第32話 ぼっちの帰り道

 放課後。俺は帰りの支度を済ませ、教室を出る。廊下はオレンジ色の斜陽がさしこんでいて、少しだけ眩しく感じる。叶が今日持ってきた弁当箱の入った弁当袋を左手に持って、俺は階段を降りた。


 下駄箱で上履きから靴に履き替えながら、俺はふと思い出す。


(そういえば、そろそろ病院に行かないと)


 叶が記憶喪失になってからなんやかんや1ヶ月。医者には「1ヶ月しばらく様子を見てみましょうか」的なことを言われているので、そろそろだろう。でも多分、何も変化はない気がする。思い出した様子も特にないし、なんなら俺に対する姿勢が変化していない時点で、それは明白である。


 俺は軽くため息をつくと、帰路に着く。そういえば、久しぶりに1人での帰宅だ。いつもなら叶かいろはがいるのだが……。叶は白川さんに引っ張られて行ってしまったし(何気に仲はいいんだよなあの2人)、いろはは「俺、美咲とデート、なんすよね」と言って先に帰っていってしまった。


(家帰ってもやることないし、どうしよう。なんかお菓子でも買ってくか)


 どうせ家帰っても暇を持て余すだけだ、と考えた俺はショッピングモールをぶらつくことにした。いつもの道とは違う道を進んでいき、横断歩道を渡るとここら辺だと1番大きいショッピングモール「アミオ」に着いた。


 正面入口を通ると、服屋とか、雑貨屋がずらりと並んでいる。人も沢山いる。


 俺の足はお菓子専門店に向いていた。


「おお……」


 ガラス戸棚にキラキラというエフェクトがいかにも似合いそうな輝かしいお菓子たちが並べられていた。マカロン、チョコ、ケーキにドーナツ……。どれを買って行っても叶に喜ばれそうだな。


 記憶が無いから覚えていないかもしれないけれど、実は叶はドーナツが大好物だった。まだ彼女が心を開いていない時、俺がドーナツを買ってきた時だけ目をキラキラさせてハムハムと食べていた。その様子が可愛らしくて、俺はちょくちょく買っていったのだ。別に、食べ物で釣ろうとかそんなのは考えていなかった。断じて。うん。


「すいません、このドーナツを4つください」


「はーい、わかりました」


 店員さんが袋詰めをして、会計を済ませると俺は店を出た。


 案外時間がかからなかったため、どうしようかと周りをキョロキョロと見回す。と、見覚えのある髪がふたつ。少し向こうを歩いていた。銀色の長い髪に、黒髪のポニーテール。


 もしやと思い、少しあとを追ってみると案の定、叶と白川さんだった。ていうか、白川さんメガネとマスクつけてる。多分変装してるんだろうけど……。


 道行く人が2人の美少女に思わず目を奪われている。そりゃ、叶(かわいい)と白川さん(現役アイドル)だもの。多分俺も赤の他人だったらそうなってた。特に白川さんはアイドルオーラが隠しきれていない気が……。2人はそんな周りの視線は気にせず、楽しそうに話している。


 と、2人はとある店に入っていった。それは……


「ら、ランジェリー……ショップ?」









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