第14話 保菌でスキンケア?
スナックサンドが流行ったのも束の間、クラン内の女性陣からはちょっとした悩みが持ち上がっていた。
今日も今日とてスナックサンドを頬張るガントさんを横目に、サラさんが表情を青ざめている。
「あんた、よく毎日毎日飽きずに食べられるわね?」
「いや、だってこれうめーぜ? 一度食ったら病みつきよ。冒険者仲間に散々触れ回ったから今日もパン工房は大盛況って感じだしよ。お前は逆に何を不満がってるんだよ?」
「それよそれ」
ビシッと指をさしたのは白パンに挟まれた揚げ物の方だ。
嫌なものを見る様に表情を顰め、手鏡を覗き込んでいる。
「サラさん、何かお悩みでもあるんでしょうか?」
【分からぬかエルウィン】
「神様はお分かりになるんですか?」
【それはもう手に取るようにわかるわ。一応我も女じゃからな。女にとって必要以上の油分は油断大敵なのじゃ】
「そういうものなんですね。僕は男なのでよくわかりません」
【そこでエルウィンよ、お主の出番じゃ】
「僕の、ですか?」
【そうじゃ、おなご達からいつものように保菌してみせよ。きっと感謝の言葉を並べてくれることであろうよ】
「それだけでですか?」
【それだけでじゃ。だがな、勝手に奪うのはいけんぞ? きちんと取っていいか聞いてから奪うのじゃ】
「何故でしょう? 菌が繁殖する前に奪うことで未然に防ぐと言う手もあるのでは?」
【バカモノ! それではおなご達がエルウィンに感謝せぬではないか! 良いか? おなごにモテたいのならこれ見よがしに相談を受けて、そのおなごに感謝されるように仕向けるのじゃ】
「僕は別に神様以外から好かれたいと思ったことはありませんよ?」
【お主が良くても我がよくないんじゃ! このままではすぐにジジイになってしまうぞ? 我はそんなエルウィンを見とうない。我の為にもなると思って、我からの策をありがたく受け取るが良い】
なんだかんだと僕のことを考えてくれている神様。
神様の期待に応える為にも頑張らなくちゃね。
「サラさん、何かお悩みがあるのですか? 僕でよければお話聞きますよ」
「あ、エル君。なんでもないのよ、少し乙女の悩みを抱えていてね」
「実は僕、その人の抱えてる菌を色で見ることができるのですが……サラさんのお顔からは少し通常より多めの菌の量が検知出来ているので」
「え、そんなに!?」
「もし宜しければ僕の体に一時預かりこともできますがやってみましょうか?」
「お願いできる?」
「では少しお顔を拝借しますね。後じっと見られても恥ずかしいので目を閉じていただけると……」
神様の思惑通り、サラさんは食いついた。
そして保菌の能力で顔に繁殖していた菌を手に入れると、サラさんは手鏡であらゆる箇所を食い入るように見ていた。
「ない! ないわ! これは完治に時間がかかると思ったのだけど、バッチリ消えてる! ありがとうエル君! 貴方は女性の味方よ!」
「何をそんなに騒いでるんだよ、騒がしいやつだな」
「僕もそう思うんですけど、神様曰く女性にとって一大事な事らしいです。それに僕の権能が役立つと聞いて、一応聞いてみた次第です」
「なるほどな。俺ぁ鍛えてるから肌の調子が悪いかどうかは気にしないんだが、たしかに女にとって肌のノリの良し悪しは生命線だと聞くな」
果実酒でスナックサンドを流し込み、ガントさんは快活に笑う。
そんなやりとりを聞いたのか、はたまたサラさんが言いふらしたのか。来るわ来るわクランメンバーのお悩み相談が。
「その、貴方にこんなお願いをするのは筋違いだと思うのだけど……お姉様が貴方をお勧めするモノだから。いいわよね?」
黒ローブの子は僕になんか頼みたくはないが仕方なくと言った態度で接してくる。
「大丈夫ですよ。男の僕には相談しづらいでしょうけど、権能である程度のことは理解できます。顔に繁殖している菌の採取でよろしいでしょうか?」
「そ、そう? じゃあお願いするわ」
サラさんと同様にささっと保菌で集めてしまう。
そしてサラさんがつい気にしてしまうだろう手鏡を手渡しながら、どうぞご確認をと促すと、気になる箇所が見えなくなっていただろうことを大変喜んでいた。
「その、ありがとうね。あんた、なかなかやるじゃない。でも勘違いしないことね!」
それだけ言って黒ローブの子は出て行った。
一ヶ月以上もお世話になるのにいまだに名前を教えてくれない変わった子だ。白いローブの方はお姉さんなのか僕にも懇意にしてくれる。
「さっきこっちに妹が来なかったかしら?」
「ええ、先ほどいらっしゃいましたよ。サラさんから紹介されたようで」
「やはり。先程すれ違った時、悩みの種がすっかり消えていたのを見てもしかしてと思ったのよ」
「ではリーニャさんも?」
「ええ。私もスナックサンドをやめられなくて。お願いできる?」
「もちろんです」
今日だけでも3人。
その日を除けばクラン中の女性メンバー全員が相談に来た。
【カッカッカ。順調順調! もうエルウィンの天下じゃな】
「神様、僕のことを心配してくれるのは嬉しいですが、過分に持ち上げ過ぎですよ。僕は神様に褒めていただけるだけでこれ以上ない幸せです」
【お主はもう少し欲を出しても良いのだぞ? 無欲すぎる】
「過ぎた欲は身を滅ぼす。これはスラムの鉄則ですよ?」
【お主を改心させるのはもう少し時がかかりそうだの】
なんだかがっかりされてしまったな。
僕ももう少ししっかりしなくちゃ。
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