第40.5話 ファミレスにて(過去のお話④)
「おーい、律。こっちこっち」
ファミレスの中に入ると、窓側の席に座っていたいろはが右手をあげて俺の名前を呼んだ。
「ごめん、遅くなった」
俺は謝りながら、いろはとはテーブルを挟んだ反対側の席に座る。
「あれ、赤田さんは?」
いろはの彼女がいないのに気がついた俺は、テーブルの上に置いてあった水の入ったガラスコップを取りつつ尋ねた。
「ん?ああ、ドリンクバーに行って飲み物持ってきてくれてるって」
「彼女に取りに行かせるのかよ。最近付き合い始めたばかりなんだろ?もっと頼もしいところ見せなくていいのか」
「いやもちろん俺も最初は、自分が取りに行くって言ったんだけど。『もしいろはくんが飲み物取りに行ってる間に高山君が来たら気まずくなっちゃうでしょ?』って言われたんよ」
「あー、それは確かに。気が使える人だな」
「だろ?俺の彼女かわいい、最っ高。毎日愛でたい」
「わー、付き合いたてほやほやの惚気をありがとう」
俺は肩をすくめると、水を少し流し込み喉を潤した。
確かにいろはと赤田さんはまだ付き合って間もないので、赤田さんとはまだ一言二言しか交わしたことがない。
もし2人だけになってしまったら話題なんて出てきやしないだろう。気まずい空気が流れるだけだ。
「というか、本当に付き合ったのか。ついこの間までは『ああ、ついに推し愛が限界突破したか』って温かい目で見てたんだけど、まさか本当だったとは」
「推しは友を……いや、恋を呼ぶんだよ」
「何その迷言」
「普通の会話だったら分からないような
信じられないといった口調で話すいろはに「ごめんごめん」と謝っていると、そこに当の本人が飲み物を3つ持ってやってきた。
「藤咲くん、飲み物持ってきたよー……って、ほら、私が言った通りじゃん。高山くん来たよ?」
「いやぁ、赤田さんの言う通りだったよ。ありがとな」
「えへへ……そう言われると照れちゃうな」
そしてお互いキラッキラの笑みを浮かべながら見つめ合う2人。え、何この空間。
赤田さんはいろはの隣に肩を密着させるように座ると、ドリンクバーから持ってきたサイダーを俺に手渡した。
「はぁ、目の前にいるキラッキラあつあつなカップルのせいで前も見れん」
「や、やだなぁ、そんな。アツアツだなんて」
「無自覚だとしたらそれはそれでやばいな」
赤田さんは手を両頬に当てて、恥ずかしそうにモジモジとする。そんな彼女の頭をいろははよしよしと撫でた。
「でもまぁ、いつかは律にもそれが分かる日が来ると思うぞ」
「来ねえよ。来たとしてもそれは女子に対してでは無い」
「え?でも、高山さんがいるじゃん」
「は、はぁ!?」
突然出てきた義妹の名前に思わず大きな声をあげてしまう。
「なんでそこで叶の名前が出てくるんだよ」
「ほら、ラノベとかではよくある話じゃん。『ある日家に突然やってきた義妹が可愛すぎる件について』みたいな?」
「それは本の世界の話であって、現実の話では無い」
「え、高山くんって妹さんいるんだ」
「……義妹だけどな」
「じゃあ、それこそラブコメが発生しちゃうね」
「ないない。天地がひっくり返っても有り得ない」
俺はため息を付いて、サイダーに口をつけた。
「これ、盛大なフラグ立ってるな」
「立ってるね」
「……こらそこ。変なこと言うな」
俺がジト目をいろはと赤田さんに向けると、2人は面白可笑しそうに「ごめんごめん」と言った。
まさか、このフラグが回収されることになるとは……はたして誰が想像していただろうか。
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