒトマルマルマル。敵機動要塞正面に標準あわせ!!」

 チェキの指令に復しょうがはいり、命令がすぐに実行された。

  二分、一分、五十秒、三十秒、十秒、三秒、一・・・・・・・。

「発射!!発射後すぐに充填コンデンサーすべてに充填をかけよ!連続射撃を行う。」

「閣下!それでは砲身がもちません!!」

「冷却期間を三分とれ・・・・それで砲身の交換準備もしておけ!」

「アイアイ!」

 目の前でやや紫がかかった白い光の筋が正面の巨大な要塞にぶつかるかと思われた次の瞬間それは球体の表面を伝うようにそれていった。紫がかるのは熱崩落の関係で紫外線やそれに近い可視光の発生が多いからだ。γ線自体は透明で視認することはできない。できたとしても目が焼ける。

 その光景をみた防衛司令所は一瞬静かになる。しかしチェキはさらに声をあげる。

「第二射発射!!」

「アイアイ!第二射発射!!」

しかし第二射も要塞表面の球体障壁らしきものに遮られそれていった。

「・・・・敵要塞の表面温度は?」

「依然かわりません・・・。」

「そんな・・・。」

「馬鹿な・・・・。」

 次の瞬間、チカッと敵要塞のあたりが光ったとおもったら司令室はものすごい振動に襲われた。

 振動で机にぶつけてこめかみを切ったチェキは声を張り上げた。

「各部損害を報告!!!」

 それからしばらくしてあちらこちらから報告があがる。

「E785区画からV127区画が消滅。近接区画で隔壁をおろしていますが・・・・電磁放射の被害が激しく、各部との連絡がとれません。被害の状況からおそらくプラズマビーム兵器ではないかと・・・・。」

 次々と被害報告があがるなかチェキは司令の机をたたいた。

「くそったれめ!!」

(技術力が違いすぎる・・・・。プラズマビームだとして・・・あれは超光速加速を行っているだけではないな・・・。被害の大きさからしてレーザー誘起補助もはいってるはず・・・・・・)

「・・・敵から通告がありました。三時間後に要塞を完全破壊すると・・・。」

 チェキは唇をかむと叫んだ。

「・・総員市民の避難誘導にあたれ!!この要塞を放棄する!!」

 司令室の士官たちは敬礼を返した。



 一方、旗艦トールイールの指令所ではハクがニギに呆れた顔をしていた。

「甘いわね・・・・・あの海千山千の商人どもを逃がして大丈夫なの?」

「そっちはすでに手は打った。暗殺ドローンを送り込んでる。一般市民の被害を抑えるのも軍人の務めよ。」

「まあ軍事区画だけを狙い撃ちにしたのはよかったけど・・・・。その市民が反乱分子にならないかが心配ね。」

「それについては軍人の職責の範囲外よ・・・・・。」

「宇宙・文明管理官としては?」

「・・・・・再教育プログラムを作成して、移民局に申請しておく。」

「その辺が順当なところね。さて、ほかの要塞は遠慮なくつぶすよ?」

「ハク副官に一任する。私は休憩してくる。」

「承りました。」

 休憩と言いつつ再教育プログラムや難民運営プログラムの作成にニギが向かうことは明らかだった。

「ったく、人殺ししたくないなら軍人なんてしなきゃいいのに。それはそれとして、各分艦隊に予定通りブラックホールのコントロール要塞を消滅させるよう伝達。予定時刻はヒトゴヨンマル。」

 アイアイ・サーという声が返ってきてふっとハクは息をついた。



 そのころ銀河連合天の川銀河中央星グラヌスの管理官ビルのオフィスでは天の川銀河各部の戦線状況が映し出されていた。

 この場の責任者をやらされることとなったイサは状況を眺めつつ、同期の友人のひとりに連絡を入れた。

「・・・ライネールか?いまこっちの状況をみていたんだが・・・ちょっとグラヌスの守りが薄くないか?」

『久々に電話かけてきたかと思えば、仕事の話かよ。ああ・・それについては司令部から連絡が入っている。そろそろ到着するはずだが・・・・・』

 オフィスの一面に立体ディスプレイが表示され、巨大な球形要塞三十六個がグラヌスのまわりに展開されていく様子が映っていた。

『新型の惑星防護要塞だ。グラスヌ単体には三十六だが、ほかの惑星と恒星にも合計二百四十五個配備される。機動性がいまいちだが、固定要塞としては防御力はピカ一だ。要塞同士をリンクさせて、領域全体に重力障壁を張る機能があるから、一方的に攻撃することも可能だ。』

 話を聞いていたイサはやや呆れていた。

「・・・・心配してるのと逆になったが・・・・・・なんとなく過剰じゃね?」

『向こうさんいまだに主砲にレーザーつかうレベルだが、遠距離用の偏差レーザーを搭載した艦が確認されてる。惑星が人質にされたらことだからな・・・・過剰なほうがいいだろ?』

「まさかいわゆるロマン砲なんて搭載してないよな?」

『そんなもん実用性あるかよ。周りに与えるダメージが防衛戦闘では大きすぎて話にならん。が・・・・』

「が、なんだよ?」

『衛星軌道より上に要塞の防衛線は作られるからな・・・衛星軌道上にロマン砲要塞を設置できないわけではない。防護エリアは調整できるから、そこから撃っても地上に被害が出ないようにできるしな・・・・。荷電粒子砲というか超光速プラズマリニアコイルガンの大きな奴がほしいいんだろ?おまえが自腹きるなら要塞基部の要塞と要塞砲の一個くらいは融通できんこともないが・・。』

「ち、ちなみにいくらぐらい?」

『要塞が二十五億エネルギールートで要塞砲は大体三十五億エネルギールートくらいかな・・・・・。』

「なんで砲のほうが高いんだよ!!」

『撃った時にほかの天体に被害が出ないようにするリンクシステムが高い。現実そんなもんだ。砲弾を特殊にするとそれが85億くらいになる場合もある。安い鉄か水素あたりで手をうつんだな。』

「放射性元素プラズマ弾なんぞつかうかよ!!!恒星系ふっとぶわ!!」

『それで買うのか?』

「・・・・・買おう。」

『振込は・・・・・もうされてるな。明日一番で到着する予定だ。』

 管理官の一定以上の人間は給与のわりに仕事が忙しくてお金を使う暇がないことが多い。かくいうイサもその例にもれず口座には三兆エネルギールート以上保持している。ちりも積もればなんとやらだ。

 そういうことで公務にこういう私財でアクセントを入れることは認められていた。もちろんあくまで任務に差しさわりがない限りだが・・・。

 その様子を眺めていた班員たちは呆れた様子だった。

「でた!班長のロマン砲狂い。」

「無駄遣いを任務で平気でやる神経がわかりません。」

 イサは肩をすくめて。

「うっせーぞお前ら。人の趣味に文句言うな。」

 女性班員のノアが心配そうな顔で口を開く。

「防衛作戦に支障はでないのでしょうか?軍にリンクは・・・・張られてますね。」

「あいつがそんな中途半端な仕事をするはずがないさ。ロマン砲ぶっ放すにしても安全な方向とか、フレンドリーファイアを避ける方法とかいろいろあるんだよ。射程距離の調整が一番面倒なんだよな。恒星系外に余裕で届くから、レーザー束縛場の調整で射程をみじかくせにゃならんし。」

「着弾点での核粒子融合爆破はさせるんですか?」

「三重水素ならありだけど・・・・・鉄でやったら大惨事だな。したがって基本水弾だな。」

「酸素の核融合も結構えぐいと思いますけど・・・。」

「一発で艦隊が壊滅なら儲けものだろ。」

 話している間に軍の回線と戦術リンクをはり、必要な場所にAIを生成して配置しておく。これでこちらの命令で軍を動かすことも可能だ。恒星系防衛司令のサカキからはまたお前かとこちらも呆れられた。

 ラナンがわきで何かを演算していた。

「惑星内のインフラは防御されるけど・・・・先輩のオモチャ衛星軌道から撃つと、星系内の人工衛星の七割が電磁放射で壊れる。まあ・・・向こうさんの使うγ線レーザー偏差砲の収束があまいから、拡散で人工衛星がショートしそうだけど。だから戦闘になればどのみち壊れる目算が高いけどね。」

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