第38話 1件のメール

 次の日の朝。リビングの窓から見える木には雀が数匹止まっていて、チュンチュン鳴いている。


「いただきます」


 俺はニュースを見ながら、レンチンしたコッペパンを食べる。


 ちなみに、叶はまだ起きてこない。昨日の夜の時点で、頭痛は収まったみたいなので、特に心配はいらないだろうけど。


「まぁ、少し様子見に行くか。それに、ドーナツも結局食べてないし」


 俺は朝ごはんをさっさと食べ終えて、洗い物を済ませると、リビングを出た。


 少しきしんだ音が出る階段を上がって、叶の部屋の前に行く。そして、軽く2回ノックをした。


「叶、起きてるか?」


『………ん、起きてる』


 小さく、そして眠たげな声が部屋の中から返ってきた。


「朝ごはん食べられそう?食べられるなら、朝ごはん用意しとくけど」


『うん、食べたい』


「わかった。じゃ、下で待ってるな」


『ん』


 その10分後、私服に着替えた叶がリビングに降りてきた。今日は少しボーイッシュな感じの服装で、下地が黒、上地が白のパーカーにジーパンを履いている。それに、いつもは何もしていない腰まで伸びた長い髪も、ポニーテールにしている。


 叶はこのような服は持っていなかったはず。とすると、美咲さんにチョイスされた服なのだろうか。


 そのことを聞くと、「ううん、千聖が選んでくれた」と少し嬉しそうな表情で話してくれた。


「なんやかんや、仲良いんだな」


 俺がそう言うと、叶は首を振った。


「確かに、服とかは選んでくれるし、仲は悪いって言うわけじゃない。だけど、それは今だけ。月曜日になったら、ライバル」


「月曜日になったら……?」


 なんかあったけか、と考えてみるとも、思い出せない。そんな俺を見た叶はライバル少しムッとした表情になる。あれ、ほんとに何かあったっけ!?


……だよ」


「………ああ」


 あー、思い出した。弁当勝負で俺が結果有耶無耶にしちゃったから、その完全決着のために考えられたやつだ……。


「それ、どうしてもやんなきゃダメなの?」


「そんなの、当たり前。勝った方が、律の正妻」


「正妻ゆーな。しかも俺の意思スルーされてるがな。……でも、ほら。白川さんが勝ったら色々とまずい気がするぞ。余計に状況がごっちゃごちゃのカオスになるよ、絶対」


「そうならないために、頑張る」


 自身満々だ、と言わんばかりの決意の籠った目で俺を見つめてくる。どうやら、余計にやる気を起こさせてしまったようだ。


 俺はもうどうすることもできないと察すると、気を紛らわせるためにドーナツを取り出した。


「はぁ……。あ、そうだ。昨日買ってきたドーナツまだ食べてなかったろ。一緒に食べるか?」


「あ、食べる」


 苺味のドーナツを俺から受け取った叶は「ドーナツの存在すっかり忘れてた」と言って椅子にちょこんと座り、黙々と食べ始めた。


 と、俺のスマホが震え、1件のメールが来たことを知らせる。


「なんだ?」


 どうやらいろはからのようだ。スマホの画面を開き、メールを確認する。


『今日みんなで定期テスト勉強やらね?お前ん家で』


 定期テスト……もうそんな時期か。


「どうしたの?」


 ドーナツを速攻で食べ終えて満足気な叶が、ティッシュで口を拭きながら聞いてくる。


「いろはがさ、俺の家でみんなで中間テストの勉強会やんないか、だって」


「勉強会……」


 叶は「勉強」というワードに難色を示す。叶とは同じ学校だがクラスは別なので、普段叶がどのように学校生活を送っているかは知らない。


 だが、美咲さんから聞いた話によると、勉強すればいい成績をとることはできるのだが、勉強を進んでやるということはないそうで。


「いい機会だし、みんなでやるか。たぶん美咲さんにわかんないとこを教える形になるだろうし」


 俺、叶、いろは、美咲さんの中だと、美咲さんが悪い意味で、頭ひとつ抜けている。そんな彼女にいつもいろはと俺とで勉強を教えていた。もちろん、以前の叶も。


「まぁ、律がやるって言うなら……私もやる」


 叶は渋々といった様子で頷いた。


 かくして、定期テストの勉強会が、俺の家にて開催されることになったのだった。






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