第29話/幸せへの道のりは長いかもしれない
急遽鳴海が泊まることになり、見慣れたはずの、同級生の女の子が料理をする姿にドキドキしてしまっている。
「餃子いっぱい食べれる?」
「う、うん」
「よかった。思ったより沢山作っちゃったから」
ただ、お互いに空気は重い。俺自身も、鳴海とこうやっていれるのは嬉しいけど、詩音がいないことに寂しさを感じてしまっている。
そんな空気の中で食事をして、鳴海が先にシャワーを浴び、俺はその後でゆっくり湯船に浸かってお風呂を出た瞬間、鳴海は俺に抱きつき、首筋にキスをしてきた。
「な、鳴海!?」
「私達、付き合うんでしょ?」
「そうだけど!」
「ならいいよね」
首にキスされながら服に手を入れられ、胸に手を置かれた。
「心臓の鼓動がハッキリ分かる」
「きゅ、急にはまずいって」
「そうだね。それじゃベッド行こ? そこで仕切り直し」
ずっと憧れだった鳴海との初めての夜、何故か複雑な気持ちで寝室へやってきた。
「ねぇ輝矢くん、私は本当にその気だからね」
「‥‥‥」
鳴海にベッドに押し倒され、ゆっくり顔が近づいてくる。
「キスしちゃうよ?」
「‥‥‥」
「いいの? ファーストキスが私で。本当にいいの?」
「‥‥‥鳴海がしたくないんだろ?」
なんだか、そんな気がした。
「したいよ? しちゃいけないって思ってるけど」
「俺は鳴海が好きだ。でも、詩音を大切に思ってる。最低だけど、俺もどうしたらいいか分からないんだ」
「でも私、あまりいい女の子じゃなかったよね。迷惑ばかりかけて、わがままで‥‥‥桜羽さんの気持ちを知ってても、こんなことしちゃうんだから」
鳴海は本当にキスしようとしてきたがらキスされるスレスレで顔を背けててしまい、鳴海の柔らかい唇が左頬に触れた。
「‥‥‥そ、それじゃ、また学校でね!」
「‥‥‥」
鳴海は泊まらずに、笑顔で家を出て行ってしまった‥‥‥。
「俺はなにやってんだー!!!!」
※
翌日、学校では詩音の話題で持ちきりで、下駄箱で靴を履き替えている時、美嘉がビニール袋を持って俺の元へやってきた。
「よっ」
「よっ」
「どうかしたか?」
「お母さんが、しばらくは挨拶にも行けないからって、感謝の気持ちって」
「お菓子か。ありがとうございますって伝えといてくれ」
「分かった。ありがとうね、お姉ちゃんのこと」
「いやいや、詩音は来てるのか?」
「え? なにも聞いてないの?」
「なんのことだ?」
「お姉ちゃん、今頃空港に居ると思うけど」
「な、なんで!?」
「いろんな手続きとかあるから、ロサンゼルスに戻るって」
「そんなの聞いてないぞ‥‥‥」
「輝矢くん!」
「鳴海‥‥‥」
「木月先生連れてきたよ! 早く空港に連れて行ってください!」
「今から授業だ! 私が怒られる!」
「んじゃあれですね、俺を乗せて暴走したことを被害者として警察に連絡します」
「よし、三人で私の車に乗り込め」
「はい!」
俺と鳴海と美嘉の三人で木月先生の車に乗り込み、エンジンがかかった瞬間、俺は二人に伝えた。
「なにかに掴まれ! 死ぬぞ!」
「え?」
「私死ぬの?」
「飛ばすぞ!!」
「きゃー!!」
「だから掴まれって言っただろ!!」
「うぅ‥‥‥酔った‥‥‥」
「美嘉!? 早くね!?」
車内大パニックの状態で空港に向かい、空港に着くと、急ブレーキで車が止まった。
「走れ!!」
「美嘉ちゃん行くよ!」
「うぅ‥‥‥」
「先行くからな!」
「う、うん!」
鳴海と美嘉を置いて先に空港に入ると、自販機で水を買う詩音を見つけて駆け寄った。
「詩音!」
「‥‥‥な‥‥‥なぜここに‥‥‥」
「どうしてなにも言わないんだ。俺はお前のご主人様じゃないのか」
「ラーメンを作り終えた時、メイドとしての役目を終えました」
「それでいいんだな」
「はい‥‥‥」
「だったらなんで泣きそうな顔するんだよ」
「‥‥‥」
「桜羽さん!」
「お姉ちゃん!」
「二人共‥‥‥」
二人も急いでやってきて、鳴海は詩音の肩を掴んで言った。
「明日には帰ってくるんでしょ?」
「輝矢様をよろしくお願いします」
「お姉ちゃん!」
「美嘉、体育祭で、もう転ばないようにね。‥‥‥私はもう行かなければいけません。鳴海さんは本当に‥‥‥輝矢様と幸せに、輝矢を幸せにしてください」
「待って!」
「もう時間が‥‥‥」
「輝矢くんは私のキスを拒んだ! それは詩音ちゃんのことが好きだからだよ!」
「鳴海!?」
「そ、そんなの嘘です。輝矢様は私を穴としか見ていません」
「おいこら」
「でも、鳴海さんがそう言うなら、私は輝矢様に恋をし続けます。必ず帰ってくるので、その時、今より良い女になっておきますね」
「いつ帰ってくるんだ」
「二年後の、初雪の日に」
※
詩音はロサンゼルスの学校で約二年を過ごすことになり、三年生の冬に帰ってくることになった。
そして俺達は二年生になり、あっという間に夏休みが明け、俺と鳴海はあの日を思い出して、急に恥ずかしくなってしまったりと大変だし、何年も会えないとなると、やっぱり鳴海と付き合うべきだったかもとか思ってしまうのが男のサガで‥‥‥美嘉と大河も二年生になって同じクラスになって、俺が他の女にデレデレしないか監視してるし、本当、詩音と出会ってから恋愛が上手くいかない。
「輝矢くん、可愛い後輩が多いからって、デレデレしちゃダメだよ?」
「大丈夫だよ瀬奈ちゃん。こいつカッコよくないし」
「こいつ呼ばわりかよ!!」
「でも輝矢、この前後輩の女の子と楽しそうに話してたよね」
「は?」
「そ、それ大河の妹じゃん!!」
「僕、妹居ないけど」
「た、大河、ちょっと二人で話をしようか」
「アンタ?」
「輝矢くん?」
「ただ仲良くなっただけだからー!」
教室から逃げ出そうとしたその時、珍しく携帯の着信音が鳴った。
「詩音だ!」
「えっ! 出なよ!」
「う、うん、もしもし」
詩音が日本出て、初めての連絡で、変な緊張感を感じながら電話に出た。
「もう我慢できなくて日本に来ちゃいました♡」
「はぁ!? まだ半年とちょっとだけど!?」
「ムラムラが収まらなくて♡ それでそれでぇ♡ 輝矢様、浮気は良くありませんね」
詩音の声がやたらクリーンに聞こえ、気づけばギロっと俺を睨む、髪が伸びて大人っぽくなった詩音が目の前に立っていた。
「桜羽さん!!」
「まっ、私は妹だから知ってたけど」
「ひ、久しぶり‥‥‥」
「その噂の後輩さんはどんな方ですか? 腰振るのが上手か下手かで答えてください」
「知るか!! でもなんか、変わんないな!」
数年会えないと思っていたのに、早すぎる再会で拍子抜けだったが、やっぱり詩音が目の前にいるのは嬉しく感じる。
「あ! 勝手に教室行くなって言っただろ!」
木月先生が慌てて教室にやってきて、詩音を捕まえた。
「失礼ですが独身さん。私は早く会いたかったのです」
「おい、今なんて言った。鼻の穴拡張してやろうか」
「私の穴を拡張できるのは、輝矢様のブツのみです。輝矢様のもので拡張というほどのことができるかは置いといて」
「木月先生。詩音に鼻フックお願いします」
「輝矢様がしてください♡ ロスにいる間、そのような本を読んで勉強済みです!」
「レベルアップしちゃってるー!!!!」
「輝矢様がするんです! 私がそんな輝矢様の背中に座り、お尻を叩いてあげます♡」
「よし、ロサンゼルスに帰れ」
「酷いです! ずっと会いたかったんですよ!? いくつもの夜を輝矢様を思い出しながら枕とアレを濡らした私の気持ちを理解してください!」
「アレってなんだ!!」
「てか桜羽」
「なんですか独身」
「お前、ちゃんと制服着て来てるけど、この学校の生徒じゃないだろ」
「‥‥‥」
「どういうこと!?」
俺と鳴海は驚いて、同時に聞いた。
「私は転入ではなく、中退して日本に戻ってきました」
「アホか!! これからどうすんだよ!!」
「専業奴隷メイドとして、一日中輝矢様のお家でグータラ過ごします」
「美嘉はそれでいいのか?」
「私もお母さんもオッケー出してるけど、たまに遊びに行かせて」
「それならよし。分かった!」
「ちなみに、契約上のメイドは終わってしまったので、生活費は振り込まれません。輝矢様がバイトをして、お給料、またはおチン料をください」
「よし、自分の家に帰れ。って、最後のなんなんだよ!!」
「桜羽、時間だから帰れ」
「はい。それでは輝矢様、M字開脚をしてお待ちしております」
「‥‥‥」
感動の再会を望んでいた俺の気持ちを今すぐ返してほしい。
※
なんか、この再会の仕方は違うと思いながらも、放課後が近づくに連れてワクワクしてきて、帰りの会が終わってすぐに席を立つと、鳴海が俺の制服を掴んできた。
「ど、どうした?」
「覚悟を見せてね。それで全部終わり。気まずいのとかもなし」
「うん、わかった」
俺は気づいている。右手を後ろに回して、カッターをカチカチしながら衝動を抑えていることを。
鳴海の感情が爆破する前に、俺はそそくさと学校を出て、家に帰ってきた。
「わーい! おかえりなさーい!」
「えっ」
「し、失礼しました。テンションが上がってしまって、つい」
「ちゃんと成長したのか? 髪伸ばして、大人びただけじゃないだろうな」
「下も伸ばしておきました」
「うん、それは大人っぽいな。ってなんでだよ!!」
「無い方がお好きでしたか!?」
「そうじゃねぇ!!」
「M字開脚で待っていなかったのが気に障りましたか?」
「いや、それは忘れてたわ」
「それならよかったです。そういえば私が居ない間、後輩さんとお付き合いを始めたんですか?」
「いやいや! それはない! 彼女とかいないし!」
「でしょうね」
「ん? うん。 いや、おい」
「私ぐらいしか、輝矢様と付き合うなんて無理なんですよ」
「随分ダイレクトだな」
「輝矢様に気持ちを伝えると、覚悟を決めて来ましたから」
「俺もだ。覚悟を決めた」
「それでは、私と突き合ってください!」
「お、俺に言わせてくれよ!」
「でも、私達は同じ気持ちなんですね」
「まさかすぎるけど、俺もいつの間にか詩音の存在が大切になってたみたいだ」
「突いて突かれて、同じ痛みを同じ日に経験し、愛を深める。さぁ、ベッドへ行きましょう」
「へ?」
「私達、突き合うんですよね」
「なるほど。うんうん、なるほどな。お前に突くものは付いていないだろ」
「この世には、女が男になれる道具があると知りました」
「そうかそうか。これからも友達でよろしくな!」
「嘘です!! ごめんなさいー!!!!」
「無理!! やっぱり考え直す!!」
「輝矢様とキスする妄想しながら、ぬいぐるみで練習したんですよ!? キスされたくありませんか? どうせ私以外してくれないんですし!」
「鳴海がほっぺにしてくれたし! いって!!」
詩音は俺の右頬をビンタし、ムスッとした顔をして俺を睨みつけた。
「キスされたのはどっちですか」
「ひ、左だけど。うっ!! なんで左もビンタすんの!?」
「ご主人様となんか付き合ってあげません!!」
「えぇ〜!?」
メイドのせいで恋愛が上手くいかなくて、メイドとも付き合えない俺って‥‥‥。まぁ、まだ今の関係を楽しむのも悪く無いのかもな。
でも、これだけは言っておこう。
「詩音」
「なんですか!!」
「俺は詩音が好きだ。だから命令だ。詩音がその気になったら、俺のメイドじゃなく、彼女になってくれ」
「も、もうご主人様ったらぁ♡ 今日が記念日ですから忘れないでくださいね♡」
「もうどういうことー!?!?!?!?」
きっと俺は、この変態メイドにずっと振り回される。だけど、それもまた幸せだなんて思ってしまったんだ。
「あっ、ラブラブちゅちゅぬぷぬぷする前に、この巨乳グラビアの写真集はなんですか? 浮気ですか? 巨乳がすきなんですか? 殴っていいですか?」
幸せへの道のりは長いかもしれない。
エロ漫画でメイドの極意を学んだクール美少女が俺のメイドになってから、恋愛が上手くいかない!! 浜辺夜空 @0kumo0
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