第34話 ギフト持ちVS無能連合
当初のケヴィンさんの予定通り、うちのクランと合同でモンスター駆除を行うことになった。
普通であれば僕がポーターとして一緒についていくのが道理だけど。あいにくとやることが多くて手が離せない。
そんなわけでお試しで合同クエストに参加する形に。
今日は店を休んでパンの販売は全てギルドの購買で行う形となる。クランを上げての合同クエスト。
久しぶりに腕を振るうぜと僕以上に乗り気なレッガーさんが指揮を取った。
「よーし、お前ら。こっちは数で有利だ。確かに向こうはギフトが強いかもしれない。だがこっちのポーターはエルウィンだ。大船に乗った気で行こうぜ!」
合同クエストと言うより、勝負形式になったのはやはりギフト持ちVSギフトなしという構図があるからだろう。
勇者一行+ケヴィン、シェリーコンビVSクランアフラザードの竈全員だ。
人数的な有利など吹き飛ばせる戦力差。
だが勝負規定は持ち帰ったアイテムの査定額で決定する。
それが僕のポーターとしての力だと示す様だ。
「これは勝負にならないのではありませんか?」
「某もこちらは過剰戦力な気がするでござる」
「しかし姫さま。こちらは鑑定はできても解体はできるものがおりませんよ?」
「そこはもちろんお兄様の出番ですよね?」
「この男にそんな繊細な技能があると思うか?」
「でしたらお姉様が……」
「あいにくと私は衣装が汚れるのが嫌いでな」
向こうの方は生かすよりも殲滅するのに特化した布陣。
早々に試合を諦めてる様な気配がある。
何せモンスターはいくら駆除しても報酬が定まっているからだ。
実力があれば確かに大物を大量に狩れるかもしれない。
だが素材を持ち帰れなければ希少部位は捨て置かれ、鳥の肥やしになる運命が待ち受けていた。
そんなこんなでスタートしたクラン対抗クエスト勝負。
もう合同クエストだなんて前置きは明後日の方向に吹っ飛んでおり、檄を飛ばし合いながらの総力戦が始まっていた。
「ここいらのモンスターは囲んで殴れば倒せる! 極力魔法は使うな! 品質が落ちるからな!」
レッガーさんの指示はスラム上がり特有の目先に走った指示ではあるが、査定に響くのは確かなので白黒姉妹も従って杖で叩いていたりした。
討伐すれば解体の時間。除菌も兼ねて魔石も除去する。
あとはほどほどに乾燥させてから畳んでおこう。荷物を持つのが仕事なので、なるべく嵩張らない様にするのがコツだ。
「よーし、小休止入れるぞ。肉はなるべく処理して景気付けと行こう。エルウィン、料理番頼めるか?」
「お肉は焼いてしまっても?」
「許可する。白パンは俺の背負い袋に入れてきたからそれを振る舞ってやれ」
何をそんな大荷物を持ってきたのかと思ったら、パンだった。
最近お惣菜とセットでしか売れないから白パン単体は見向きもされないんだよね。レッガーさんらしいと言えばらしいが。
僕は早速それらを用いて賄いを作っていく。
早速休憩しにきたガントさんが串焼きを頬張りながら戦線に戻っていく。
後からやってきたサラさんが水筒にスープを掬ってガントさんに届けにいく姿も見えた。
普通ならみんなで一緒に焚き火を囲んでご飯を食べるのだけど、今日は数で勝負するから食事も合間に済ませるらしい。
途中途中でこちらの様子を見にきたケヴィンさんが交渉を持ちかけてくる。
「エル、金なら出す。だから食事を恵んでくれ!」
「そのお金は勝負の査定額から差し引く形でならいいですよ」
「鬼! 悪魔! でもくっそー、悩むなぁ」
「お兄様、それくらい払って差し上げればいいじゃないですか」
「お前な、タダで食う分にはいいが、こいつの飯は金を払うと結構いい値段するからな?」
「そうなのですか、お姉様?」
「残念だがそれだけの金銭を積む価値があるのがエルウィンの食事だ。そのおかげでポーター事業が予約で数ヶ月先まで埋まっている。それこそポッと出のお前が横から掻っ攫っていった物なら勇者の名声など秒で地に落ちるほどだぞ?」
「そこまでなの!?」
流石にそれは盛りすぎだと思いますよ?
しかしシェリーさんもケヴィンさんも目がマジだ。
おかげでアーシャさんまで信じてしまっている。
「ちなみに、このままいくと私たちの儲けは消耗品の次足しで足が出る未来が待っている。残念だが食うならこの不味い干し肉か、塩味のスープで腹を誤魔化すしかない」
「そんな……」
愕然と肩を落とすアーシャさんの目の前で、僕は秘伝のスパイスをスープに落とした。
カレエである。
「ぐわーーー!! このスパイスの匂い! カレエか!!」
「ええ。レッガーさんから許可はいただいてます。お肉も使用していいとのことでしたのでカレエでも作ろうかなと」
「なんて悪魔的発想なの? 私がカレエに目がないと知っての行い。万死に値します!」
「そんなご無体な。僕はただカレエを作っているだけですよ?」
その横で程よく焼けたおにぎりが網の上でばちばちと火花を散らす。醤油を塗り、ひっくり返して香ばしさを際立たせるのも忘れない。
「エルウィン殿ーーーご無体でござる!! くっ、いっそ殺せ!」
その匂いだけでアヤネさんが釣れた。ちょろいな。
あとはスープを煮詰めていけば、ケヴィンさんとシェリーさんも落ちるだろう。
「エル、肉の追加だ」
「はーい」
「お、カレエか。ちょうど小腹が空いてたんだ。少しもらってくぜ」
目を血張らせ、空腹を誤魔化すギフト持ちチームが信じられないと言う形相でガントさんを睨みつける。
「あんだよ?」
「いや、なんでもない。なんでもないが……」
──ぐぅうううううう
鋼の精神で無心を貫くが、静寂を空腹を伝える腹の虫が貫いた。もはや誰が音の出所かわからない。誰も気にしていない。
僕は食事に食いついたギフト持ちチームを横目に、解体をテキパキと終わらせる。
少し悪いことをしてしまったかなと思いつつ、とある交渉を持ちかけた。
「ケヴィンさん」
「なんだ?」
「カレエ、欲しいですか?」
「また何か吹っかける気か?」
「そうですね、そちらで一番値が張りそうなモンスターの死体を一体譲ってくれたら、鍋ごとお渡ししてもいいですよ。白パンもつけます」
「それは非常に魅力的だ。どうする?」
「焼きおにぎりもつけてくだされ! 後生でござる! 後生でござる!」
「迷う時間も惜しいわ。現在の手持ちの中で、と言う条件でいいかしら?」
「それで結構です」
そうして僕たちはガントさんたちだけでは先ず討伐することもままならない、ロックドラゴンとカレエの鍋を交換した。
ボロい商売である。
あとは解体を進めれば自ずと勝負はついてくる。
全てのモンスターを解体し、その査定額がジャッハ銭(大金貨)500枚相当にも及ぶ成果を挙げた僕たちと、解体費をギルドに任せたギフト持ちチームはその圧倒的数でもってしてもジャッハ銭10枚と圧倒的差で勝負が決する。
「良い勝負でした」
「何処がだよ、大負けしたわ」
「ですがカレエ欲しさにこちらに手渡した素材がなければ僕たちも危なかったですよ?」
「あれを手渡さなくても俺たちの負けははっきりしていたよ。これでわかったろ、アーシャ」
「ええ、お兄様。エルウィンさんがどれだけ優れたポーターなのかはっきりと見定めることができました」
えっこんな出来レースで?
僕はギフト持ちのエリート様から素直に喜んでいいのかわからない評価をいただくことになった。
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