第23話 奥底にある気持ち

「まぁ、でもしばらく勝負はできなそうかな」


「いやいや、さっきの盛り上がりは一体どこへどこいったんだ」


 まぁ、正直「助かった」って安堵してる部分もあるけども。


「ほら、さっき言ったでしょ?ここに来てるのは撮影の関係なんだよ。実家が近くにあるからホテルじゃなくてそこで寝泊まりしてるの。今日は意外と早く終わったから家に帰ってきて、そしたらお母さんからりっちゃんのことを聞いて駆けつけてきたってこと」


 フフン、と少しドヤ顔になっている白川。

 その体で胸を張られて、果実がタユンと今にも擬音を発しそうである。


「ぐはっ!?」


 突然叶に脇腹をド突かれた。

 意外とクリティカルヒットしたので思わずうずくまってしまう。


「胸、見すぎ」


「え、胸見てたの?うわ〜、りっちゃんやらし!私今大事な話してるんだよ?」


 しゃがみ混んでわざとらしく俺の前に果実を見せつけてくる白川。


 それを見て叶が「ぐぬう……」とムスッとした顔になる。もしかして嫉妬してたのか?


 いや、たしかに同性だったら嫉妬してるくらい大きいもんな……さすが、アイドル(?)。


「まぁ、胸の話は置いといて……そんな訳だから、勝負は一旦お預けだよ。仕事が一段落したら……その時は覚悟しててね?」


 ────────────────────


「ああ……落ち着く……」


 俺は風呂で1人、湯船に浸かりながら溜息をつく。


 色々あったせいで、疲れた。一応病み上がりなんだからな?気を使って欲しいものよ、全く。


「それにしても……まさか俺にあんな幼なじみがいたとは。小さい頃の話すぎてすっかり忘れてしまっていたなぁ」


 しかも超絶人気のあの「白柳千栞」だとは。彼女のことについてはどっかの誰かさんが熱心に語ってくるものだからそれなりには知っている。


 人気アイドル、白柳千栞。元々はYouTubeでゲーム実況、雑談、歌枠なので活動していたらしいが、抜群の容姿と美声を買われ事務所にスカウトされたらしい。その後、チャンネル登録者数がうなぎ登りで1ヶ月で万を突破した。発売したCDは即完売の連続で、この間の4月にはついにミリオンヒットを達成した。


 もし今日の出来事をいろはに話したら殺されるかもな、とため息をついてしまう。


 というか、なんだ勝負って。本でしか読んだことないけどもしかしてこれって修羅場っていうものか?(※違います)

 いやいやいや、俺は叶と付き合ってるし……いやでも、俺の嘘から始まった関係の上に、別に叶のことを好きな訳じゃ……。


 ………ってあれ?


ここで、自分の心の違和感に気がつく。


今までの俺だったら「記憶を取り戻すまでの仮の関係」と結論付けていた。そのはずなのに……



(冷静に考えてみると、もしかして俺、この関係に対して満更でもなくなってる気が……?)



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