第40話 スイーツの力はすごい

「でも、なんでまた急に外に食べに行こうなんて言い出すんだ?」


「確かに。律くんが自分から外食に誘うなんて珍しいもんね」


「たまにはいいだろ別に。なにか悪いのか」


 俺がジト目でいろはを見ると、彼はわざとらしく黄昏れるような表情を作った。


「いや、明日は天変地異が起きるかもなーって、思っただけだよ」


「俺の気まぐれが天変地異になるのか。あとなんかその表情むかつくな」


「ああ、世界が滅ぶね」


「恐ろしすぎる」


 お前それは言い過ぎだ、といろはを軽く小突いておく。


「まぁ、久しぶりにこのメンバーで外食べに行くし……どうよ?久しぶりにあそこ行かね?」


「あそこ?」と言うふうに俺は疑問符が頭の中に浮かんだが、美咲さんはどこのことかわかったようで


「私もいっくんに賛成!」


 と元気よく手をあげた。


「それはいいんだけど、あそこってどこなんだ?」


 俺が聞くと、いろははフッと笑みを浮かべる。


「……ファミレスさ」


「ファミレスとな」


「……それもドリンクバー付きだぜ」


「至って普通だった……」


 と、ここで、何も言わない叶の方に目を向けると、何か言いたげな様子で俺の服の袖を掴んでいた。


「……ファミレス、もしかして嫌か?」


 俺が小声でそう聞くと、叶は首を横に振る。


「ううん。嫌っていうわけじゃ、ない。だけど……」


「だけど?」


 叶は少し口を開いて、閉じて、開いて、という動作を繰り返したあと、躊躇いがちに言葉を紡ぐ。


「私、すぐにお腹いっぱいになっちゃいそう」


 若干伏せ目気味に、叶はそう言った。


「あ、そういうこと。もしきつくなったら俺が食べるから、安心していいぞ」


「そーだよ、叶ちゃん。私たちみんなで食べてあげる!それに、スイーツバイキングがあるから叶ちゃんでも楽しめると思うよ?」


「スイーツ……?」


「そーだよ。プリンにゼリーにミニパンケーキにチョコレートアイス……」


「……! 行く。私も、ファミレス行きたい」


 スイーツと言う言葉を聞いた途端、脳内が「食べ切れるか不安」から「スイーツたくさん食べられる」にシフトしたようだ。


 まぁ、どんな形にせよ叶も行くことに乗り気になってくれたので良いとしよう。


 俺たちは早速勉強道具を片付け、外出の準備をすると家を出た。


 ファミレスはここからだいたい10分くらいなので、徒歩で向かうことにする。道中、叶は小さく鼻歌を歌いながら、俺に身を寄せてきた。



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