第42話 エルフと樹神の繋がり
「そういうあなたは……何者かしら? ポーターにしては随分としっかりしている体幹。でも戦士というには武器の類が見当たらない。ねぇ、あなたは何者なの?」
その自称姉が随分とグイグイくる。
「ちょっと姉さん、失礼よ?」
「だって気になるじゃない。あたし達以外に女神様を信仰している者がいるなんて」
「姉さん、それは本当なの?」
「あなた方は一体……」
子供っぽい姉は口元に人差し指を添えて「ナイショ」とこぼした。そっちから意味深な事を言っておいてこっちの質問に答えてくれる気は無いらしい。
「うちの姉が失礼をしてすいません。ほら姉さん謝って」
「なんであたしが謝んなきゃいけないのよー」
「ほぼ言いがかりでしょうが!」
「なんで決めつけるかなー? この子否定はしてないわよ?」
「えっ、嘘。じゃあ本当に?」
「ええ、僕は女神様を信仰してますよお姉さん。そういうあなた達も同じだとはびっくりしました。ギフト世代が女神信仰だなんて珍しいもので」
「あー、そこは話せば細かいので言うのは少し躊躇われるんだけど……」
「別に多くは求めていませんよ。これも旅の醍醐味と言うものでしょう。それぞれ思惑も目的も違うでしょうし、ここは一つ余計な詮索はしない方向で手を打ちませんか?」
「あなた本当に何者なの? こんな口達者な冒険者見たことないわよ」
「……それに清廉潔白。私の権能にそれらしい嘘をついてる気配も感じませんでした」
「清い身、ね。ならあたし達の探してる目標とは違うわね」
「何を目的としてるかは知りませんが、お姉さん達と敵対したくはないですね」
「あたし達もそう思うわ。君は敵に回したら厄介な匂いがするもの!」
その方達とはそれっきり、顔を合わせても特に何を話すでもなく、ただ馬車に乗り合わせた客同士という対応をとった。
馬車に乗り込む人数が一定になると、業者さんが馬に鞭を振る。
買い出しに出ていたブレイバーズの皆さんが戻ってくるなり、馬車は再び動き出した。
その間も神様は僕に声をかけることはなかった。
権能という言葉が聞こえた通り、相手は眷属。
使徒である時点でこちらの神の声や姿が見えている。
僕の方からはそのお姿を伺うことはできなかったが、神様はその姿を知って、隠れているのだろう。
妹の方が感知役。
姉の方が誘導役か。
姉が話を振り、その反応を妹が伺う事でその人物の情報を引き出そうとするようだ。
相手の目的は一切わからぬが、神様が黙っている以上僕が頑張らないと。
その姉妹は次の街で降りていく。
ブレイバーズの面々も。去っていく彼らを引き止める者はおらず、新しい顔が変わるがわる馬車に乗り込んだ。
手慣れた手つきで御者のおじさんが鞭を振るう。
馬が歩き出し、馬車の車輪が転がった。
景色が変わり、高原が切り立った崖、そして大きな湖に差し掛かる。
【あれは海じゃな】
ダンマリを決め込んでいた神様の声が聞こえた。
例の姉妹の探知範囲から抜け出したのか、それとも新しい知恵をお授けしてくださりたいからか。どちらかわからない。
海ですか? 湖の親戚みたいなものでしょうか? 言ってる意味が分からずに聞き返す。
【違う違う、もっと大きな水溜りじゃ。なんだったらこの世界はその大きな水溜りの上に浮かぶ軽石じゃな】
流石にそれはホラだろう。
神様はたまに誇大妄想を語る時があるからね。
【なんじゃお主、我のいうことが信じられんというのか?】
僕は笑って誤魔化した。
そして神様が先程出会った女神付きの姉妹について語り出す。
【先程のあやつらはな、樹神の手のものじゃな】
樹神ドリーシュ様ですか?
【うむ。完全に我らに対象を絞って行動しておるの。もし前の町で犯罪に手を染めておったら問答無用で連行されておるところじゃ】
どうしてです?
【過去の我の眷属は皆犯罪者だったからの】
それはアヤネさんのような日本人もですか?
【それくらい人間の中でのルールが厳格化しておったのじゃ。今ほどゆるくもなかったしの。まず武器を持っておるだけで犯罪者のレッテルを貼られるのじゃ】
そんなに過激だったんですね。じゃあ今の環境なら?
【のびのびと暮らして居られよう。よもや封印されてる間にこれほど歴史が風化するとは思わんかったが】
それほどの文化が消えてしまったことに理解が追いつきません。
【確かにそんな時代はあったのよ。おおよそ10000年前か。あの頃は誰もが野望に満ちておった】
神様もですか?
【我も、フランも。リーシュもな】
難しいお話です。僕にはどうすればみなさんが仲良く暮らせるか分かりません。
【それをお主に背負わせるつもりはない。お主はただ自分の目の前のことをこなしておくが良いぞ】
はい、そうします。
馬車はガタゴトと揺れ、状態の悪い道を進む。
行き着く場所を想像しながら、僕は期待を高めた。
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