第16話 義妹 兼 恋人と帰省します。深い意味は無い。
「来たぞ……秋田!」
駅の東口を出ると、ググっと伸びをする。新幹線でずっと座りっぱなしだったから、体がバキバキである。
「眠い……」
叶は俺の服をキュッと握り、眠たげな目を擦っていた。叶は新幹線でずっと寝ていた。寝る子は育つと言うしな。いいことである。
今、俺たちはゴールデンウィークを利用して叶の母方の祖父母の家に顔を出すために秋田県に来ているのである。
やはり春とはいえ、さすが東北。少し肌寒いくらいだ。
両親は急用が入ったので、途中から合流するのだそう。まぁ、5日くらいいるから4日目とかに来るだろう。仕事が忙しいのだから、しょうがない。俺も父が再婚すると言った時それは重々承知していた。
「じゃあ、行こう」
そう言って俺は叶の手を優しく握った。
叶は記憶を無くしてから初めて自身の血の繋がった祖父母の家に行くのだ。何も覚えていないだろうし、不安も多いだろう。
だからこそ、俺が叶に付いていないといけない。
叶はコクリ、と小さく頷いて歩き始める。
祖父母の家は山の中にあるためここからはバスで移動することになる。
バスに乗り込みドアが閉まると、ゆっくりと走り出す。最初は建物等が多く人通りもある街並みだったが、気がつけば建物は減り、山道に入っていた。
肩に温かい感触を感じて、見てみると叶が小さく寝息を立てていた。
「ほんとによく寝るな……」
そう思わず苦笑する。
そして気持ちよさそうに眠る叶を見て、自分もだんだん眠気に支配されていった。
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「律。起きて、律」
肩を少し揺さぶられ、目を覚ます。
「着いた?」
「うん」
俺は車窓の外を見ると、自然に囲まれた綺麗な村が広がっていた。
久しぶりに見た気がするな。昔、叶と一緒に行った時より森が豊かになったか?
俺たちはバスを降りる。バスの運転手は「気をつけるんだよ」と一言くれた。その言葉に対して会釈して、祖父母宅に向かって歩き始める。
「記憶がなくなる前ここに何回か来ているはずなんだけど覚えてるか?」
俺がそう聞くと、叶は目をつぶり思い出そうとする。
「分からない。けど、なんだか……落ち着く」
そう言って目を少し細める叶。
記憶がないとはいえ、祖父母の家までの道も身体が覚えているのだろう。
「いつか、思い出せるといいな」
そう言って叶が俺の手をスっと握る。
その手には、少しだけ力が篭っていた。
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