第13話 必勝のスナックサンド
僕が所属するクランアフラザードの竈では、冒険のお供にパンが配られることになった。
売却目的よりも、クランメンバーに共有するのが先決で、ついでのそのパンを宣伝する目的もあった。
本来なら貴族様しか口にできないと言う噂の白パンが、安い値で入手出来るとなれば飛ぶ様に売れるだろう。
しかしその為には口に運んでもらわなけりゃならない。
レッガーさんも凄腕ではあるがあの見た目故、客引きは得意分野ではなかった。
そこで僕が選ばれた。
「エル君なら優しい顔立ちだからこの街に住む住民にも受け入れやすいと思うのよ」
余所者だし? と言葉を付け加えるサラさんに、ガントさんがお前は一言余計だと追従する。
例の白黒コンビもサラさんの後について聞いてもないことをあれこれ説明してくれた。
サラさんは頼られる一方で、随分とその軽い口であらぬ疑いをかけられてきたらしい。
どっちもどっちじゃないかなと思います。
店番をしてても初日は全く売れなかった。
たしかにこんな少し大通りから離れた場所に店を構えていては呼び込みでもしないと売れないだろう。
フィンクスさんはそんな場所にかけるお金はないと言っていたし、どうにか口コミで集客して欲しいと無理難題を提示してくる。
やはり余所者の僕では客ウケが悪いのではと考える日もあった。
「おう、今日もダメだったか。ま、余ってもクランの連中が食ってくれるから無駄にはなんねーけどさ」
営業時間を過ぎたあたりでレッガーさんがやってきて、僕に声をかけた。部屋に戻る時、売れ残りのパンを3つ持たせてくれる。現物支給で悪いけど、今日の駄賃だと言って後片付けはレッガーさんがやってくれた。
僕は今日、何もしてない。
ただ椅子に座って人の行き交う裏道を眺めてただけだ。
白パンは黒パンより手間がかかってる分少しお値段がお高めに設定されている。
黒パンがひとつエルト銭3枚だとすれば、白パンは5枚。
高いと言ってもそれくらい。白パンを2個買うくらいなら、黒パンを3個買ってお釣りが来る方がいいと貧乏人は思うだろう。
実際僕も買う側なら迷わずそっちを選ぶ。
「どうにかして別の売り方を考えないとなぁ」
【そんなもん簡単じゃよ】
「何かいい策があるんですか?」
【あるぞ、とびっきりのがな】
神様の閃きで新しく販売する事になったのはスナックサンド。
カラッと揚げたブロック状の熟成肉に、浅漬けの技法で酸味を際立たせた薄切り野菜を添えて、それを中央で切り分けた白パンで挟むと言うモノだった。
お値段は驚きのエルト銭9枚。
実に黒パン3個分である。
これは絶対に売れないだろうと僕もレッガーさんも高を括っていた。
しかし実際にそれを食したクランメンバーからは驚きの声が上がる。
「うっま! なんだこの後引く味は。え、これがエルト銭9枚? 買う買う、あるだけくれ」
一番最初に挙手したのはガントさん。
「えっと、軽食には随分とお高いと思いますけど」
「バッキャロー、このレベルの飯を食うにはドレスコードが必要な貴族様のレストランに通わにゃならんぞ? それをこんな格安で売ってるのなんてバレたら領主から引っ立てられちまう」
「そんな、大袈裟ですよ。ねぇ、神様?」
【其奴の言い分は大袈裟でもなんでもないぞ?】
「いや、たしかにこれほどのものをそう易々と売られると黙ってる料理人は少なくないわよ? 今からお値段を少し計算しなおしてもいいんじゃないかしら」
ガントさんに続き、サラさんまで僕に説得する様に声かけしてくる。
「僕も先ほどいただいたけど、これはすごいね。いや、驚いた。眠気が一発で覚めたよ。それに持ち運べるサイズで、ガツンとしたお肉で腹持ちもいい。軽食でいただくにしては随分と豪華だ」
フィンクスさんまで僕のところにやってきて、絶賛の声をあげる。
【言ったじゃろ? とっておきの秘策があると】
「本当に神様の言った通りでした」
「やっぱすげーよ、お前の神様。これはうちの神様も負けてらんねーな」
バシバシと僕の背中を強打するレッガーさんの後ろで、当のアフラザード様は憎しみの念をより強めていた。
いや、アフラザード様も十分凄いんですよ?
そのお導きで事実上この街からスラムを撤去したんですから。
前いた町にもいてくれたらと何度も願ったことがあるか。
そこは僕の神様でも流石にできない事ですから。
【ふふん、これで我の一勝じゃの?】
【こんなもので盤石な私の地位を奪えるとでも?】
【やってみなければわからぬことよ。お主たちが嫉妬の末我を封じ込めた恨み、こんなもので晴らせると思うでないぞ?】
【むきー】
神様たちは今日も元気だ。
白パン販売の方はあいにくと伸び悩んだが、スナックサンドは外売りする前にクランメンバーに買占められた。
フィンクスさんはもう少し外からお金を取り込みたいと言っていたけど、この調子なら外でガントさんが勝手に宣伝してくれるだろう。
どちらにせよ幸先の良いスタートだった。
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