第15話 因縁の相手

 クランのみんなとも打ち解けてきた。

 普段はパン作りに専念している僕も、休日には街の案内をガントさんにしてもらっている。


 今はギルドで軽い昼食をとっている。ガントさんはサラさんと一緒に次に受けるクエストを選んでいた。

 普段ではクランでやり取りする内容も、大元はギルドで取り扱ってるらしいよ?


 前の街もクランに与してないパーティーも直接ギルドでやりとりしてたっけ。クランは大所帯だからまとめて仕事を受けるみたいだ。


 この街に移り住んで早二ヶ月。

 いろんなことがあったけど、まだ二ヶ月しか経ってないんだなぁ。もう随分とここで暮らしてる気がするや。


【なんじゃエルウィン。すっかりこの地が気に入ったようじゃの?】


「はい。だってここまでよくしてもらったら、恩を返したいって思うじゃない? 今までは生きるのに必死だからそこまで考える余裕もなかったし」


【そうじゃのう、フランの奴は相変わらず何を考えてるか分からん奴じゃが、我らの扱いは高待遇。蹴るのは簡単じゃが、せっかくの好意を無碍にもできんしの?】


「はい」


 神様は得意げに腕を組んで空中を漂っている。

 相当機嫌がいいようだ。

 しかしそんな時、ギルドの一部で怒鳴り散らす声が上がる。


「おい! 俺様が声かけてんのに無視かよ!」


 声をかけられてるのはガントさんだった。

 サラさんも同様に無視しており、話しかけている相手は激昂している。


【なんじゃ、あ奴らは? 見慣れぬ顔じゃな】


「ですね。新しいパーティでしょうか?」


【いんや、あの因縁のつけよう。今日知ったばかりであそこまではならんじゃろう】


「すると僕が知らないだけで顔見知りってことでしょうか?」


【そう思っとくのがいいじゃろう】


 神様は納得したように腕を組む。

 僕はそう言うもんだと思うことにした。

 ガントさんは知らぬ存ぜぬで無視し、僕を連れてギルドを出る。

 ただその時、騒いでいた連中が僕に嫌味ったらしい視線を送っていたのが気になった。


「そうか、彼らが遠征から帰ってきたか」


 夕食後、フィンクスさんがクランメンバー全員を集めて注意を促した。それが本日ガントさんが絡まれた件だ。


【あ奴らは何者なのじゃ?】


【私達のクランを疎ましく思ってる連中ね。私のフィンクスがスラム上がりなのは以前話したじゃない?】


【それと関係があるのか?】


【大有りよ。あいつらは領主の息がかかってる冒険者なの。ランクこそそこまで高くないわ。でもね、落ちこぼれのスラム上がりを同じ冒険者として扱う気はないと堂々と口にしてるのよね。冒険者なんて能力の有無より何を成し遂げたかなのに】


 アフラザード様がプリプリしながら空中を彷徨っている。

 これは相当お冠のようだ。


「そう言うわけで、彼らは僕たちのクランに因縁をつけてくると思う。基本的には無視してことを荒げないことを優先してくれ。向こうはこの街の領主と裏で繋がっている。ことを荒げたらまず僕たちじゃ勝ち目がない。こればかりはアフラザード様でもどうしようもないからな」


 フィンクスさんが厳重注意をクランメンバーに促した。


「エルウィン君も悪いね、せっかくこの街に馴染めてきたところで」


「いいえ、こういうのは慣れてます。前の町でもそうでしたから……」


「そうだったか。ガントから聞いてはいたが、あまり思い詰めないようにね」


「はい、ありがとうございます」


 ただ念の為、気持ち多めに菌は持っておこう。

 もし僕に因縁をつけてきた時に追い払えるように。


「アフラザード様、お願いがあります」


【なんじゃ? アンジーのとこの眷属の頼みなら聞いてやらんでもないが】


「では僕に、フィンクスさんに迷惑をかけないように何か知恵を授けてくれませんか?」


【知恵ときたか。アンジーの入れ知恵かの?】


【我はエルウィンに好きなようにさせとるがの】


【ではこの者の想いか。ふふふ、良い。良いな、こういうのもたまには良いものだ】


【で、あろう? うちの眷属はそういう想いは人一倍強いものよ。下手な策など与えようものならタダではおかんからな?】


【そうやってプレッシャーを与えるでない】


 この二柱の会話はいつまでも聞いていられるな。

 神様と聞くともっと荘厳なイメージを思い浮かべるけど、このお二人は仲の良い姉妹のように思える。


 僕は一人ぼっちで生きてきたから、こんなふうに誰かに頼るなんてことは神様以外ではなかったのに。

 でも今はもう僕と神様だけの問題じゃなくなってきている。

 僕の勝手でフィンクスさん達のクランに迷惑はかけられないもの。

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