第30話 お弁当対決

「白川千聖です!よろしくお願いします!」


5月という少し変わった時期に来た転校生。そいつはにっこりとまるで太陽な笑みを向ける。クラスの男子はそのあまりの美しさに釘付けになっているが……俺は違った。なぜって?


(こいっつ……!なんで俺の学校に転校してんだよ!?)


そう、皆さんご存知の通り、白川千聖は、俺の幼なじみであり、そして大人気アイドル「白柳千栞」でもある。そして昨日、俺にオムライスという肩書きの漢方を作った料理力皆無の女子だ。


「来ちゃった♡」


口パクで俺に向けてその言葉を伝えてくる。いや「来ちゃった♡」じゃないからね?


俺は思わず机に突っ伏した。……だがいろはの顔は「ふーん」といった感じで、自分の最推しアイドルが目の前にいることに気づいていないようだ。やはり女の子に対しては自分の彼女か最推しにしか興味がないようである。


「みんな、仲良くしてやれよ。じゃあ白川。お前は……よし、あそこの席が空いてるな。高山の後ろの席座って」


「わかりました!」


(よりにもよって俺の後ろかよ!?)


俺の気持ちはつゆ知らず、彼女は軽い足取りで席につく。


「よろしくね、りっちゃん♡」


「全然よろしくないんだけども?てかなんでお前ここに……」


俺の問いに彼女はフッとドヤ顔(?)を浮かべる。


「いやぁ……アイドルって、強いんだよね」


「職権乱用すな」


マネさん、この子が申し訳ございません。手続きめんどくさかったでしょうに……というかどうやってOK出させたんだよ白川さん。


「乱用じゃないもん、正当な行使だもん」


俺の言葉に白川さんはイタズラっぽく笑う。波乱の予感がするのは、俺だけかな?


────────────────────


昼休み。白川さんは早速クラスのみんなに囲まれて質問責めにされていた。


「ねーねー、白川さんってどこから来たの?」


「んーとねぇ……遠いところだよ!」


「髪キレーだけど何か使ってるの?」


「まぁねぇ~。後でシャンプーのURL送ってあげる!」


「彼氏とかいるの?」


「教えなーい」


といったふうにキャピキャピ会話している。特に誰も彼女の正体に気づいていないようだ。まぁ、白川さんの性格ならたぶん一瞬でクラスに馴染めるんだろうな……。



俺の予想通り、彼女は一瞬でクラスに馴染んでいた。そして彼女の人当たりが誰に対しても平等という平和的性格だったのが功を奏し、たった1週間でクラスの人気者になっていた。だが、人当たりが誰に対しても平等というのはちょっと違うかもしれない。

そう……俺に対しては。


4時間目が終了すると同時に、俺は白川さんに屋上に連行された。行先は……屋上。屋上に出て備え付けてある長椅子に座らせられる。叶はもう既に屋上にいた。


「最終日は特別な弁当だよ?」


そう言うと正方形のピンク色の弁当箱を2個カバンから取り出し、1つを自分に、もうひとつを俺に手渡す。。実は転校した初日から、彼女は俺にこっそり弁当を作るようになったのだ。だが、彼女だけではなく。


「律、私の最強お弁当……作った」


俺の義妹、高山叶も弁当を作るようになったのだ。いつも俺が弁当を用意していたため、朝起きて作る手間が省けるようになったのは良かった。だが問題は……。


(2人分食べれないのに……いつも無理して2人分食べているんだけど……)


「い、いただきます……」


どうやらふたりはお弁当対決をしているらしい。1週間でどちらが俺の舌を満足させる弁当を作れるかというルールだ。今のところは叶2勝、白川さん2勝という感じで、金曜の今日、勝者が決定するのだ。


まぁぶっちゃけると……2人ともどっこいどっこいである。特段美味しいわけでもまずい訳でもない。普通なのだ。白川さんは作り慣れてる料理なら漢方にはならないようだし。


試しに叶の弁当を開けてみる。色とりどりの野菜が少し形が崩れてしまったおにぎりの周りに盛り付けられて、2つのたこさんウィンナーがちょこんとおにぎりの上に鎮座していた。


食べてみると……まぁ、うん。いつもと変わらぬ味だった。叶なりに頑張ったのだろうという感じが伝わってくる。


続いて白川さんの弁当を開けてみる。


「これは……青椒肉絲チンジャオロース?」


「当ったり~♪」


恐る恐る食べてみると、これまた普通の味である。いや、ほんとに。もしかしたら俺の味を感じるセンスが無いだけかもしれないが……。


さて、どうしたものか……。


やはり義兄妹として「叶の弁当がが美味しい」と言うべきか……それとも「白川さんの弁当の方が美味しい」と言うべきか……?












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