第55話 ポーター需要

 裏街の問題が解決すると、不思議とポーター需要が強まった。

 やはりジャンクフードの登場が遠征クエストの受注数を増やしたのだろう。


 ギルドに出向いてクエストを精査してる位置うちに知ったことだが、お昼に赴いて夕方には帰ってこれる近隣のクエストが人気だった。


 駆け出しのパーティほど食費に金をかけられないのと、非常食が干し肉ぐらいしかない現状。野営してでもクエストを続行しようなんて若い衆がいないのも事実だ。

 今の世はギフト世代。


 その能力に任せた攻撃で、力を使い切ったらなにもできなくなる人が多いのもあり、ポーターを雇ってまでクエストを続行する様な人がいなくなったとか。


 だからランクを上げられないのではないかと思うが、そこに口を出す権利は僕にはない。

 お店はフライを揚げるだけなので昼時に暇な主婦の方にお願いして家庭の味の再現をしていただいている。

 ちょっとしたお小遣い稼ぎだ。それでも家庭の味を食べられるとして、それなりに評判を得ている。


 故郷を思い出して帰郷を考える冒険者も少なくないって聞くよ。


「エルウィン君、お待たせ。今日はこちらのパーティの荷物持ちをお願いするわね?」


「はい。エルウィンです、今日はよろしくお願いします」


「エルウィンて裏街のジャンクフード屋さんのオーナーさんて本当?」


「ええ、趣味が高じてお店を出してしまいました。僕としても本業のポーターをしたかったんですが、ご縁がなくそっちに力を入れてしまいました」


「じゃあお昼は期待してもいいのかな?」


「ご期待に添える様努力します。では今日のクエスト内容と、どのアイテムを持ち帰るかを相談しましょう。僕としても持ち帰れる範囲で持ち帰りたいですしね」


「分かったわ。実は今までポーターっていまいち信用出来なかったんだけど、エルウィンならなんとなく信用できるわ」


「何故でしょう?」


「そりゃ一代で店を成功させた事業主としての顔があるからじゃないか? それも安価で腹持ちもいい。冒険のお供にまさにうってつけってな」


「受け入れていただけた様でないよりです。僕としてもお仕事の理解も深まってくれて、やってみて良かったと思います。では、行きましょうか」


「もう会議は大丈夫なのか?」


「ええ、要するにお金になりそうなものは全部持ち帰るでOKですよね?」


「そりゃ可能な限りは稼ぎたいしな」


「僕もこの仕事を次に繋げるために頑張りますよ。その代わり、クチコミの方はお願いしますね?」


「ちゃっかりしてるぜ」


「冒険者もポーターも、信用商売ですから」


 出発してから二時間。

 今日のパーティーメンバーは僕を入れて四人。

 歳の頃は同じくらい。皆食べ盛りで野菜嫌い。

 揃いも揃って濃い味付けが好みときた。

 お客さんとしてきた時は高確率でオーク肉のロースカツサンドを買っていく。肉付きにはうってつけの食事だからね。

 でも野菜の好き嫌いはダメだよ?

 僕はどうにかして彼らに野菜を食べさせようと苦心する。


「よーし、休憩と行こう。エルウィン、解体は後回しでいいから昼飯の準備をしてくれないか?」


「分かりました」


 僕はその言葉に応じて解体を血抜きだけに止め、手洗いを済ませてから食事の準備にかかった。

 相変わらず細菌活性での着火は驚かれている。

 変なギフト持ってるなぁなんて困惑されたけど、便利なので使わない手はないよね。


 肉は豪快に切りつけ、野菜はスープにしてなるべくスープに溶かして混ぜる。神様秘伝のコンソメスープだ。

 そこにやはり散りばめるのは熟成させたオーク肉。

 みんなにはまさに肉尽くしと好評だった。


 そして食後も食前以上に動き出す。

 僕も負けない様に解体をしてしまわないと。

 ささっと解体しつつ、直せる修正箇所も直して保菌。

 菌の採取もできて一石二鳥なのだ、このお仕事は。


 そして夕暮れになり、ギルドに戻ろうと言うことになる。


 僕の方で抜き取った魔石はリーダーのアッシュさんに手渡してある。そして価値のある部位もそのまま受付に持っていってもらってる。僕の方は大きな荷物になっている、肉と毛皮の査定に赴いていた。

 担当はエリンさんが引き受けてくれた。


「はい、はい確かに。しかしエルウィン君、解体の腕も見事なものね」


「こっちが本業なんですけどね? パンは趣味です」


「趣味であそこまでやれちゃうのはお父ちゃんが失業しちゃうわ。まぁ半分失業してる様なものだけど」


「あはは、僕のお店の方では大変助かってますよ?」


「それにしてもこのギルドの雰囲気も随分と良くなった気がするわね」


「そうなんですか? 僕はこっちにあまりこないので変化に気がつきませんでしたが」


「そうね。でも変わったわ。みんな楽しそうにしているもの。それもこれもエルウィン君のおかげかもね?」


「だったらいいですね。お店を開いた甲斐があります」


「と、これは今回の査定に少し色をつけたものね? これでもずいぶん奮発したんだから」


 そう言って手渡されたのはシギル銭。

 ジャッハ銭より少し下で、シルク銭の少し上。

 それが100枚も置かれていた。

 希少部位が混ざっていたのだろうか?


 それを金貨袋に入れて寄越す。

 その重さに僕の方が萎縮してしまうほどだ。


「こんなにたくさんいいんですか?」


「もちろんあれほど状態のいい毛皮とお肉なら大助かりよ。次もお願いねと言う意味も込めての色つけだから」


「あ、はい。希少部位が入ってたとかじゃないんですね」


「ある意味ではお肉は希少よ。普通は死んだそばから傷み始めるもの。それを殺したてと言わんばかりの鮮度で、枝肉のまま100も持って帰ってくればどれだけの食肉店が手をあげるかエルウィン君は想像もつかないでしょ?」


「実感は湧きませんが、市場くらい?」


「もっとよ。ポーターとしての腕前も一級品ね。これからもうちの冒険者を手助けしてくれると助かるわ」


「こちらこそお願いしますね」


 それだけ言ってエリンさんと別れ、報酬の内訳をする。

 普段ポーターの取り分は極めて少ない。

 しかし今回は食事の負担に肉と毛皮の査定額が尋常じゃないことから頭分ということになった。


「あの肉、そんな価値があったのか。いつも廃棄してたのが悔やまれるな」


「でも持ち帰るのも手間よ?」


「と、言うことは分かるよな?」


「ええ、次もこれくらい稼ぐならエルウィンは必須ということね」


「そうしていただけると僕もありがたいです」


「全く、俺は長いこと冒険者やってるがシルク銭より上の貨幣見たことないぜ」


「本当よね、こう言うお金ってお貴族様が私達庶民に見せびらかすものだと思っていたわ」


「今夜は豪遊っす!」


 パーティーの面々は僕と別れる時まで笑顔で、それこそちぎれそうなほど腕を振るってくれた。

 僕もお店で散財してくれた幾つかは今回のクエストで回収出来たのでヨシとしよう。


 問題はあのお店、これからどうしよう?

 オーナーは僕でいいとして、働き手はご近所さん?

 そこはおいおい詰めていこう。


 僕の冒険者としての立場は確立できたし、後のことは未来の僕に任せた。

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