第19話 ありがとう
あの後すぐにおじいちゃんとおばあちゃんが帰ってきて、風邪をひかないようにとお風呂を沸かしてくれたのだが、俺は服が透けたままだとかわいそうだからと叶を先にお風呂に入れた。そして……次の日。
「くしゅんっ」
俺は見事に夏風邪をひいてしまった。
「あらら……37.8度。律ちゃん、せっかく帰省してきたのに災難だねえ」
祖母が昔ながらの水銀体温計を見て困った顔をする。今日はお隣さん(と言っても数キロほど離れているが)も招いて豪華な食事を出す予定だったのだが……。
「ごめん、おばあちゃん。熱なんか出しちゃって」
布団の中で俺はおばあちゃんに謝る。
「気にしなくていいのよ、律ちゃん。じゃあ、リンゴでも
よっこいしょ、とおばあちゃんが立ち上がると、俺を心配そうに見つめていた叶が「な、なにか手伝うよ」とパタパタとおばあちゃんの後をついていった。
俺はため息をつく。何でよりによって旅行中(?)に熱なんか……。十中八九、原因は昨日の川での出来事だろう。
しかし、熱を出すなんていつ以来だろうか。たぶん叶が義妹として俺の家に来る前だと思う。その時はまだ病気にかかる前の母さんが、看病をしてくれた気がする。
「頭……いてえ」
だんだん頭痛がひどくなってきた。全身も熱く感じる。とにかく今は……ゆっくり寝よう。そう思って目を閉じると、すぐに睡魔が俺を包み込んでいった。
────────────────────
ぼんやりとした視界に、誰かのシルエットが映る。じっと見続けると、懐かしい顔がそこにあった。
「か……あ、さん」
俺はそばにあった手を握る。母さんの手は温かくて、握っていると心が安らぐような気持ちになった。俺は再び眠りについた。
────────────────────
ゆっくりと目を開く。
「今、何時だ……?」
壁に掛けてある時計を見ると、夜の7時をちょうど過ぎたところだった。
どうやら日が出ている間はずっと眠っていたらしい。
まだ頭が重い感じはするが、体はさほど熱く感じない。
布団から出ようと体を起こすと、掛布団に何かが落ちる。
「これって……タオル?」
濡れたタオルだった。それもまだ湿っている。まさかおばあちゃん、ずっとこれを変えてくれたのか?
ぐう、と腹の虫が鳴ったので、とりあえず布団から出て居間に向かう。
居間には椅子に座って夕刊を読むおじいちゃんと、ご飯を並べている叶とおばあちゃんがいた。おじいちゃんは俺に気が付くと、新聞から顔を上げる。
「おう、律。体調どうだ」
「大丈夫だよ。さっき熱を測ったら36.7度だった」
「そうかそうか、やっぱり若いと熱の治りが早いもんだな」
「いや、おばあちゃんが看病してくれたおかげでもあると思うけど」
そう言うと、おばあちゃんはキョトンとした表情をする。
「私はやってないよ?」
「へ?」
「看病したのは私じゃなくて、叶ちゃんさ。叶ちゃんがいろいろやってくれたおかげで助かったよ」
おばあちゃんはニコニコしながら椅子に座った叶を見る。
「そ、そうなのか?」
「うん。律が風邪をひいたのは……川で私が転んだ私のせい、だから」
俯きながらそう話す叶。どうやら昨日のことをまだ気にしているみたいだ。それに……なんか耳が赤い?
意外とそういうのを気にしてしまうのだろうか。まあそうでないにせよ、叶のそういう一面も知れただけでも良い。
「ありがとな、叶」
そう言って頭をそっと撫でる。
「怒ってない、の?」
俺を見つめるその目から「申し訳ない」という気持ちがひしひしと伝わってくる。
思わず笑みをこぼす。
「そんなことで怒らないよ」
「嫌いになってない?」
「怒らないし嫌いにならない。だって……俺はお前の、お
「……うん」
流石におじいちゃんおばあちゃんのいる前で恋人とは言いずらかったが、叶はその言葉を聞いて小さく笑った。
───────────────────
~作者より~
次話にて物語が急展開する予定なのでお楽しみに……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます