第17話 思い出の場所にて。

バスを降りて舗装された道路を道なりに進んでしばらくすると、見慣れた和風の家が見えてきた。森の中に紛れ込むように建っているため少し不気味な雰囲気を漂わせているが……。


「……」


案の定、叶は「ここに入るの?」的な目線で俺に訴えかけてくる。


「ここがじいちゃんばあちゃんの家なんだけど……」


「本当に?」


「いや、ここで嘘つく理由がないだろ」


「でも律、たまにからかってくる」


「確かにそうだけど、さすがにここで「実は幽霊屋敷でした~!」なんて一般的に考えて普通やるか?」


「律ならやりかねない」


「……俺に対するイメージがひどい」


というか俺がからかうようになったのは叶のデレに対抗するためであって、元々からこういう風にしてる訳じゃない。

昔の叶にこれやってたら絶対引かれてる。うん。


「とりあえず、勝手に入っていいって話だから、入るぞ」


不服そうな叶それだけ言って、玄関まで行ってドアを開けようとするが


「……あれ、開かない」


何度かガチャガチャやってみるものの、ドアはびくともしない。


「どうしたの?」


「鍵がかかってるみたいだ」


どこかに出かけているのだろうか。


「まぁ……普通にチャイム鳴らすか」


「それが一般常識だと思うけど」


正論すぎる叶の言葉に「それもそうか」と思いながらチャイムのボタンを押し込む。


ピンポーン♪


昭和っぽいチャイムの音が家の中で響く。

しばらく待ってみるものの、なんの音沙汰もない。


改めて押してみる。


ピンポーン♪


…………やっぱり何も聞こえない。


「いないみたい?」


「うん、そうらしい」


さて、どうしようか……待つと言ってもいつ帰ってくるか分からないし。


「あ、そうだ」


確かこの近くに川があったはず……昔はよくそこで叶を連れて来て一緒に遊ぼうとしたのだ。まぁ結局1回も遊んでくれなかったんだけど。


「どうしたの?」


「近くに川があるんだ。そこでゆっくりしていよう」


「分かった」


────────────────────


少し茂みの多い細い斜面を下って川に着くと、そこには昔とは変わらない風景が広がっていた。


「昔、ここに2人で来たことあるんだけど……なにか思い出しそうか?」


「………ううん」


一応聞いてみたが、やっぱり記憶は蘇らないようだ。まぁ、これは辛抱強く待つしかないだろう。


「まぁ、その……足だけでも川に入る?」


重い空気を和まそうとわざとらしく明るい声を出して水遊び(?)に誘ってみた。


「うん。せっかくだからそうしようかな」


記憶を失ってからの叶にしては珍しく申し訳なさそうな表情でそう答えた。まぁでも、今までの叶は誘っても絶対に川に入りたがらなかったので、こういう形にはなってしまったが誘いに乗ってくれたので多少ではあるがなんだか嬉しい気持ちになった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る