第25話 二次被害

 腐臭騒ぎが収まり、物言わなくなったベルッサムの断頭台のマスターの身柄を処理する。

 こんな人らしくない死体、もし相手からのクランメンバーに見つかりでもしたら大問題だ。


 それも神様は細菌活性でそれを暴いた。

 僕はきっとそこまでできない。人に向けて使うのは嫌がらせ程度だ。


「一件落着、なのか?」


「まだだ! クランとの諍いは済んだがモンスターパレードの方は何にも解決しちゃいねぇ!」


 フィンクスさんの気の抜けた声にガントさんが反論する。

 突然の出来事に呆けていたが、正気に戻ったのも一番早かった。


「確かに、サラさん達の安否も気になります。ギルドから連絡は?」


「来たら連絡をよこすと思うが……」


 ガントさんの視線がベルッサムの断頭台のマスターの死体へ移る。


「その前にこいつをどうにかしちまわないとな」


「いっそ燃やしてしまいましょう」


 フィンクスさんが過去を振り払う様に強い意志で強硬手段に出る。


【やめておいた方がいいわね。そもそもポイズンジェリーの住処だった男よ? 血肉も毒素に染まってるわ。下手に焼けば二次被害も免れない。だからエルウィン、頼むわね?】


「ええ、神様の意思を継げるのは僕だけです」


【できそう?】


「物を腐らせる発酵を高速で施せば可能です」


【そう、助かるわ。他のメンバーは散らばった汚泥を拭ってちょうだい。水道まで汚染されると困るから水は魔法を使いなさい】


「その魔法の使い手が現在行方不明なんだが……」


【魔道具でもなんでもあるでしょう、高くつくけど背に腹は変えられないわ。ここを失ったらそれこそ私達はスラムに逆戻りよ。帰ってきたあの子達をどこで迎え入れるのよ!】


「アフラザード様のおっしゃる通りだ。今日の分の費用はクランで持つ! エルウィン君は死体の処理を頼むな」


「はい!」


 ギルドからの報告が来るのと、死体の処理が済むのは同時だった。


 深夜にも関わらず、やけに騒がしくしているのを不審がられたが、サラさん達は無事近隣の街で保護されたことが確認された。

 ただ、証言は色々食い違っていて。

 一番の食い違いはそもそもモンスターパレードなんて起きていないという事だ。


 ではサラさん達はどうして行方を眩ませていたのか?

 それは本人に聞く他ないだろう。


「一応彼女達の安否は確認できたわけだが、どう思う?」


「モンスターパレードが起きてない件か?」


「それもあるけど、サラ君程の冒険者が遅れをとるモンスターがそこかしこにいるかという問題だ」


「例の水神が関わっている件か」


「そうだ。もし相手がその神様だった場合、サラ君達ではどうしようもないだろう。そして、ただ人間を拐かすだけだと思うか?」


「辞めようぜ、マスター。それ以上は机上の空論だ」


 フィンクスさんの懸念は第二、第三のベルッサムの断頭台の誕生を示していた。

 そこに自分たちのクランメンバーが関わっていたら?

 ガントさんはそのことに思い至って話を切った。


 サラさん達が無事ならそれでいいじゃないかと。

 そう思っていたいのだろう。

 僕だってそうだ。そう思いたい。


 だから、サラさん達がクランに帰ってきた時、異常なほど細菌の反応があったときは何かの間違いだと思いたかった。


「ただいま、ひどい目にあったわ」


「お疲れさん、散々だったな?」


「本当よ。突然よくわからないところに閉じ込められて、気が狂いそうになったわ」


「いなくなったやつは全員帰ってきたのか?」


「どういう意味?」


 ガントさんに質問に、サラさんは首を傾げる。

 どうも話が噛み合ってない様だ。


「だって姉妹と一緒に行方不明になったって聞いたぜ?」


「え、あの子達も? 知らないわよ。だってクエスト終えてギルドで別れたのよ? 私が襲われたのはその帰りね」


「じゃあ別件で捕まったのか?」


「そう、あの子達も帰らないとなるとマスターが気に止むのも仕方ないわね。あの子達、うちのクランでも貴重な戦力だし」


「ばかやろー、おれだってお前を心配してたんだぞ?」


「はいはい」


 会話を聞く分にはいつも通りのサラさんだけど、どうしてこんなにも胸騒ぎがするのだろう?


 まるでその内側に邪悪な意思が宿っているかの様に、僕は嫌な予感を拭えぬ夜を過ごした。

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