第21話 水の女神グリフォード

【ふむ、我が寝てる間にそんなことがのう】


【想定していたよりも由々しき事態ね】


 復活直後にも関わらず、僕たちなんかのためにそのお知恵を貸してくださる。なんて慈悲深い。


「そういう事ですので、ウチも活動を縮小せざるを得ずでして」


 フィンクスさんが近況を述べ、クランメンバー達に神様達の言葉を伝える。僕もできるけど、まだ新参の僕には荷が重い。


【しかしあれよの。随分とおかしな世の中になってきているものよ。のう? フラン。何か申し開きはあるか?】


【分かってて聞くあなたが嫌いよ】


【ほれ、あの時我を封印なんかするから人類の制御を失うのよ。それよりも他の神々はどうした? 弱っているとはいえくたばる様な軟弱者はおるまい?】


【それがそうでもないのよね】


【となると?】


【ギフトのいくつかに直接関わってる奴らがいるわ】


【ギフトに?】


 神様が何やら難しいお話をされている。


【そうか……ではギフトとは……】


【ええ、新しく私たちのリーダーへと成り上がろうとしている奴がいるわ】


【では人間達を餌に成り上がろうとしている者が真犯人か】


【流石の直感ねアンジー。そいつは最もあんたを忌み嫌ってた奴といえばわかるかしら?】


【ぬぅ? 身に覚えがありすぎて覚えておらんの】


【そう言うところよ、ライバル視されたくて見返す為に私たちも巻き込まれたって感じ】


 つまり神様はその神様にハメられて封印。

 アフラザード様も上手い言葉に乗せられて力を失った感じか。

 あれ? それってただの痴話喧嘩じゃないの?


 そんなのに今の僕たちは巻き込まれたと言うのか。

 なんともまたスケールの大きい様な狭い様な。


 目に見えるだけが全てではないと聞いてはいたけど、僕は世界を全然と言っていいほど知らないな。


「神様、つまり僕たちの目指す点はどこにあるのでしょう」


【ふむ、まぁそこじゃの】


【あんた、全然分かってないでしょ】


「アフラザード様、あまり神様を責めないであげてください。何しろ僕と出会う前まで一万年も封印されていたんですから」


【それもそうね。悪かったわ。私から伝えるわね。悪さをしてるのは水神よ】


「水神……グリフォード様が?」


 僕も聞いたことがある。豊穣の女神様で大地を豊かにし、人々を見守る地母神だと聞いている。

 なのにうちの神様と仲が悪いなんて。


【彼奴が? が、たった一柱で実行できる手合いではなかろう】


【ええ、だから樹神と地神が組んだのよ】


【仲がいいものな、彼奴ら】


【そこは知ってるのね】


【まぁ影口叩かれてたぐらいは知っておるよ】


 なんだか神様悲しそうだな。

 普段とびっきり明るいからここまで落ち込む姿は見るに堪えない。


【じゃが、彼奴らはそう簡単に尻尾を掴ませないだろう?】


【そうね、慎重派よ、あの三柱は】


【で、お主はどう出る?】


【手始めにこのクランを作った。だが、まだ基礎の基礎が出来たばかり】


【そこで我らが手を貸したからとて、なんになる? 相手は強大。寝起きの我では荷が勝ちすぎやせんか?】


【無論、私たちもただ手をこまねいているだけでもないわよ】


【策があるのじゃな? 聞かせてもらおうか】


 アフラザード様の語る案は荒唐無稽を書き起こした机上の空論の様に聞こえた。


 ただでさえスラム上がりである僕たちはギフトに恵まれなかった残り滓。そんな僕らが強大な力を持つギフト持ちと切った張ったの大立ち回りをするだなんて聞かされても寝耳に水だ。

 クランメンバーもまた、難しい顔をしている。


【何よ、行動を起こしもしないで諦めるつもり? 私はフィンクス達が諦めても絶対に諦めないわ!】


 指導者がこの様子じゃ、ついていくフィンクスさん達も大変だろうな。


【なんじゃ、エルウィン。随分と他人事じゃの】


「なんか実感湧かなくて」


【それもそうじゃろ、決戦するとなっても何年も先の話じゃしの】


「ですよね、今すぐじゃないですよね」


【でも身近の問題にそいつらが関与してると知ってもそう言ってられる?】


「身近と言うと……?」


【ベルッサムの断頭台。奴らの背後にはあの三柱が居る】


【それは本当か?】


【私がわざわざなんの関係もない場所に拠点を構えると思う?】


【お主は昔からそう言う用意周到なやつだったな】


 フィンクスさんが少し悔しそうな顔をする。

 もしかしなくとも、自分が選ばれた理由がそれだけだったのではと思ってしまうのも仕方ない。

 なんせ僕と違って眷属ではなく信徒のままだ。

 神様の声を聞くことが出来るけど、僕の様に権能を授かってはいないもの。


【フランよ、そろそろ授けても良いのではないか? お主もフィンクスを気に入っておるのであろう? 今このクランの中核を成すのはそこの人間じゃ。我らは一時組んではおるが、ずっとではない。我らが離れた時のことまで考えておるか?】


【ぐ、むぅ。ずっとは居てくれないの?】


【ずっとは居らん。我らは誰にも縛られることなく過ごすと決めておるからの。じゃが、彼奴らが関わっているのなら手を貸そう。そういう意味では共闘関係じゃな】


【そう、そうね。切り札は残しておきたかったけど】


【それで信用を失っては人は神から離れていくぞ? それをさせぬために動くお主がそれでいいのかのう?】


【そうね、分かったわ。フィンクス、貴方に私の眷属になる名誉を授けます】


「!! 本当、ですか?」


【ここまできたら背に腹は替えられないわ。その代わり、馬車馬の様に働いてもらうわよ?】


「なんなりと。この命、すでにアフラザード様に捧げている次第ですから」


【良い人間を見初めたのフラン。ま、我のエルウィンほどではないがの】


 神様、そこで僕を比較に出すのはやめてください。

 フィンクスさんと比べられたら立つ瀬がないですから。

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