第42話 心の迷い

と、何やらカタカタという機械音を発しながら、顔がタッチパネルで後ろにはトレーが数段取り付けられた配膳用ロボットが席へとやってきた。


そのロボットは俺たちのテーブルの真横に着くと、料理が乗ったトレーの方をこちらに向けて『お待たせしました。料理をお取りください』という音声が再生される。


………なんか聞き覚えのある声で。


「っ!?」


その瞬間、いろはの目がカッと見開き、勢いよくその機械の方を見た。心なしか、口がわなわなと震えてる。


「………千栞様の声、だと!?」


千栞、という名を聞いて、なぜいろはがこんなにも過剰反応しているのか分かった。このロボットから流れている声の正体は、いろはの最推しアイドル「白柳千栞」なのだ。


「嘘だ……こんな情報聞いてない!いつコラボするって情報が出てたんだ!?」


半ば発狂に近い感じでSNSの彼女の投稿を確認し始めるいろは。うん、通常運転で何より。


「律……怖い」


そしてそれを目の当たりにした叶は怯えた目を俺に向けてくる。服の裾をキュッと握り、小動物のように小さくなってしまった。


「大丈夫、叶にはまだ早い世界だからな。目を閉じて見ないようにしような」


「う、うん」


俺にそう言われ、叶は素直に目を閉じた。


「うーん」


その様子を見ていた美咲さんはジト目で俺の方を見てくる。


「……どうした?」


その視線に気がついた俺は、ジト目の彼女に恐る恐る聞いてみる。大抵彼女がこういう目をしている時は何か俺(もしくはいろは)に対して考えてる時だ。

しかし、彼女は何かを言おうとして、口をつぐんでしまう。


「やっぱりなんでもないよ」


「なんだよ、気になるだろ」


「んーん、秘密」


そして俺が言葉を発する前に、「さて、もう少しフルーツ取りに行こー」と言って席を離れてしまった。


と、同時にピコンとスマホの通知音がなる。


「!?」


ロック画面には、1件のメッセージが届いていた。差出人は、美咲さん。

俺はそこに書いてあった言葉に、はっとさせられた。

そこには、この間千聖さんに突きつけられた言葉と似たようなものだった。


『叶ちゃんのこと、どう思ってるの?女の子としてどう見てるの?』


この1ヶ月間、ずっと有耶無耶にしてきた自分の気持ち。この感情に、俺は、どう向き合えばをいいのかまだ結論を出すことができていない。

このまま有耶無耶にするのもダメだとはわかっている。でも。そうだとしても。


答えはまだ、分からない。


「………?」


叶はそんな様子の俺を、不思議そうに見つめていた。




───────────────────


本日2度目の帰り道。


いろは達と別れた俺と叶は、すっかり暗くなった夜の街道を歩いていた。


電灯しか明かりのない中でも叶の美しい白色の髪は目立っていて、少し見とれてしまうほどには綺麗だと思った。


「ねぇ、律」


「ん?」


「今日最後の方、様子がおかしかったけど、何かあったの?」


「えっ」


俺はピシリとその場に固まってしまう。

まずい、ちゃんと表情に出ていたのか。

というかこの場で上手く誤魔化そうにも、もうこんなにもわかりやすい反応をしてしまってはもうだめだろう。


「大丈夫?」


「いや、まぁ、大丈夫だよ」


「……本当に?」


「……うん」


「嘘は、嫌いだよ?」


「うっ」


心にグサリとその言葉が刺さる。

けれど、こればっかりは相談してしまったら、確実に叶のことを傷つけることになってしまう。


今の叶は俺のことを「恋人」として好いている。

が、俺はそこが曖昧だ。

妹としては当然好きだと思っているけれど、それと同時に想い人として、1人の女の子としても好きだと思うことにも、もしかすると今の俺ならできてしまうかもしれない。


今は仮にも妹である彼女の存在を、果たして好きになってしまって良いのかという疑念の気持ちがストッパーとなって、彼女のことを本気で好きでいることに歯止めをかけているのだ。


この関係が続いていくとしても、もしいつかこの気持ちが家族としての愛情の一種だと本能的に悟ってしまったら、俺は叶のことを本気で好きになれなくなってしまう。

もし、叶がそのことを知ってしまったら、彼女は絶対に悲しむことになる。


俺のこんな中途半端な気持ちで、叶を苦しめたりはしたくない。


「……律」


何も言わない俺を見た叶は、俺の服の袖を掴んだ。


「少し寄り道、しよ?」




■■■

一年ぶりです。投稿を頑張って再開します。これからもよろしくお願いいたします。
















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