第29話 久しぶりの学校
「よお律、元気してたか?」
翌日、高校への登校途中、いろはと丁度会ったので一緒に行くことになった。だが、今日はいつもとはちょっと違う。なぜなら
「あれ?今日は珍しく義妹様はいないんだな。いつもならペットリくっつかれてるのに」
「なんかやることがあるから先に行ってて欲しいんだと。嫌な予感しかしねぇ」
「おっ。このパターンはまさか……」
にやにやしながらこちらを見てくるので「なんだよ」と問い返すと「何も?」と返された。なんか腹立つなこいつ。
「というか、お前顔色いつもより良くね?帰省してからなんかあったのか」
突然の不意打ちに俺は思わず「はぁ?」と返してしまった。なぜって?図星だったからです。白柳千栞という君の推しに出会ってるからね。そりゃ動揺するわ。
「いや、別に何も」
なるべく平静を装って返事したのがかえって不自然だったらしく、いろはは「お?なんかあったのか?聞かせろよ」と突っかかってきた。
「帰省中に久々会った知り合いがいるんだけど……そいつが作った料理が個性的でな。ある意味漢方の役割を果たしたわけだ」
別に嘘はついてない。事実を述べただけで、何も偽りはございません。
「そりゃまた、お気の毒に……」
南無南無となんか同情された。大方、こいつは知り合い=叶と思っているのだろう。果たしてその知り合いがお前の最推しである白柳千栞だと知ったとき、どうなるんだろうな。まぁ、絶対言ったら面倒なことになるので黙秘するが。
「あ、いっくん!それに律君も、おはよっ!」
校門をくぐろうとした時、ちょうど向かい側から美咲が小走りでこちらに来ている。だが、途中で躓きバランスを崩してしまった。
「おっと……大丈夫か、美咲」
「うん、いっくんが支えてくれたから平気!ありがと、大好きだよ」
「俺も好きだぜ、美咲」
あー、また2人のトキメキ領域発動しちゃったよ。こうなった2人はもう周りの目を気にせずにイチャイチャする。俺は退散しておこう。
「んじゃ、後でな」
俺が別れの言葉を告げても2人は気づいていない様子だった。……もう呆れを通り越してすげぇな。
────────────────────
教室に入ると、色んな生徒がわちゃわちゃしていた。友達同士でゲームをする者、話をするもの、1人で読書をする者、自習をする者。
俺は席につくと、ちょうど先生が入ってくる。
「はーい、じゃあ皆さん席について。大事な話あるからなー」
その声を合図に生徒たちが座り始める。いろはと慌ててクラスに駆け込んで、俺の席の前に着いた。
「あっぶねぇ……間に合ってたのに遅刻するところだったわ」
「いやお前が彼女といちゃこらしてたからだろ」
俺の返答にいろはは「たしかにな」と笑い飛ばす。それを先生が注意し、クラス内で軽い笑いが起こった。
「じゃあ、みんな席に着いたな。えー、実は今日、新しい仲間がこのクラスに加わることになったんだ」
その瞬間、クラスでざわめきが起こる。この時期の転校生は変わっているので、俺も気になる。
「せんせぇ!それって女子っすかぁ?」
クラスのチャラ男的存在がふざけ半分で質問する。
「ああ。女子だ。……じゃ、入ってきていいぞ」
ガララ、とドアが開く。その入ってきた転校生の女子に、クラスのざわめきが一層強くなった。
「うっわめっちゃ美人じゃん!」
「胸でっか……」
「髪キレー!」
その女子生徒のスペックの高さに心の声がダダ漏れになるクラスの奴ら。
「…………」
俺も、開いた口が塞がらなかった。表情がピク……ピク……と引き攣る。
「じゃあ、自己紹介を」
「分かりました」
転校生は、黒板の前に立ち、自分の名前を大きく、それでいて綺麗な丸い字で書いた。
そして、皆の方をクルリと向き、笑顔をパッと向ける。
「白川千聖です!宜しく、お願いします!」
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