第22話 一時共闘
【争うと言っても、こちらは少数派。策はあるのか?】
【まず街の住民を味方につけるわ】
【その為のパン、か】
【ええ。予想以上に規模が大きくなってしまったけど、想定内よ】
【まぁ知名度は上がったのう】
【スラム上がりと言うだけで世間からの目は冷たいの。でもね、そんな子達でも努力次第でここまでできる。そう思わせれば勝ちよ】
【我らの遣いという大分ズルがあるがな?】
【肝はそこよ。私達を信仰すればギフトに頼らずとも生活を向上できる。そう思わせるの】
【ギフト持ちが黙っておるかの? 自分の立場を奪いかねないものの台登を許すとでも?】
【だから戦争になるのよ。どちらか一方の思想を言い任せるまで続くわ。だからギフト至上主義のこの世界を根底から変える必要があるのよ!】
アフラザード様の想いは強そうだ。
うちの神様はそれでもまだ不安がつきまとう。
「神様は何をそんなに心配してるんですか?」
【ふむ、エルウィンには隠せんの。元々我々神格は人類の繁栄に助力しておった】
「助力、ですか?」
【うむ。リーダーが居たんじゃよ。人類を導こうと贔屓する神格がの】
「その方は現在?」
【我にも分からん。じゃが、我とは馬が合わんかった。散々苦労かけたと思う】
「そうだったんですね。では何故その人類史上主義派は落ちぶれて、今の状況になったんですか?」
【うむ、そこをフランから聞いておらぬのでの。分からんことばかりじゃ】
神様の懸念はそこにある様だ。
結局のところ、過去の栄光に縋りたいだけではないか?
一方の思想は僕も含めて素晴らしいものに思える。
けどその先には誰が得する思惑がある?
もしアフラザード様が成り代わる為の策だった場合、神様は二度も裏切られる形になるのかもしれない。
そんな時、僕はどうしたらいいのかな?
フィンクスさんには大事にしてもらっている。
ガントさんやサラさんにも、街の人にも知ってる顔が増えた。
僕は今十分幸せだ。
でも、そのせいで神様が苦しい思いをするのは違うよね?
僕は神様と出会わなかったらいつ死んでもおかしくない状況だった。そういう意味では命の恩人。
ギフト至上主義の人達のことだって、神様は直接関わってないし。
【私を信じて、としか今は言えないわ】
【本心は隠すか、フラン。変わらずじゃの】
「神様だって本音は隠すじゃないですか。アフラザード様ばかり責めるのは違いますよ。お互い様です」
【エルウィンには適わんの。相分かった。眷属からこう願われては協力せぬわけにも行かんじゃろ。じゃが、お主が天下をとっても我は従わぬが良いか?】
【ええ、あなたが誰かの指揮下に降る姿は想像できないわ。向こう側に与しなければ私は構わないわ】
【何か含みのある言い方じゃのう。まぁうちのエルウィンが虐められる様なことがあれば我は即座に牙を剥く準備はできとるがの】
【それは一柱の神格としてどうなのかしら?】
神様、僕のためとは言え少し恥ずかしいです。
でもありがとうございます。
作戦会議は終わり、午後。
パンの仕込みをしていると、レッガーさんが疑問を口にした。
「なぁ坊主」
「はい?」
「ここから離れるっていうのは本当か?」
それは僕はずっとここには居られないという答えに対する疑問。
今はすっかりこの工房で働く顔の一つとして覚えられている。
パン生地を捏ねながら、僕は困り顔で答える。
「今はまだわかりません。相手クランさんのこともありますし、ただのポーターでしかない僕に意外な特技があったことにはフィンクスさんに感謝しかありませんし」
「そうだよな! 俺もマスターに拾われる前は喧嘩三昧で、本当にそんな技術が身につくかなんて信じちゃいなかった。でもよ、俺なんかの作ったパンでみんな笑顔になった。お前がきてからの方が笑顔は強いが、それでもギフトなしという現実に腐ってた俺は救われたよ」
「僕も、同じ気持ちです」
発酵したパン生地が、竈の中で理想の形に膨らんでいく。
パンが焼ける前にサンドするお肉の準備だ。
今の看板メニューはオーク肉のカツサンドにカレエパン。
カレエパンは焼かずに揚げるので油は常に温度を上げておく必要がある。
アフラザードの竈は火神アフラザード様が居てくれるから常に温度は最高の状態で維持されている。
そういう意味ではここは理想の環境だった。
「パンが焼き上がったぞー」
「今カツが上がったところです」
「カレエパンは少し待て。今詰め込み作業中だ」
「じゃあその前に衣の方を準備しておきますね」
「頼む」
これも偶然の発見だったんだけど、ただパン生地のまま揚げるより、パンクズに潜らせてからあげた方がカリカリサクサクして美味しいのだ。それはオーク肉のカツから着想を得たことだ。
うちのパンはどんどん進化していっている。
肉を美味しく食べる手法で、パンもより進化していくのだ。
今や冒険者の旅の必需品になりつつある。
アフラザード様の思惑に乗せられてる気がしないでもないけど、何かを勝ち得た問い達成感は、何者にも替え難いものを感じる様だった。
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