第24話 余闇の来訪者

 レッガーさんとパン談義で花を咲かせていた一方で、クランの方では人騒動起きていた。

 冒険者として活動していたサラさんと白黒ローブ姉妹が行方を眩ませたらしい。いつまでも帰ってこないことに痺れを切らしたガントさんがギルドに顔を出すと、緊急事態宣言をギルド側が出していた。


 詳しく事情を聞けば、近くのダンジョンでモンスターパレードが起きたそうで、それに巻き込まれたのではないかと持ちきりだ。

 行方不明者はうちのクランに限らず、他のパーティも同様だそうだ。


 安否確認がならないまま1日を過ごす。

 脳裏によぎるのはかのクランの仕業ではないかとの疑念ばかり。

 しかしあのクランからも今回は被害者が出ていた。

 あんな事件を出しているクランでも被害者が出た。


「確かにタイミング的に怪しいな。しかし尻尾を掴んでないうちは確証も得られず、か」


 フィンクスさんもまた答えを出しかねている。


「それよりもサラ達の安否だ!」


 ガントさんが冷や汗をかいている。サラさん達と一緒に組んでやっていたガントさんだからこそ、その想いは人一倍強い。

 僕としてもよくしてもらったお姉さんでもある。

 姉妹の方はいまだに距離感があるけれど、今は大切な仲間だ。

 安否が気にならないと言えば嘘になる。


「続報は、ギルドからはまだ何も?」


「せめてどんなモンスターにやられたかさえ分かれば敵討ちもできるのによ」


 ガントさんが悔しげに拳を握る。

 そこへ、クランに来客があった。


「夜分遅くに失礼するぜ」


「お前は、ベルッサムの断頭台のマスター!!」


 この人が?

 いや、人というには無理のある体格。

 まるで内側に獣でも買ってるかの獰猛さを瞳に宿し、その巨躯は鍛えられた筋肉に覆われている。戦うものの姿だ。

 だがその思想は歪められており、表情からは邪悪さを覗かせている。


「ご挨拶だな、フィンクス。昔散々遊んでやったのによ」


「昔の話だ。今はクランを従える身。昔話がしたいなら場所を変えることだ。今日の僕は、少し加減を知らないぞ?」


 ゴウッとフィンクスさんの肌が焦げ付くほどの熱気が巻き上がる。


「無能が、粋がるなよ」


「あの時のままの僕だと思うな。サラ達の仇、いつでも取る覚悟は出来ている」


「モンスターパレードの件か? あれならうちも被害者だ」


「抜け抜けと!」


 一触即発の雰囲気。

 そこへ神様が口を挟む。


【こやつ、本当にグリフォードの手のものか?】


 どういう意味です?


【奴の気配が微塵も感じられぬ。これはフランに担がれたか?】


 ではベルッサムの断頭台は無関係?


【だとしてもこうも嫌な気配を纏っていてはな。少し試すか】


 試す?

 いうが早いか神様はベルッサムの断頭台のマスターに権能を使った。


「ぐっ!? なんだこの不快感は!? ぐぶっ」


「ファンガス様!?」


【まぁ見ておれ。そうれ化けの皮が剥がれるぞ】


「ぐぉおおおおおおお! がぁあああああ!」


 ベルッサムの断頭台のマスターの人の姿が内側から食い破られる。それは汚泥を煮詰めて腐臭をあちこちに散りばめる異形だった。粘液が流動し、それが這いずり出る。


「スライム?」


【その上位種じゃな。あれらは人に巣食う。そして巣食った人間を別物に作り替えるのじゃ。彼奴のやりそうな事よ】


「ではそこにグリフォード様が関与していると?」


【間違いない】


【あれに対抗できるのはアンジー、貴女だけよ】


【その様だな】


 どういう事です?


【あれは物理無効、魔法に強い抵抗を持ち、さらに体が毒でできておる。要は意志のある激毒じゃな】


「冒険者じゃ勝ち目ないじゃないですか! 教会の聖者様は?」


「あいにくと庶民の馴れ合いで出動はしないだろうね。彼らもまた、ギフト至上主義者。動かすとなればギフト持ちか、貴族でもなければ出動に応じないだろう」


「でも、神様なら対処ができるのですよね?」


【出来るが、あの力を使うとワシは休眠状態になる。そうぽんぽんと使えない技よ】


 それは確かにまずい。相手の手先がこの人だけならいいけど、さらに用意していた場合詰む。他の対抗手段を探した方が良さそうだ。


「アフラザード様! 僕ではどうにもできないんですか?」


 眷属にしてもらったフィンクスさんが叫ぶ。


【フィンクス、属性相性は知っているわよね?】


「火は水に弱いというアレですか?」


【ええ、それよ。神の力もその質が同等なら相性通りになる。でも、毒属性は毒属性が最も有効なの】


「ではファンガス様は……?」


【彼女は病気と猛毒の女神。本来なら人類から一番疎まれるべき存在なのよ。でも、この局面では一番頼りになる】


【昔の話じゃよ。今は人類とも向き合っておる。殺す以外の手段も得た。力なんて使いようじゃ】


【だからこそこうして頼み込んでるのよ。私では太刀打ちできない、あの呪いの塊を倒せるのは貴女だけなのよ】


 汚泥はその場に広がり続けている。

 その腐臭を嗅いだものは次々に床に倒れ、病魔を急速に撒き散らしていた。

 このままじゃクランから人がいなくなってしまう。

 神様も、こんな場所で正体を暴かなくても良かったのに。


「神様、お願いします」


【良いのか、エルウィン? ワシが眠れば後の襲撃に耐える力が残せない】


「もしもその時が来れば、僕が頑張ります。なので手本を見せてください!」


【くふふ、良い。よいのぉ! それでこそエルウィンじゃ。さすが我の後継者じゃの。成長が楽しみじゃわい。よーく見ておれよ?】


 神様が僕に手本を見せる様に権能を行使する。

 汚泥は苦しそうにその場でのたうち回っている。


 細菌が、内側で急激に活性化し、さらには超速振動していた。

 枯れ枝が燃える様に、猛毒の汚泥がその身を震わせて内側から崩れ落ちていく様だった。


【フラン、あとは任せたぞ!】


【ええ、ゆっくりお眠りなさい】


 これでベルッサムの断頭台関連は終わったのかな?

 でもまだ終わってない気がするんだ。

 サラさん達の安否も気になるし、それ以上に何が原因でモンスターパレードが起きた?

 僕に対処できる範囲ならいいんだけど……


 でもやるしかない。神様に大見栄を切った以上、僕が頑張らないと。

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