第26話 今の僕にできる事
サラさん達から異常検出される菌を少しずつ僕の体へと移すことにした。あれが増えていけばきっと良くないことが起こる。
そしてその度に神様は眠られてしまう。
初期症状のうちに見抜ける僕が行動しないといけないんだ。
「なんだか熱っぽいわ」
「病気か?」
「そうかも。きっと昨日大変な目にあったせいかもね。少しダルいのよ」
「お姉様もなのですわね、実話私もなのです」
「あたしもー」
行方不明者が全員揃って微熱を訴える。
普通に考えれば昨日大変な目にあった弊害くらいに見て少し休めば、元通りと捉えるだろう。
が、常在菌が見える僕にはレッドアラームがなるほどの異常事態。昨日見た時よりも確実に多く菌が増殖していた。
こんなスピードで増えるのは少し異常だ。
「サラさん、少し触診しても良いですか?」
「エル君が?」
「ちょっと、弱ったお姉さまに触れようなんて失礼よ?」
「流石にエルさんでもそれは……」
「これは隠している僕が悪かったですね。実は昨日から皆さんの体から菌が異常検知されています」
「えっ!?」
サラさんが驚いた様に声を上げた。
「肌荒れに困っていたときの比ではない。もし僕でお力になれるのであれば、協力したいと思いまして。今神様は寝てしまっています。菌を集めるのは僕しかできません。どうか、お願いします」
僕の懸命な態度にガントさんも揺り動かされたのか「俺からも頼む、エルの診断を受けてくれ」と援護をいただいた。
「理由を話してちょうだい。まずはそれからよ。昨日からピリピリとした空気を感じていたのは知ってる。てっきりあたし達の心配をしていたのかと思っていたわ。けど、他にも何かあったのね?」
サラさんの指摘に緘口令を敷かれていた僕たちは顔を向き合わせる。少し考えたあと、騙し通すことは出来なさそうだと昨日の出来事を話すことにした。
「えっ、ベルッサムの断頭台のマスターが死んだ!?」
「それはついに因縁が解消したということなのじゃない? 何故そんなに表情が明るくないのよ? 喜ばしいことでしょ!」
サラさんが驚き、姉妹の黒い方が声を上げる。
「死に方が人間のそれじゃなかったんだよ」
「どういう事?」
「サラさんはポイズンジェリーというスライム種をご存知ですか?」
「いいえ、知らないわ」
「神様曰く、物理無効、魔法無効、体液が毒で出来てる意志のある猛毒だとかで、それが例のマスターの肉体から出てきました」
「なんで!?」
それは驚くだろう。誰だってきっと驚く。
「僕の神様はそれを消滅させるのにお力を使われ、今眠りについています。体が猛毒に侵されたマスターの方は僕が菌を異常活性させてなんとか処理しましたが、触れても危ないので魔法の水で処理しました。その時に感じた菌と、サラさんから検知された菌が、同等のものかもしれません。なのでそいつらが増える前に僕が保菌しておこうと思ったんです。どうかご協力いただきたく」
「俺もよく分からねぇが、あれはただならぬ雰囲気だったぜ?」
「そういう事なら……あたし達も協力するわ。ね、貴女達?」
「そうですわね、それでこの気怠さが取れるなら協力してあげても良くってよ」
「もう、この子ったら。そういうわけですのでお願いしますね?」
「任されました」
菌を肉体に入れるたび、体の中でチクチクとした痛みが走った。
きっと例の菌が悪さしているのだろう。僕は細菌振動で例の菌を消滅に導いた。そのおかげで熱っぽくなってしまうが、神様が眠るほどの力は使ってない。
「すごく、楽になったわ。これなら今日も冒険に出られそうよ」
「それはやめとけ」
「何よ、昨日あたし達が迷惑をかけた分頑張ろうと思ったのに!」
「まだ向こうがどんな手段を用いてくるのかわかったもんじゃねぇからだ。向こうのバッグに水神グリフォード様がいらっしゃる。あの方がガイをこんな目に合わせた諸悪の根源だとしたら、きっと被害は増えていく一方だぜ?」
「そういう事なら辞めておくわ。今日は安静にしてましょ」
「エルも一人で病気を抱える必要はないんだぞ?」
「これは僕にしか出来ない事です。それに神様から授かった権能のお陰で僕は毒に強いですから」
「強くたって無理はすんなって事さ。レッガーには俺からも言っとく。今日は安静にしてろ」
「はい……ありがとうございます」
ガントさんには適わないな。確かに僕の体でもあの菌を扱うのは少し難しかった。
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