第36話 お部屋②

 1階に降りて、俺はキッチンへと向かう。


「さて、夕飯作らなきゃな」


 黒色のエプロンを窓際に掛けてあるハンガーから取り外してから着る。


 今日は金曜だしハヤシライスでも作ろうかと思っていたんだが、叶の体調も考慮すると別のものがいいのかもしれない。俺は冷蔵庫にある食材を思い出しながら、手を洗う。


「あ。あれがあるか」


 と、あるひとつのメニューが頭の中に思い浮かんだ。早速、準備に取りかかるとしよう。


 ────────────────────


 俺は夕飯をお盆に乗せて、叶の部屋の前に立つ。今回はまぁまぁな自信作だ。


「叶、夕飯持ってきたぞ。部屋入っていいか」


「律、どうせ部屋見ちゃうからだめ」


「でも見ないと夕飯こぼしちゃうぞ。何かにぶつかって」


「じゃあ部屋の前に置いておいて」


「引きこもりかよ」


「引きこもりです」


 即答かい。


「それは兄として見過ごせません。てなわけで入るぞ」


「あっ、やっ、ちょっとまって……!」


 俺がドアを開けると、叶が速攻で布団の中に潜り込んだ。こころなしか少しプルプルしているように見える。


「まさかほんとに引きこもりになっていたとは」


「り、律が勝手に入ってきたから、隠れただけ」


 叶は隠して部屋隠さず、ってか。……何言ってんだろ。


「とりあえず、机の上に夕飯置いとくからな」


「……何作ったの?」


 叶は布団から顔だけひょっこり覗かせて、こちらを見た。その目はさっきとは違い少し元気が戻っているようだ。


「ミルク多めのクリームシチューだ。体は温めて置いた方がいい」


「わかった。ありがとう」


「それと、一応体温測るぞ。万が一熱だったら大変だから」


「……わかった」


「………」


「………」


 そのままお互い何も喋らず、ただただ顔を見合わせる。


「布団から出ないのか?」


「……どうして?」


「いや、だって。寝っ転がったままだとちゃんと体温測れないぞ」


「……自分でできるから、大丈夫」


「そうか?じゃあ、部屋の外で待ってるから、測り終わったら教えてな」


「うん」


 叶に背を向け、部屋のドアを開ける。


 そして、俺は部屋から出てドアを閉めると、トイレに向かおうと歩き出す。その時。


 ドンガラガッシャーン!


「!?」


 叶の部屋から盛大な音が聞こえた。少しばかり叶の悲鳴も聞こえた気がする。


「叶、大丈夫か!?」


 俺は躊躇なくドアを開け放つ。そして視界に飛び込んできたのは、床に倒れる叶と教科書類。


「あっ、やっ、ちょっと転んだだけ……!大丈……」


「怪我してないか?大丈夫か?」


 俺はしゃがみ、叶に近づこうとする。そして……とんでもないものを見てしまった。


「これ……って?」


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