第16.5話 過去のお話③

祖父母の家を訪れた律と叶は、茶の間の机の上に置いてあったみかんを美味しい美味しいと言って食べていた。


「律ちゃんはもう中学2年生かい?」


祖母はそんな2人の様子を見て微笑んでいる。


「うん、そうだよ」


「叶ちゃんも、中学2年生か?」


祖父が尋ねると叶は「うん」と小さく頷く。


「もう中学生の半分……早いねえ。ついこの間、小学校に入学したばっかりのように感じるよ」


「おじいちゃん、それは大袈裟だって」


律は祖父の言葉に苦笑いを浮かべる。祖母も「そうですよ、あなた」と笑みをこぼす。


「そうだ、おばあちゃん。これ食べ終わったら川にまた行ってもいい?」


毎年祖父母の家に行くと決まって律は川遊びをしたがる。

時には魚を釣ったり、時には水遊びをしたり。この時の律は水遊びをしようと思っていた。


「もちろん。楽しんでいらっしゃいね」


「わかった。そうだ、叶も一緒に行こう」


「え……私は……」


突然会話が振られ、戸惑う様子を見せる叶。だが、律としては毎年断られている身なので今年こそはと思っていた。


「せっかくだから、叶ちゃんも行ってらっしゃいな」


「俺もいるから安心だぞ?」


祖母と律にさらに畳み掛けられ、ついに叶はうなずいてしまったのだった。


────────────────────


「水冷たっ!?」


叶と祖父が河原で見守る中、律は1人川で寂しく遊んでいた。


「って……なんか思ってたのと違う」


中学2年生になって少しは話すようになったので、川に来れば叶は遊んでくれると思っていた律は川の中で試行錯誤することになる。


そして出た結論は。


「えい」


パシャリ


「!?!?」


無理やり巻き込むことにした。


「冷たい?」


少しいたずらっぽく笑うと、叶は何が起こってるか分からない様子でフリーズする。


そして、途端に不機嫌そうな表情になる。

あ、やばい。思ってた反応と違う。


「なんで水をかけるの」


「い、いや、何となくかけたくなったので……」


「何となくで水をかけたの?」


やばい、なんかすごいオーラがたってる。


「まあまあ、叶ちゃんも遊びなよ。都会には少ない自然を堪能できると思うよ」


おじいちゃんが宥めるも、不機嫌は変わらない。


「私はここにいるだけで、楽しいから大丈夫」


「その割には表情怖いけど……」


「楽しいから、大丈夫」


「は、はい……」


結局、このあと俺は1人で水遊びを楽しんだとさ。





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