第14話 封印された、心の声

「じゃあさ、次は……私が選んでいい?」


少し頬を赤らめながら叶はそう尋ねてくる。

俺としては他人に服を選んで貰ったことなんて滅多にない(あったとしても父親か義母くらいである)ため嬉しい言葉だった。


「もちろん。頼めるか?」


「うん」


コク、と頷くと叶は早速メンズのコーナーに突入していった。


そして約10分後。


「これ、どう?」


そう言って渡してきたのは、緩めのカーディガンと春用のニットセーター、そしてデニムズボンとソックスだった。

ま、まさかの全身コーデ……それになんか、組み合わせが大人っぽい。

叶ってこんなにオシャレなもの選べたっけ?と思いつつ服一式を受け取る。


「私なりに頑張って選んだ。似合ってるといいな」


そう言ってニヘラ、と笑う叶。俺は思わず目を背け、顔が赤くなっているのがバレたくないので「おう」とだけ言って、そそくさと試着室に入った。


「時々ああいう表情されると心臓に悪いな……」


俺はそう呟きながら、着替え始める。


来てみた状態を鏡で確認すると、やはりとてつもなくオシャレだった。大人っぽいというかなんていうか……今までの俺では絶対に着ないであろう服装である。にも関わらず俺の雰囲気とマッチしているのは何故だろうか。


「やっぱり長年一緒に住んできたからか……?」


記憶を失っているとはいえ、小学生の頃から一緒に過ごしてきたのだ。たとえ記憶が無くとも、体が覚えているのだろうか。


試着室のカーテンを開き、外に出る。


「叶、どうかな?似合ってるか?」


叶は俺の方を見ると、カチッとまるで時が止まったかのように動きが停止した。


しばしの沈黙。


「おーい、叶?」


呼びかけるとハッとしたように動き出した。


「あ、いや……なんでもない。似合ってると思う」


そう言う叶は先程とは違い、暗い表情になっている。


「どうした?」


俺が問うと「大丈夫」と答える叶。でもやはり表情は暗いままだった。気づかないうちに叶の気に触るようなことをしてしまったのだろうか。


「なんでも言ってくれて良いんだぞ?あれか?もしかして俺、叶に嫌な気持ちにさせちゃったか?」


「ううん、違う。絶対に違う」


フリフリ、と首を横に振り必死に否定する叶。


「じゃあ、どうしたんだ?」


もう一度聞くと、叶は少し俯く。


「なんだか、悲しくなって……」


「悲しい?」


叶はゆっくりと頷く。


「どうしてこんな気持ちになるのか、分からない。でも、ものすごく悲しいっていう気持ちが溢れてきて……」


どういうことだろう。俺は叶の言っていることがいまいち分からなかった。けど、叶は今悲しい気持ちになっているということは明らかである。


「そっか……」


俺は叶に寄ると、そっと頭を撫でた。


急に頭を撫でられ、キョトンとする叶。


「俺もどうして叶がそんな気持ちになっているのかは分からない。でも、もしそういう時が来たら、俺を頼って欲しい。義理だとしても、叶の兄だからさ」


俺はそう言うとできるだけ優しい笑みを浮かべる。叶の悲しい感情が無くなるように、できるだけ優しく語りかける。


「ありがとう、お義兄にいちゃん」


叶はそう言って、そっと俺の胸に顔を埋めた。






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叶が可愛いと思う人は★または感想をぶん投げくれると嬉しいです。少しここで一区切りになりましたね

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