第68話 楽して稼げる道はない①

 ここ最近、僕が稼いでる姿を見た駆け出し冒険者が僕の真似事をしてるようだ。

 しかし所詮は付け焼き刃。お昼当番を受け持っても、仕入れ値で足が出てしまっている人が続出中。


 ポーターの難しさを痛感してるとかで僕にお鉢が回ってきた。

 なんで僕に? ギルドでも解体技術の講習流行ってるでしょうに。それを尋ねたらエリンさんはため息で返事をした。


 どうやら件の冒険者達はポーターが楽して稼げる仕事だと思っているらしい。

 ポーター業なめてんのか!

 これはきつい灸を据える必要があるなと僕は意気込んでその冒険者を教育してやる事にする。


 案内された場所に行くと態度の悪い冒険者が三名。

 僕よりは上か同世代。いかにもギフトに頼って生きてきた面構えをしている。


「今日君たちの講師を任されることになったエルウィンだ。何か質問はあるかい?」


「どうすればポーターで稼げるようになるか知りたいです!」


「それー」


「マジ、モンスターの死体持っていっても査定額足もと見られててー」


 そんな受け答えしかできないなら今すぐに帰っていただきたい。

 ここ最近貴族とお付き合いしてるせいか、イキったチンピラのような態度を取られることに我慢ができなくなっている僕がいる。

 今すぐにこの授業を中断して帰りたくなってきたぞ!


 しかしここは我慢だ。僕は愛想笑いを張り付けて、その冒険者の実力を測ることにした。

 わざわざ冒険者がポーターに転職するのだ。それなりの問題を抱えているのは見て取れる。


 クエストは近隣のモンスターの討伐依頼。

 対象はフォレストディア。角に雷を溜めて攻撃してくる鹿型のモンスターで、その角が高値で売れることでも有名だ。

 さらに魔石は最近貴族界でコレクターが動き出すとあるギミックが隠されている。


 この手の情報はまず冒険者ギルドでは耳にしない。

 貴族であるアランドローさんと付き合い始めて、とある市場に足を運んで手に入れた情報である。

 こういった地道な情報の仕入れがポーターでも稼ぐ手段なのだが、目の前のギフトに頼った子供達は我関せずにくっちゃべっていた。


 もっと学ぶ姿勢を持ってほしい。

 それとも僕が戦闘に一切関わらないからと舐めているのか?

 だとしたらそれは大間違いだと言うことを示してやらなければ。


 僕は日々訓練を重ねることで位階を六に上げ『加速』の権能を得ている。

 これにより熟練度がⅩまで育った『熟成』『醗酵』がそれぞれ『瞬間熟成』『瞬間醗酵』に強化されたのだ。

 今までは念じることで体に溜めた菌を消費しながら醗酵も熟成も微調整していた。


 しかしこの技能は特定の場所に特定量、定められた数値を瞬時に叩き込む技能。

 ちまちま微調整を聞かせてる暇のないモンスターとの戦闘でも役に立ってみせたのである。


「戦闘は俺らに任せてエルウィンさんは座って待っててくださいよ」


「すぐ終わりますんで」


「後で解体教えてくださいねー」


 それだけ言って三人は僕を森の中に置いて行ってしまう。

 ここがどう言う場所か分かっててそんな事をやるのだ。

 もし僕が戦力外であるのならば、置き去りという行為はギルドから厳罰を喰らうのだが、なまじ自分たちが戦えるものだから気にしていないのだろう。


 しかし今の僕なら問題ない。

 相手を見ただけで瞬間的に熟成できる僕は、早速こっちに狙いを定めたホークアウルを視線で仕留める。

 木の上に落ちたので木登りしてそれを取りに行き、早速炊き出しの準備を始める。


 匂いにつられて目的外のホーンバイソンまで釣られてしまうが、これも瞬間熟成で仕留める。

 見るだけでいいのですごく楽だ。確かにこんなに楽ならポーター業に憧れを抱くのもわかる気がするね。


「お待たせしましたー、ってアレ? お肉もってきてたんすかぁ? せっかく超特急で仕留めてきたのに」


 手にしているのはズタズタに裂かれた白い小動物。

 頭に生えた角がかろうじてそれをホワイトラビットだと判別することができた。見ただけでわかる凄惨さ。

 これじゃあ査定額が上がらないのは当たり前だ。


「いや、さっき仕留めたお肉だよ。僕のリュックは余計なもの入れてないから。食べる? ちょうどいい感じに焼けたから」


「仕留めたぁ? 得物もなしでっすかぁ?」


「僕のギフトは武器を使わないんだ」


「そんなギフト聞いたこともねーけど。ま、くれるって言うんならもらいますわ。こっちの解体もお願いしても?」


「僕に全部任せるの? 今日は講師としてきたんだけど?」


「チッ、じゃあ食後におなしゃーっす」


 当てが外れたような舌打ちの後、当たり前のように串肉を頬張る。


「うっめ! この肉何の肉っすかぁ?」


「ホークアウルだよ。お口にあったのなら何より」


「マジカあのクソ鳥こんな美味かったんかよ。今度仕留めた時は持って帰るか」


「つって、アーキアがあいつを仕留めたことねーけどな?」


「うっせーバガン。お前だけには言われたくねーぞ!」


 口角泡を飛ばしながら食事。

 せっかくの料理も台無しだ。

 こうも食事を有難がられないのも久しぶりだ。

 すっかり平和な世界に慣れていたんだなぁと喝を入れ直す。


「この肉が美味いのって味付けなんすかね? 俺屋台で食ったことあるんすけどここまでじゃなかったっすよ?」


 一人だけ僕の料理に神妙な顔で食いついた。

 でも秘密は教えてやらない。

 せいぜい悩んで是非自分で見つけてくれ。


「さてね。僕の持ち物は市場で手に入るものばかり。君もポーターになるのなら入手は難しくないお値段のものだ。出来合いのものばかり仕入れていればすぐに底をつくというお悩みだが、こう言った調味料の類は買い込んでないのかい?」


「あー、全然っすね。俺ら料理できないもんで」


「それでよくポーターやろうって思うね? 力自慢だけならポーターに夢見ないほうがいいよ? 解体の技術いるし」


「あーやっぱりそうなんすね。正直もっと楽なもんかと思ってたっす」


「そこは僕以外のポーターがいない時点で気づくべきだ」


「それを言われたら、まぁそうっすね」


「おい! ジャスタ、いつまでもくっちゃべってねーで解体すんぞ! エルウィンさんに是非お手本を見せてもらわねーとさ!」


 奥の方からリーダー格の冒険者、アーキアの凄む声。

 バガンと共に僕に何かを仕掛けるつもりか。

 唯一味方になってくれそうなジャスタは、すごすごとアーキアに従った。

 さて、この子達をどうしてくれようかね?

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