交差点と朝日のぶつかるところ

 私と姉は早朝5時頃、まだ太陽が出ておらず、東に見える山並みの上がうっすら明るくなった頃に家を出た。私と姉は2つ年が離れていた。二人とも高校生だった。

 

 二人は自転車に乗って、家の近くの田んぼに向かっていた。坂を下って、新興住宅街を抜けて、線路の高架下をくぐるとその先に田んぼがあった。田んぼの横には林を挟んで川が流れていた。川は数年に一度、夏の大雨で氾濫するため、その田んぼは遊水地の役割をはたしていた。その洪水は林や田んぼの土をかき回して、そこは町とすぐ隣にあるが、昆虫など生物の数も種類も豊富だった。初夏から蝶やトンボ、カエルにカブトムシ、カメなどがいた。


 田んぼのあぜ道を抜けて林の植え込みに二人は自転車をとめた。まだ太陽は登っていなかった、うすく晴れ渡った空は、淡い水色で、私は今日は暑くなりそうだと思った。冷気を含んだ空気を胸に吸い込んだ。

 

 姉はバックパックから折り畳みの虫取り網を取り出し、組み立て始めた。

 空には月が出ていた。澄んだ青空に、白い月が浮かんでいた。更待月だった。

太陽があるであろう位置と、月の明るい部分が、整合していて、興味深く思い私は見ていた。

 

 「太陽が出ないと蝶は飛ばないんじゃないかな」私は言った。

 「そうだね、ちょっと歩いて探してみる」と姉は言って私から離れた。


 田んぼの間には用水路があって、そこに地下からくみ上げた水がドンドコ流れていた。私はその場に立たまま、その音を楽しく聴いていた。雑草に覆われた田んぼのあぜ道の間に、新鮮な見るからに冷たそうな地下からくみ上げられた水が流れていて、豊かな自然の発露があった。

 東の山々の空が白くなって、オレンジ色のマグマが山頂から流れ出るように太陽が昇った。スズメやらヒバリやらがピーピー鳴きだして、世界が光に包まれた。

 地球が始まって何億回繰り返しているか知らないが、虫や草花、鳥たちや世界そのものが、その光景に新鮮に驚いているようだった。


 しばらく経って姉が戻ってきた。

 「結構とれたよ」姉が言った。

 モンシロチョウ2匹とモンキチョウ一匹が虫かごに入っていた。

 「急いで帰ろう」と私は言った。


 家に着くと、母親が顔を洗っていた。私は母に弟はまだ寝ているか聞いた。寝てるよと母は言った。


 私と姉は、弟の部屋の扉を弟が起きないようにゆっくり開けた。二人でゆっくりと部屋に入って、姉は虫かごの3匹の蝶を部屋の中に放した。私はゆっくりと南の窓のカーテンを開けた。3匹の蝶はふわふわと飛んだ。夢の中のようだった。姉は私とアイコンタクトをして、小さくうなずき、それから寝ている弟の肩をそっとゆすった。



              

              

              

     今日は弟の誕生日だった。



                 

          終

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