第31話 勝敗は……いかに
どうしよう、めちゃくちゃ迷う。
もし「叶の弁当の方がおいしい」と言ったら白川さんが「負けちゃった……うう、悔しいから毎朝りっちゃんに朝ごはん作って舌を私の料理にしか満足できないものにするんだ!」とか言い出しそうだし……(あくまでも妄想です)。
逆に「白川さんの方がおいしい」と言ったら叶が「律は
つまりあれだ、俺は今究極の選択を迫られてるっていうわけだ。
「も、ものすごく悩んでる顔……」
「律の顔、すごい」
2人は俺が脳をフル回転させている様子を見て、ゴクリと唾を飲み込む。ヒュウッと春にしては冷たい風が屋上を吹き抜ける。少し乾いた唇を俺は恐る恐る開き、言葉を発する。
「俺は……」
「「………」」
「白川さんの方が……美味しいと思った」
「……!」
俺の言葉に、白川さんは目を丸くする。おそらく、彼女である叶の方の弁当を選ぶと思ったのだろう。そして反対に、叶はあからさまにしょぼんとした表情になり、俯いてしまった。
「白川さんの弁当は、比較的美味しかった。青椒肉絲の味付けもちょうど良かったし。でも……」
俺は叶を見る。俺の視線に気がついたのか、こちらにちらりと目を向けてくれる。
「でも、毎日食べたいって思ったのは叶の弁当かな」
「!」
「それは、なんで?」
白川さんが興味深そうに聞いてきた。見た感じ不満には思ってはいないようだ。
「少し長くなるけど、いい?」
2人は首を縦に振る。
俺は青空を見上げた。
「俺がまだ小さい頃、お母さんが病気で死んじゃってさ。それで今のいままでお父さんが男手ひとつで俺を育ててくれて。お父さんは比較的家事はできる方だったから苦労はしなかったみたいけど、お母さんは病気になるまではそれこそ、家の家事をやってたんだけど……不器用な人でさ。いつもバタバタしてた。でも、俺が小学校の運動会の時、お母さんが頑張って作って持ってきてくれた弁当はめちゃくちゃにおいしくて。……なんて言うのかな。叶の弁当を食べると、お母さんの弁当を思い出したんだ。不器用だけど毎日食べたいような、安心するような……そんな感じなんだ。叶が作った弁当は」
「律……」
見ると、叶の顔がふにゃふにゃしていた。
ポスポスと俺を叩くが力は込められておらず、単純に照れているみたいである。
「へぇ、りっちゃん良いこと言うねぇ……このこの」
「いや、思ったこと言っただけだし」
「ふーん、そっかそっか」
ニマニマしながらこっちを見るな。
────────────────────
2人の弁当を完食したちょうど、5限の予鈴が鳴り始めた。
「あ、もう昼休み終わりか」
手際よく弁当を片付け、ベンチから立ち上がる。今日も2人分の弁当を完食したため満腹である。これが5時限目の授業で強烈な眠気を誘ってくる原因なんだけど……まぁ、今日が最後だしな。それはそれでなんか寂しい気がする。
「結局、どっちが勝ちなの?」
「!?」
叶が唐突にそんな質問をするもんだから、フリーズしてしまった。てっきりもうこの話はいい感じで締めれたと思っていたのに。
「りっちゃんには上手く逃げられちゃったからねぇ。多分まだ答えられないよ」
からかい口調で白川さんが叶の頭を撫で、くすぐったそうに身を細める。ていうか、「まだ」って言ったか?これ答え出さないといけないやつ?
「じゃあ、新しい勝負するの?」
「なっ」
「そうだね、それもいいかもねぇ」
叶の言葉に対して俺が驚きの声を発する前に白川さんが速攻で同意した。してやったりというような表情で俺を見る。もうこれ避けられないなと察した俺は、観念したように溜息をついて、「勝負って言っても、お互いの生活に支障が出ない程度にだぞ」と忠告しておく。
まるで関係ないというふうな口ぶりだが、これでも俺は勝負の勝敗を決める審査員なのだ。それに、今回の弁当勝負では叶は毎朝早起きしてせっせせっせと弁当を作っていたのだから、叶自身疲れているはずである。こんなことにと言ってはなんだが、あまり無理はしないで欲しい(当の本人は無理をしているつもりはないらしいが)。
「大丈夫だよ、今度は高校の登下校の時間を使うだけだから」
白川さんは叶とどんな勝負をするか話していたようで、叶も彼女の言葉に同調するように頷いた。
登下校の時間を使うという時点でもうだいたい察しはついてしまった。
「ずばり第2回の勝負の内容は……」
「……」
「登下校デート勝負!」
ああ、また波乱の予感……。
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