第4話 新歓前、部室にて

 新歓を明後日に控えた金曜日。4コマ目の授業が終わってから、僕は少し部室に顔を出すことにした。写真の事で、色々と先輩方に訊きたい事が出てきていた。

――確か、カメラの本も色々あったと思うし、最悪それで勉強しよう。

前と同じようにドアをノックしようとした所で、ドアが閉まり切っていない事に気づく。中からは、品の無い笑い声が聞こえてくる。正直あまり入りたくは無かったが、

疑問を解決したい気持ちの方が勝った。少し開いたドアをノックする。

「どーぞー」

「失礼します」

間延びした返事を聞いて中へ入る。

「あれ、見たことない顔だ。新入生クン?」

髪を明るく染めた男女数人が、スマートフォンでゲームに興じていた。

「はい、先週入部した時永です。先輩方に、カメラの事で質問が――」

「あー悪い、オレらカメラ持ってないから質問とか答えられないんだよねー」

「そうですか……また今度、誰かに聞きに来ます」

どうにも、この先輩方とは仲良くする気が起きない。本を読んでいようにも、色々と面倒な絡みをされるのが目に見えていたので帰ろうとした所に、別の人から質問が飛んできた。

「そういえば時永クン、だっけ?新歓には来るの?」

「明後日の動植物園での新歓でしたら、参加させて頂く予定でしたが」

「じゃあさー、その日の夜に飲み会やるんだけど、来ない?他の子達にも声掛けてるんだけど」

「飲み会、ですか……お誘い頂いたのは嬉しいのですが、未成年ですしまた――」

「えー、真面目クンだなあ」

「まー別にいいっしょ、いつかのカノンみたいになってもマズいし」

「アレなー、流石にかわいそー過ぎたよな」

「……その話はするなと、何回言った?」

笑いながら話す先輩方の表情が、その一言で凍り付く。いつの間にか僕の後ろに立っていた旭部長が、いつもの優しい声とは遠く掛け離れた、怒りの滲む声で放った一言。机を囲んでいた先輩達は、失礼しましたー、と言い残して部室を去っていった。

「すまなかったね、時永君。何か変な事を言われはしなかったかい?」

元の穏やかな口調に戻って、僕に話しかけてくれる旭部長。

「ええ、特には……そうでした、旭部長」

「もっと気軽に、タクマー先輩、とか呼んでくれていいんだけどなあ。何だい?」

「カメラの撮影モードの事を、少し教えて頂きたいのですが……」

「そうか、わかった。じゃあ、パソコンの方に来てくれるかな?資料があるから、それを見ながら説明するよ」

旭部長、もといタクマー先輩の後ろから、パソコンのモニターを覗き込み、話に耳を傾ける――


「——と言う訳だけれども、結局は慣れになってしまうかな。何度も撮影に持ち出して、色々試してみるといいよ」

「ありがとうございます……頑張って、覚えていきます」

「今日は、これくらいにしようか。また聞きたい事が出来たら、新歓の時に聞いてくれたら説明するよ。集合場所とかは、大丈夫かな」

「はい、覚えてます。また明後日は、よろしくお願いします!」

 家へと歩き出しながら、タクマー先輩に説明して貰った内容を、頭の中で反芻する。カメラ任せで撮影できるモードが、機種によって何種類か。後は、露出——大雑把に言うと、写真全体の明るさだと言う――をどれくらいにするかを自分で決め、他の要素をカメラに設定してもらうモード。他の要素には、絞りとシャッタースピード、後は感度があったはずだけれども、まだそこまで理解が追い付かなかった。

――後は、明後日の新歓で試してみよう。

動物たちと、季節の花々。初めての撮影に期待が膨らみ、少し浮ついた足取りで帰り道を歩いた。



第4話 あとがき


 らいすばーどです。

だいぶ間が空いてしまいましたが、どうにか書き進めていますので、今後ともよろしくお願いいたします。

いよいよ次回、時永君は初めての撮影に臨みます。周りの人達と親睦を深めつつ、写真撮影を楽しむことが出来るのでしょうか。どうか、楽しみにしていただけたらと思います。

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