第41話 スイーツバイキング……!
さきほどまでオレンジ色に染まっていた空が少し薄暗くなり始めたとき、俺たちはファミレスに到着した。
俺の家からは300mほど離れたところにあるので、それほど時間はかからなかった。店のドアを開けると、客の来店を知らせる鈴が軽快な音を店内に響き渡らせる。
「らっしゃいませー。何名様ですかぁ?」
スタッフルームから、いかにもギャルギャルしてる女性店員が出てきた。おそらく染めてるであろう金髪のポニテが存在感を強調していて、ついでに、耳につけたピアスがいかにもそれっぽかった。
「4人です」
俺が右手で4の数字を作ると、店員は一瞬店内を見渡す。
「あちら側の席が空いておりますので、お好きなところにどうぞぉ」
そして「4名様ご来店~!」と言うと、すぐに店の奥に引っ込んでいってしまった。
と、美咲さんが真っ先に歩き出す。そして窓側の席に座った。
「やっぱりあそこか」
俺が苦笑すると、いろはも「美咲も相変わらずだなぁ」と笑う。一方で叶は、なんのことだろう、といったふうに首を傾げた。
だが、彼女はあるものを視界に捉えた途端、目をキラキラとさせ始めた。少し興奮した様子でポスポスと俺の腕を叩いてくる。さっきまでの疑問はどこかに行ったようだ。
「あれ……使えるの?」
「ん?……ああ、チョコレートタワーか。普通に注文すれば使えると思うけd」
「注文していいの?」
俺が言い終える前に、叶は食い入るように聞いてきた。目をよりいっそうキラキラさせ、まるで子供のようだ。いや、まだ成人してないから子供か(そしてそう言う俺も子供である)。
「まぁ、いいんじゃないかな。値段にもよるけど」
一応、5000円札持ってきてるから余程のことがない限り大丈夫だろう。大丈夫だろうと信じたい。
「え、律、奢ってくれんの?」
「叶にな」
「えー、いいじゃん別に」
席に座ると、さっきの話を聞いていたらしい美咲さんがからかい口調で文句を言ってくる。
「君金持ちなんだからさ、学生の割に。ほら、金出せよ?俺たちといいことしたいなら、さ」
「それ先輩とかが後輩に対して
まぁ奢るにせよ奢らないにせよ、叶は食べたいと言うので、最低でも叶の分はチョコレートタワー付きドリンクバーを注文をしないといけない。どれどれ、と値段を見てみると、なんとびっくり(消費税込2800円ではありませんか。
ファミレスなのに……。1番安いメニューだとツーコインで食べられるのに、これだけ良心的じゃない……。
「さすがに叶の分だけじゃないと破産する」
俺がいろはと美咲さんにメニュー表を見せると、さすがに2人とも遠慮してくれた。
とりあえず俺はカルボナーラを、叶はミニサイズのグラタン(もちろんドリンクバーのチョコレートタワー付きもセットで)を、いろはと美咲さんは2人でひとつのクワトロチーズピッツァを頼んだ。
注文し終えると、叶は早速フルーツバイキングの方に行ってしまった。
たくさん切り分けられたリンゴやらオレンジやらの果物をそのまま持ってくるのもよし、チョコレートタワーに突っ込んでコーティングするのもよしなのだが、案の定、叶は串に突き刺した果物全てをチョコレートまみれにしていた。
「持ってきた」
ふんすっ、と満足気な感じで串カツならぬ串フルーツ(チョコレート漬け)を2本ほど、小さいお皿に乗せて持ってきた叶。席に座ると、早速それらを食べ始めた。
そしてしばらく口をもぐもぐさせると、ほっぺに手を当てて、「おいしい……」とうっとりとした表情になる。
「叶ちゃん、本当に美味しそうに食べるね」
「実際、美味しいから」
叶はポっと顔を赤らめると、俯いてしまった。
「恥ずかしがることないのに~。あ、叶ちゃん。一口私にもちょーだい?」
「うん」
「ありがとー!……ん」
美咲さんはそう言うと、口を開いて顔を少し前に出した。
そして叶は何も躊躇うことなく、串フルーツの最後の一口(いちご)を彼女に食べさせてあげた。
「………ん、意外といける」
美咲さんは少し驚いた感じで、ゆっくりとそれを味わった。その様子を叶は横目で見つつ、そのまま流れるように俺の方に向いた。手には2本目を持っている。
「律も、はい」
「え、いいのか?」
「うん。おいしいよ」
「そう言う意味で聞いたんじゃないんだけどな……」
俺の言葉に、叶は僅かに首を傾げる。俺は恥ずかしくなる前にとっとと食べてしまおうということで、えいやと、差し出された串フルーツの一口目(オレンジ)を食べた。
オレンジの酸っぱい風味とチョコレートの甘さが調和していい感じの味だった。これ、意外といけるな。
「串フルーツ、都会の方に行けば普通に売ってるんだけど、まさかファミレスで売ってるなんてな。珍しいもんだ」
いろはがメニュー表を見ながらそんなことを言った。どうやら、いろはは美咲さんと一緒に食べたことがあるらしい。
「その時は、普段食べてるような果物とかもあったんだけど、外国から仕入れてきた珍しい果物とかもあったんだよ」
「へぇ……」
叶が何かしら反応しそうだな、と思ったが、隣からは何も声が発せられることは無かった。
不思議に思って隣を見ると、叶は、先程俺が食べた串フルーツをじっと見つめていた。
「………」
「………どうした?叶」
「えっ。あ、いや……な、なんでもない」
叶は俺に声をかけられると、軽く肩がはねた。そして、慌てて串フルーツを口に含んだ。
しかし、叶の耳が若干赤くなっているのを俺だけは見逃さなかった。だからさっき「いいのか?」って聞いたのに。
(頬にキスはするのになぁ……よく分からん)
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