第11話 白黒姉妹

 パンの製作は週の半分に抑え、それ以外は今まで通り外にポーターとして保菌活動をする事を許されることになった。

 ガントさんやサラさんにお誘いをもらった手前、ずっと心苦しかったからね。


 レッガーさんは口は悪いけどいい人だから少し心の整理が必要だったりもするけど。


「いやー、一時はどうなることかと思ったがこうやって一緒に行動できてホッとしたぜ」


「ガントったら、早くエル君を他のメンバーに紹介したくて仕方がなかったのよね?」


「そうなんですか?」


「バカ、余計なこと言うない!」


 この慌てっぷりはどうやら図星のようだ。

 僕のようなポーターにもこの気遣いよう。

 やはり根は悪い人じゃないんだなと思う。

 クランの中で目的地を精査してると、見知らぬ顔がクランホールに集まってきた。


「およ、見知らぬ顔がある。新入り?」


「ここらじゃみない顔ね」


「おう、お前ら。ちょうどいいところに来た」


「あらガントが居るわ。と言うことはサラお姉様も?」


「あらーあたしが帰ってきてちゃ不味かったかしら~?」


「ひぃ!?」


 ガントさんをみてすぐにサラさんを思い出したのは女性二人組のメンバーさん。見た目的に魔法を取り扱うのだろう。

 白と黒のローブに身を包み、対極的な存在を示している。

 そのうちの黒い方に忍び寄ってサラさんが羽交い締めにしている。口は災いの元、とはこのことだ。


「紹介するわ。新しくうちのメンバーになったエル君よ」


「エルウィンです。前の街ではポーターをしていました。その時ガントさんにはお世話になって」


 僕が自身の得意分野を語ると、新しく紹介された白黒コンビは表情を顰めていた。


「ポーターって正気? マスターはお認めになったの?」


「そのマスターがGOサインを出したんだぞ? それにレッガーの奴が認めちまった。今更追い出すって言うのは無しだ」


「マジかー。たしかにパン部門はうちのクランの顔の一つだもんね」


 黒ローブの子が思い出したように頷く。


「あの、僕お邪魔でしたでしょうか?」


「そうね、くれぐれも私達の足を引っ張らないでちょうだいと言いたいところだけど、サラお姉様のお眼鏡に叶った手腕、見せてくれるのよね?」


「そう言うと思って待ってたのよ。この子すごいのよ? この街のポーターが霞んで見えるレベルなの」


「それ程ですか?」


 白ローブの子が顔色を伺うようにサラさんに尋ねた。


「この坊主のおかげで旅先の旅費が賄えちまったって言ったら驚くか?」


「あの解体職人から圧倒的に嫌われてるガントさんが言うのなら信憑性は持てますけど?」


 ガントさん、そんなに嫌われてたんだ。

 たしかに扱う武器は斧だ。威力が高すぎて素材系はズタズタに引き裂いちゃうからいろんなところが痛んで死体を持って帰っても二束三文で買い叩かれること間違いないもん。


 しかし僕には神様からいただいた権能がある。

 死体に溜まってる菌を使って治療まがいや雑菌を保菌したりして保存状態を良くするのだ。こうやって知恵を回して買取額を底上げしたのが喜ばれている。


「体力には自信があります! どうぞよろしくお願いします!」


「その見た目で信じろって方が無理があるけど。ま、信じましょう」


「そうしてくれると助かるわ」


 たしかに僕は見た目細い。だから余計に不振がられるにはわかってた。あとは行動を見せて信用してもらうしかないか。


 冒険を始めて数時間。

 今は獲物の解体をしながらご飯の支度をしている。

 そして焚き火の準備の際、細菌振動による発火現象に度肝を抜いたのは黒ローブの子だった。


「なっ、詠唱もなしで着火が使えるなんて……それだけの技術を持っていて、どうしてポーターなんかに?」


 たしかに着火能力を持ってればそこらじゅうから声をかけられるだろう。が、スラム上がりを雇ってくれるお店関係はまずない。

 スラムで育つってことはギフトに見込みなしと親から信用を勝ち得ない証明書みたいなものだからだ。


「実はこれ、僕の能力じゃないんですよ」


「エル君はウチのマスターと同じ信徒なのよ」


「「は?」」


 白黒ローブの声がハモった。

 でもひとつだけ否定しておくべきことがある。


「信徒ではなく眷属ですよ。僕の神様は僕を大変気に入ってくれてます。そのうちの一つの権能に、着火に似た効果があるだけです」


「凄いじゃない! なんで黙ってたの?」


「こんなの言いふらしたって誰が信じてくれるのよ」


 このギフト至上主義時代において、それ以外の天啓なんて信じようはずもない。

 言ったところで相手にしてもらえないのが関の山。


「だからうちで匿うのね」


「そういうこと。あまり虐めちゃダメよ?」


「それにしてもレッガーが気にいるなんてどれだけ他の能力が優れてるのかしら?」


「詳しいことはマスターに聞いてちょうだい。それよりもスープを頂きましょう」


 疲れた体に温かいスープが染み渡る。

 具材は野菜が中心だが、香り付けに神様謹製のキノコと熟成肉もこっそり入れた。


 あとは解体した肉の部位を焼いてそれぞれ口にする。

 食後、白黒コンビの僕を見る目が変わったのは言うまでもない。

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