第16話 悪質クレーマー
翌日、パンの売り出しをしているところに、例の奴らが現れる。
スナックサンドを買いに来たとは思えない様子で、ジロジロと商品や店の中を眺めて、最後に僕に焦点を当てた。
「いらっしゃいませ。本日は何をお求めでしょうか」
僕は態度を崩さず接客にあたる。
向こうが何を思ってようが、僕が嫌な顔をするわけにはいかないもんね。
「おい、今日の売り上げを全部よこせ。みかじめ料だ」
「仰る意味がわかりませんが」
「あぁん? 誰に断ってこんな場所で商売してるんだって言ってるんだ! こっちはバックに領主様がついてるんだぞ!?」
「こちらはその領主様からきちんと経営許可をいただいて、ルールに則って販売してますよ。ほら、きちんと売り上げの5割を月末に払うように署名を頂いてます。今あなた方に渡すとそちらに払う分がなくなってしまいますが、そのことは領主様はお知りで?」
「チッ、ペラペラと口がよく回るもんだ。どうやら痛い目みないとわからないらしい。おい、お前ら。やれ」
「へい、兄貴」
どうやら暴力に訴えるようだ。
困ったな。どうにかして対処しないと。
【エルウィンよ、権能を使うことを許可する。返り討ちにしてやれ】
横で見ていた神様までが感応するように指示を出す。
やれやれ、こんな事に大事な菌を使う事になるなんてね。
まぁ、向こうの体内菌を増幅する事でどうにかなりそうだ。
この街に住む人たちより、清潔さは一つ劣る。
ならば僕の権能の使い所。
「死ねよやぁああ!」
商品ケースに振り下ろされるハンマー男には、お腹に溜まる菌ヘ『細菌活性』を仕掛ける。
一瞬で腹痛を訴え、なんだったら脂汗をかいてその場に蹲った。
やはり最近活性は人に向けて使うのは危険な術らしい。
「いででででで、腹が急に! 誰か医者を呼んでくれ」
「おい、急にどうした!」
男の手からすっぽ抜けたハンマーを片手でキャッチし、店内に置く。元に戻せばまた暴力を振るわねかねない。これはこちらで預かっておこう。
「しゃらくせぇ!」
取り巻きの一人短剣使いが今度は僕の心臓を狙って突きを繰り出す。こっちは動きが丸見えだったので対処が可能だ。そのまましゃがんでスルーした。男は商品ケースにつまづいて体制を崩し、その隙にナイフを頂く。また振り回されたら危ないからこっちで保管しなくちゃね。
ギフト持ちだからと有能とは限らないみたいだ。
アフラザード様はギフトの有無で優劣がつけられてる現状をなんとかしたいだなんて言ってたけど、この程度の相手ならモンスターの方がまだ強いと思う。
僕がポーターについて回ってたモンスターはクマとかワイバーンとかだったもんね。それと戦える冒険者はすごいなぁって思ってたけど、全員が全員そうではないみたいだ。
ナイフの人には身体中に菌がいたので皮膚にちょっとした吹き出物を出してあげた。一番症状が軽い奴だ。お医者さんにかかったらどれくらいの治療費を取られるかはわからないけど、何事も経験だよね。
「次々とどうなってやがんだ、この店は!」
最後にがなり立てた張本人が僕に向かって怒声をあげる。
部下二人があっけなくノックダウンしてしまった事実が我慢ならないらしい。
「僕もさっぱりわかりません。あの、ここはお店なんで暴力以外のお支払いもできますけど、どうします?」
「俺らから金を巻き上げようって魂胆か?」
「いいえ、それに見合った商品を付属するので巻き上げるということではありません。せっかく来たんですから何か買っていってくださいよ。お互い時間を無駄にはしたくないでしょう?」
「チッ、この店の一番上等なやつを寄越しな」
「エルト銭20枚になります」
あれからスナックサンドは裏メニューとして昇華した。
肉も上等なものに変わり、付け合わせた野菜も浅漬けせずに酸味を効かせたドレッシングを合わせる事でより美味しく仕上がったのだ。そのおかげでお値段が跳ね上がってしまったが、それでも根強い人気を見せている。
しかしそれを知らぬ来店者は、ただただ不快そうに僕を睨みつけていた。
「随分とぼったくるじゃねーか? 俺らを舐めてるのか?」
「この店で一番上等なものを望んだものはお客様ですよ? もっとお安いものはありますが、そちらはお口に合わないと思いまして、裏メニューの一つをお渡しする予定です。お手持ちが間に合わないのでしたら後日お越しください」
「誰がそんな端金出せねぇって言った? あるだけ出せ」
「あるだけとなりますと、20点。合計でシルク銭4枚ほどになってしまいますが宜しいですか?」
「これで文句はないか?」
カウンターの上に乱暴に置かれたシルク銭。ちょっと雑菌が塗れていたので回収しつつ「少々お待ちください」と一拍置いて商品を包む。
「お買い上げ、ありがとうございました!」
「二度と来るか、こんなぼったくり屋。せいぜい首を洗って震えてるがいいさ」
大荷物を受け取って男が重症患者を引きずって帰る。
何かのギフトだろうか? 大荷物の男が手を使わずに部下を引き摺って歩く姿を見て感心した。
【あの男、案外暴力に弱いのかもしれんの】
「そうなんですかねぇ? 金払いは意外と良かったのでまた来てくれるといいなぁ」
【あれらに動じぬお主も立派だったがな】
「へへへ、ありがとうございます」
店を閉める時、レッガーさんがハンマーとナイフが転がっている事を疑問に思っていた。僕はどうやってしらばっくれようか悩む。結局ことの成り行きを話し、レッガーさんから「危ない真似をするんじゃねーよ」とお叱りの言葉をいただく事になった。
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