第8話 初めてのデート(?)②

「着いたぁっ……!」


俺はググッと伸びをする。バスの中は混んでいて、ずっと立った状態だったため開放感が凄かった。一方、叶はと言うと……


「うう……」


酔っていた。グロッキー状態である。


「叶、大丈夫か?」


「なんで、こんなに、混んでるの……」


人に大勢囲まれ、ユラユラとバスに揺られ、叶にとっては地獄のような場所だったのだろう。


「何か飲み物買うか?」


「うん……」


流石にこの状態で映画は見るもんじゃない、と思った俺はひとまず、温かいミルクティーを自販機で買って叶に渡す。


ショッピングセンターの端にあるベンチに座って、ちびちびとミルクティーを飲み始めた叶は、だんだん酔いが治まってきたようだった。


「ありがとう……」


「大丈夫そうか?」


「うん、大丈夫」


コクリと頷く叶。少し顔に元気が戻ってきたみたいだ。


「えっと、映画が始まるまで時間あるが、どうする?」


そう聞くと、叶はスっとある方向を指さした。


「ゲームセンター……行きたい」


視線の先には、可愛らしい犬のぬいぐるみが置かれているクレンゲームが設置されていた。


「あの犬のぬいぐるみ欲しいのか?」


「うん」


ああいうのって普通小学生とかが好き好むんじゃ……、と正直なところ思ってしまった。

だが、叶は俺の心情を察したのだろうか。


「別に高校生でもああいうのが好きな子……いるもん」


ムスッとした表情で俺を見上げてくる。あーもう、その仕草が可愛いんだよこの子は……。


「分かった分かった……ほら、5回までだぞ」


「絶対……取る」


叶はベンチから立ち上がると、そう意気込んだ。


────────────────────


「………もう1回」


叶は、全く微動だにしないぬいぐるみと睨み合いをしていた。


「あ、あの、叶?「もう1回」が15回くらい続いてるんだけど……」


「………もう1回。今度こそ取るから」


「いやほんとにまじで勘弁して。このままじゃ映画代まで吹っ飛んじゃうから……」


そう言うと、叶は「しょぼん……」いや、というよりもはや「ズーン……」というおもーいオーラを纏い始めた。


「あーもう、わかったよ……ほれ、後ろに立つぞ」


そう言って叶の後ろに立ち、叶が握りしめる操作レバーに自分の手を上から添えた。


「////っ!?」


「どうした?」


「な、なんでも、ない……」


叶は何故か俯いて、震えている。

「まぁ、いいか」と俺はチャリンと100円を投入し、レバーを操作し始めた。


「叶は胴体を持ち上げようとするから取れないんだよ。ここを、こうしてやると……」


叶の後ろから顔をのぞかせながら、クレンゲームを操作する。


「////ふえっ!?」


叶の体が、ビクン、と震える。


「ど、どうした?」


「////な、なんでもないっ……!」


そう叶が大きめな声で返事すると同時に、ガコン、と音を立ててぬいぐるみが落ちてきた。


「お、取れたな」


ぬいぐるみを取り出すと、叶に手渡す。


「ほら、やるよ」


叶はぬいぐるみを受け取ると、ギューッとそれを抱きしめ、顔を埋めた。


「なんだ、そんなに欲しかったのか」


俺はからかい口調でそう言うと、叶は目線だけこちらに向け、ポツリと呟いた。


「耳元での不意打ちは……ずるい」


「////っ……!?」


その破壊力に俺の顔はみるみる赤くなっていくのを感じた。


そして俺は、自身がした行動の恥ずかしさに

今更気づいたのだった。





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叶にもっと甘甘して欲しいと思ったら★または感想などをぶん投げくれると嬉しいです

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