探し屋「其辺探索」

緋雪

探し屋

 俺の名前かい? 其辺探索そのべたんさくと言う。まあ、親がくれたモンじゃない。仕事の時の名前だがな。年齢は、まあ、不詳ということにしておこう。藤沢中学校の卓球部だということ以外は。


 俺の仕事は「探し屋」さ。まあ、簡単に言うと、人が探しているものを見つけるのが、俺の仕事。

 なんだそんなことか、そう思ってるだろう? 人とは違うところ。それは、俺がそのスピードにけていることさ。人が考えて考えて、諦めかけて、また考えて、30分かかるようなところを、俺はなんと5分以内で解決する。



「探索、探索よ」

ほ〜ら、早速さっそくきやがった。うちのじいちゃんだ。なあに、まだ学校に行くまでには1時間もある。余裕だろ。

「どした〜、じいちゃん?」

「わしの眼鏡知らんか?」

「じいちゃん、頭の上のそれはなんじゃ?」

「お? おお〜。あったあった。お前は天才じゃな」

そうさ、俺にかかれば瞬殺。まあ、じいちゃんのは、いつも簡単すぎるがな。



「探索、ちょっと来て、かまが、鎌がないんじゃ〜」

家の前の畑で草刈りをしていた、ばあちゃんが呼ぶ。何故、今まで鎌で草刈りをしていて、鎌をなくす?

「草がふこうてわからんようなってしもうて」

ばあちゃんが草刈りをしていた場所を探す。

「ここまでは刈りようったんじゃがのう」

「その後は、どうしよったんじゃ?」

「菜っ葉のとこの間のちいせえ草抜きよう間に、どっかいってしもうたんじゃ」


 俺は、ばあちゃんの恰好かっこうをみた。

「ばあちゃん、外、出るとき、ベスト着てねかったか?」

「ああ、途中で暑うなったけえ、脱いで、あそこに」

ばあちゃんが畑の外の岩の上を指す。

「そこ行ってみい」

ばあちゃんは、岩の方に歩き出した。それに俺もついていく。

「ほ。ありゃ。いつの間に」

「あったんか?」

「あったあった。やっぱりお前は天才じゃなあ」


 いや、ちょっとだけ時間がかかったがな。大抵、じいちゃんの探しものよりは、ばあちゃんの探しものの方が時間がかかる。



「あ〜、しもた。探索、探索!! ちょっと来て」

今日は朝から随分と依頼の多い日だぜ。それだけ俺の頭脳は頼られてるってことさ。


美和みわを保育園に連れていかんといけん。ちょっと鍋見といてくれん?」

母ちゃんに頼まれる。

「保育園? ちょっと早ええんじゃねえんか?」

「うっかりしとったんよ。今、あゆちゃんとこのママから電話あって、思い出した。先生に、お遊戯会の練習したいけえ、30分早めに来るよう言われとったんよ」

「そうか。わかった」

 俺は鍋係を仰せ付かった。俺の仕事とは関係ないことでもやるぜ? それが何かに繋がるかもしれないからな。



 丁度鍋がいい感じになった頃、父ちゃんが起きてきた。

「急ぐ急ぐ。探索、飯、できとるか?」

「今、できたとこじゃ」

「母ちゃんは?」 

「美和を保育園に送ってった」

「早いな」

「お遊戯会の練習があるんじゃと」

「そうか。ほいでも帰ってくるんが遅うねえか?」

言われてみれば遅い。

「まあ、どっかのママと話しよるんじゃねえん、また」

「ええんじゃけど、俺の弁当って、できとるんかのう?」

そう言っているところへ、バタバタと母ちゃんが帰ってきた。

「もう、あゆちゃんのママにつかまってしもうて……弁当のおかず作る暇がねえけ、悪いけどコンビニの唐揚げつめるけえ」

「……」

父ちゃんと俺は顔を見合わせた。まあいい。あそこのコンビニの唐揚げは最高に旨い。


「おい、母ちゃん、俺のはし一本しかねえが。もう一本どこいった?」

「探索?」

俺に聞くな。母ちゃんの担当だろう。仕方ないな。

「食器乾燥機の後ろ見てみい」

「あ〜、また、ここに落としてしもとる。父ちゃん待ってな。今洗うけえ」



 父ちゃんが会社に行ったあと、母ちゃんは自分の仕事に行くための準備をする。俺もそろそろ出ないとな。

「ごめん、ばあちゃん、洗濯機回していくけえ、干してもろうてもええ? もう時間がないんよ」

「ええよ〜。置いといたらええ〜」

ばあちゃんが、よいしょっと勝手口からあがってきた。


 じいちゃんとばあちゃんは、これからご飯だ。母ちゃんは、バババッと洗濯物を放り込み、洗濯機を回すと、物凄い速さで化粧して支度して、「行ってきます〜」と出掛けた。俺も母ちゃんについて行くように家を出る。

 


 今日は、学校での俺の仕事は大してなかった。部活の時に、スマッシュで飛びすぎたピンポン球が体育館の舞台に上がってしまい、ちょっと探したくらいか。

 なあに、飛んでいった角度を考えれば簡単なことだ。向こうの壁で跳ね返って、緞帳どんちょうに当たって勢いを殺されて、ピアノの下に転がっている。


「あった、あったよ〜。探索くん、やっぱ凄いね〜。ありがとぉ」

加藤かとう佐和さわに言われる。うん。彼女にそう言われるのは悪くない……いや……あの……その……。コホン。依頼を受けた者として、だ。



 部活を終えて、家に帰ると、母ちゃんが大騒ぎしていた。なんだ?

「あ〜、探索、いいとこ帰ってきてくれた」

「どうしたん?」

「私の携帯知らん?」

「俺、ずっと学校行っとったじゃろうが。知るわけなかろ」


 と言いつつも、まあ、これも依頼か、とため息をつく。

「いつからえん?」

「午前中に仕事の用事あって電話しよう思うたらかったんじゃ」

「母ちゃん、朝、あゆちゃんのママから電話あったよな?」

「ああ、あったなあ」

「それからどうしたん?」

「自転車で美和を保育園に送ってって、コンビニで唐揚げうて帰ってきたんじゃ」

「そこまでは、いつも通り、母ちゃんのエプロンのポケットの中にあったんじゃねえん?」

「エプロンのポケット?? あー!」

「洗濯したんか?」

ばあちゃんが、すまなそうに携帯入りのエプロンを持ってきた。

「ごめんよ、母ちゃん、気付かんと干してしもうた」

「あーー」

母ちゃんは散々嘆いたし、ばあちゃんは謝ったが、そもそも母ちゃんのミスで、乾かしたら生き返る可能性を考えたら、ばあちゃんナイスな選択なのだ。俺は、母ちゃんに、電源を切ったまま暫く乾かして、ショップへ持っていくように言った。


 やれやれ。今日は依頼の多い日だったぜ。明日は平和な日になりますように。



 大会前で、練習試合をした。ミックスダブルスの試合だ。俺はなんと加藤佐和とのペア。負けるわけにはいかん、と頑張る。

点が入る度に、加藤が「イエーイ」とか「やったあ!!」とか言いながら、ハイタッチをしてくる。嬉しいのが顔に出るからやめてくれ、と試合に集中する。


 勝った。

 加藤佐和、ハグはやめろ。俺は試合のドキドキなのか、お前へのドキドキなのか、わからないものとまだ戦っているぞ。


 そんな加藤が、最近、同じクラスの吉井聡よしいさとしと仲がいい。俺とはハグした仲なのに、だ。一緒に帰ったりもしているらしい。いや、俺とは反対方向だからな、一緒には帰れないしな。掃除の時も仲良く話しながら掃除をしてるらしい。いや、そもそも俺とは掃除の班が違うからな。加藤と俺が一緒に話をしようと思ったら、クラス全部に聞こえるくらいの、でかい声で会話しないといけないしな。会話全部丸聞こえだしな。



「探索くん、練習しようやぁ」

加藤は今日も可愛い声で、俺を誘う。ササッと髪をポニーテールにしながら。やめてくれ、俺のドキドキが止まらなくなるから。

 コンッ、コンッ、コンッ、コンッ……俺と加藤の間には卓球台しかない。誰にも邪魔されない二人だけの時間だ。

 そう、誘ってくるのは、いつも、加藤佐和の方からだ。これはもう、俺で間違いないんじゃないか?


 まてまて、落ち着け。


 加藤は、吉井と俺とどっちが好きなんだろう? まさか、ひょっこりニューフェイスが現れたりするんだろうか? それとも……それとも……?



 其辺そのべ探索たんさく、一生の不覚。加藤かとう佐和さわの「恋心」だけは、ずっとずうっと見つからずにいる。

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探し屋「其辺探索」 緋雪 @hiyuki0714

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