第3話 各地の動き

 シリウス星系首都天狼星の王宮では貴族会議が開かれていた。

「・・・つまり、天の川シトラス・クラヌスは・・・・その銀河連合により陥落したと?」

「その通りです。」

軍務卿の言葉に会議場ががざわめいた。

「・・・馬鹿な・・・・銀河連合は滅んだのではなかったのか・・・・・。」

 カツーンと杖で床をたたく音が響いた。杖をついたのはシリスル国王リウムシュタットフェルト十五世だった。

「・・鎮まれい。」

 その声に一同が黙り国王を仰ぎ見る。

「問題はそこではない。シトラスを陥落せしめる力のある存在が現に存在しておることだ。銀河連合であれそれでない勢力が名乗ったにせよ、天の川銀河の中心を敵対勢力に奪われたままというわけにはいくまい。・・・・・・・マルム、共和国に共同戦線の通知をを送れ。」

「御意。」

 外務卿のマルム辺境伯が一礼する。

 国王が立ち上がる。

「皆の者、よく聞くがよい。これより軍を招集し、我々は銀河中央に打って出る!」

 おお!!という掛け声が響いた。



 通商連合共和国首都オリビ・アンテ。

 中央商館がこの国家の政府機能を持っていた。その最高会議議場で十三人の議員、各商会の会主であり、この国の僭主たちは雑談をしていた。

「セネレート老、今回の件どうみますか?」

 若手の商会長であるフンゴ・ベスタチオはランゴ・セネレート財閥会長に阿るように言葉を発していた。

「・・・そうじゃのう、仮にこれが本当に銀河連合による侵攻あるいは鎮圧だとすれば・・・・・おしまいじゃな。マフィアンコープとして存在が認められるかどうか・・・・が焦点じゃな。」

「・・・・そこまで深刻ですか?」

「なにをいうておる。深刻すぎて、あの女神の暴走にあきれるしかないわ。よいか、我々は自由取引を標榜してこの国家運営をしてきた。しかしな、前提条件が違うんじゃよ。あくまでわしらはシトラスの・・・・銀河連合天の川支局の後見により自治が認められていたにすぎない。そのシトラスが違法だったとなれば・・・・自治権が認められるはずもなかろう。そのうえ・・・・」

 ランゴが真向いで言い争いをする三人に目線をやる。

「・・・・わしらは薬物売買はしておったがこれはわりとグレーラインじゃ。じゃがの・・・・ブレインジェムやジョカの売買をして居ったきゃつらは真っ黒を通り越してブラックホールじゃ。」

「それでは・・・・・・。」

「すぐにではないがの・・・手は打つ必要はある。」



 ラクール王国王都セバステンパレス。

 壮麗なクリスタルで構成された王宮の奥の執務室の机で、国王であるミカケレート十八世が眉間をもんでいた。

 その様子にわきにいた王女アンネマリーは声を出す。

「陛下、お疲れのご様子。一度休まれては如何ですか?」

「・・・そうしたいのはやまやまだが、そういうわけにもいかん。共和国との戦争どこの話ではなくなったのだ。」

「それはどういうことでしょうか?シトラスが旧制復古したという話は伺いましたが・・・・・。」

「アンネマリーよ、あれは旧制復古ではない。アマテラス銀河連合による暴徒の鎮圧だ。」

「それでは・・・・・。」

「銀河連合は健在というわけだ。それの意味することころ、お前がわからんわけではあるまい。」

「・・・・・・銀河連合は共和制しか支配地域に認めていない。」

「・・・・正確には文明レベルが星間国家レベル以上は共和制しかみとめないだ。」

「どちらにせよ我々の対応に変わりはないわけですが・・・。」

「・・おそらく同盟国のレンネンベート帝国も同じ結論を出すだろう・・・・・これは国家の生存を賭けた戦争の始まりだ。」

「お父様、それでは共和国と和議を結ばれるおつもりですか?あの悪性腫瘍のような国家と?」

「場合によりだな。あそこは信用はできん。和議を結ぶにしても互いに利用する前提でしかない。」

「私どもはもともと銀河連合からの保護国として一星系の王政国家でした。あちらと交渉の余地はないのでしょうか?」

「・・・・・ないわけではないが、おそらく国家解体を求められるぞ?まあ、貴族連中が反対して内乱を起こしても、ネフェリスの艦隊に鎮圧されるのがおちだろうがな。」

「ネフェリスですか?あれは謎の珪素生命体という論文がありましたが・・・・。」

「王家にのみ伝わる秘密なのだが・・あれは銀河連合の治安AIシステム艦隊だ。銀河連合にとって違法なことをしている組織団体を殲滅する役割を持ったな。それは星間国家相手であってもお構いなしだ。AIの判定は零か一しかない。」

「では昨今我々の星系が落されているというのも・・・・。」

「我々は保護国として違法状態を長く続けすぎているということだろうな。データーを見ればわかるが、ネフェリス艦隊の出現と被害は大体三百年前からだ。それ以前は一切ない。」

「公表しない理由は?」

「わかりきってる。公表すれば銀河連合への悪感情が増えて、対戦争論が過激になるだけだ。我々はどこかで妥協点をさぐるしかない。ネフェリス艦隊にすら勝てないうちは勝負にならんということだ。だが一戦もしないで降伏すれば国民感情は納得しない。少なくない犠牲はでるが、うまいように負けることが肝要なのだ。」

「わたくしは犠牲がでるのをわかっていて戦争をするのには反対です。銀河連合と交渉すべきです。」

「まあ・・・お前の考えもわからんでもないが・・・。集団心理というのは怖いものだ。それのコントロールにミスすれば血祭りにあげられるのは我々だ。国民ではない。だが我々の存在がなくなれれば無法化して、苦しむのは国民だ。国民を思えばこそ、血を流さざるをえんのだよ。」

「お父様・・・・。」



 アマテラス銀河連合中央次元中央星系首都星ミネアリア・テラス。

 官庁街管理官監査局監査局長室。

「まったく、これだから辺境はやりにくい。なんなんだ、この分断状態は・・・。保護国だった国すら独立して星間国家になり違法状態。議会で何を言われるか・・・・。」

「局長、あきらめが肝心です。」

「ミサキ君どうあきらめろと?」

「これは治安部隊ではなく、軍の派遣要請をする案件です。一銀河のこととはいえ、すでに監査局の手を離れていると考えるべきでは?どのみちこれらの国家を名乗る反徒達とは全面戦争まったなしですよ?大統領に軍派遣の署名を求めるべきです。」

「しかし、死傷者が必ず出る。転生システムが不完全な現地の現状を鑑みるに・・・・・相手側の死者は蘇らせることは不可能だ。」

「だから割り切れといっているんです。いまさらいうまでもないですが、われわれの手の届か居ないところで、毎日少なくても何兆人という人類が死亡し、精神体を消滅させてます。ここで天の川銀河の人類を切り捨てることをせずして、我々アマテラス銀河連合の国民を生かすことはできますか?ましてや連中はジョカという禁じ手をつかっています。許すわけにはいかないでしょう?」

「・・・・仕方ないか・・・」



 こうして天の川銀河の運命を決める戦争は開始された。

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