隠す四人

第25話/手錠と猿轡♡

十月に入り、詩音と鳴海は毎日仲が良く、なにをするにも一緒にいることが増えていた。

 これが鳴海の企みだった場合めちゃくちゃ怖いけど、本当、後夜祭でなにがあったんだか。あれか、美嘉なら知ってるかも。





放課後、詩音が鳴海と一緒に買い物へ出かけて行き、俺は一人で技術室へやってきた。


「いるかー?」

「なに?」

「おぉ、俺もついに声パスか」

「さすがにね」

「さっそく本題なんだけど、文化祭の後夜祭で、鳴海と詩音になにがあったか教えてほしい」

「なにかあったの?」

「知らないのか? 後夜祭の後から二人の仲が良すぎるんだ」

「知らないけど、確かに二人だけで話してる場面は見た。すごく真剣な表情だったけど、内容までは知らない」

「そうか。了解だ」

「報酬」

「ない」

「シバく」

「物騒だな! 詩音みたいに器用じゃないんだよ! 今回はタダにしてくれ!」

「じゃあさ、代わりに詩音ちゃんのこと聞いてもいい?」

「えっ、別にいいけど」

「誕生日はいつ?」

「知らん」


言ったらまずいと思い、咄嗟に嘘をついてしまった。


「殴っていい?」

「なんでそんな暴力的なんだよ!」

「私、アンタのこと嫌いだし」

「なんでなんだよ。俺、なにかしたか?」

「お姉ちゃんを誘拐したでしょ」

「はっ!? なに言ってんだ!?」

「前に、木月先生が持ってた書類を勝手に読んだの。もう、詩音ちゃんは私のお姉ちゃんだって確信してる。なんであんなことしたの?」

「待て待て! 俺は犯人じゃない!」

「親が誘拐したんでしょ?」

「俺の親は詩音を保護した人だ!」

「なら親に会わせて! 直接話して確かめる!」


美嘉は掃除用具入れから出てきて、バンッ!と勢いよく机に手をついた。


「俺の親は死んだ」

「ど、どっちも?」

「うん」

「それはごめん‥‥‥」

「気にするな。知らない人の方が多いんだし」

「うん。でも、保護したってなに?」

「ちゃんと読まなかったのか?」

「こっそり読んだから、途中までしか」


俺は、木月先生に聞いた全てを美嘉に教えた。


「そういうわけだ」

「記憶がないから、私が妹って言っても分からないってこと? お母さんに会わせたら記憶が戻ったりしないかな」

「無理だろうな。小さい頃の写真も見せてみたけど、パニックになっちゃったし、強引に思い出させることだけはやめてやってくれ」

「‥‥‥やったー!!!!」

「急にどうした!?!?!?!?」

「確信してたとはいえ、アンタが認めたことに意味がある! 私、会えてたんだ!」

「よかったな。にしても、双子でこんなに身長差でるかね」

「は?」

「なんでもございません。とにかくさ、このことは鳴海も知ってるけど、三人の秘密で頼む」

「やっぱり知ってたんだ」

「事情が事情だから、美嘉には言えなかった。でも、美嘉は詩音を姉として受け入れてるんだよな?」

「当たり前! 小さい頃の記憶しかないから変な感じだけど、やっと夢が叶った‥‥‥やっとだよ‥‥‥」


美嘉は急に大粒の涙を流し始め、喜びを噛み締め始めた。


「な、泣くなよ」

「お姉ちゃん、ちゃんと生きてたんだ‥‥‥」


それから美嘉は声を上げて子供のように泣き続け、それがなんだか微笑ましく思い、俺は美嘉が落ちつくのを静かに待った。





「落ち着いたか?」

「お腹すいた‥‥‥」

「なんか食べに行くか? これからのことも話し合いたいし」

「うん。ファミレス行こ」

「オッケー」


俺達はファミレスへやってきて、ドリンクとポテトを注文し、話を再開した。


「お母さんにはまだ言わない方がいいのかな」

「んー、今はまだ」

「分かった。てか、詩音ちゃんがアンタのメイドで、一緒に暮らしてるとか、変なことしてないだろうね」

「してないしてない! されてる側だ! 俺は被害者だ!」

「ふーん。詩音ちゃんさ、絶対アンタのこと好きじゃん?」

「ご主人様としてだろ」

「いやいや、LOVEだよ」

「んなわけあるか」

「あるの。瀬奈ちゃんと詩音ちゃん、どっちを選ぶの?」

「そりゃ鳴海‥‥‥だけど‥‥‥」

「多分振られるね」

「はい!? 全部が解決したら付き合う約束してるんだぞ!?」

「瀬奈ちゃんって、あんなんだけど優しすぎるもん。多分、一人でいっぱい考えてる。それで詩音ちゃんと仲良くなるって決めたんだと思うよ。まっ、お姉ちゃんとアンタが付き合うとか、私が許さないけど」

「どっちもダメになったら、俺ずっと一人じゃん」

「お似合いじゃん」

「黙れ」

「ぶー!」

「不貞腐れて唾飛ばすなよ! 汚いな!」



***



輝矢と美嘉がファミレスで話をしている時、詩音と瀬奈は同じファミレスの二人から一番離れた席で話をしていた。


「で? なんで隠してるの?」

「なにがです?」

「本当は記憶が戻ってること」

「そもそも聞こうと思っていましたが、なんで気づいたんですか?」

「屋上でパニックになった時、あんなふざけてたら分かるよ。フラフラしたのはビックリしたけど」

「貧血です」

「あー、なるほどね。私は言ったんだから教えてよ。輝矢くんと美嘉ちゃんには言わないって約束したでしょ? 安心して」

「はい。私はきっと、輝矢様が好きです。文句を言いながらも一緒にいてくれる優しさに、簡単に堕ちてしまったマゾメスなのです」

「言葉選びの癖!」

「文化祭ではLOVEじゃないと言いましたが、きっとLOVEです。性メイドと言えども心は女子高生ですし、エッチがしたいなんて、好きな人以外に言えません。まっ、最初のうちは冗談で言っていましたが」

「もう意味が分からないよ」

「私を拾ってくれた二人の子供ですから、最悪体の関係になっても受け止める気でいました。ですが今は、最高に体の関係を求めています」

「わ、わかったわかった! で? それがどうして記憶が戻ってることを秘密にしておくことに繋がるの?」

「記憶が戻れば、全国ニュースになって、私は美嘉さんの家に戻されるでしょう。輝矢様と離れたくありません」

「家族だよ? また一緒に暮らしたいとか思わないの?」

「小さい頃の記憶しかありませんから、複雑なんです」

「そっか。あーあ、私も輝矢くんのこと大好きなんだけどなー」

「誰にも言わないからって理由で友達になれたのに、友達をやめるフラグが立ちました。ビンビンです」

「ちょっと? と、とにかく、私は桜羽さんの恋を応援するよ」

「‥‥‥」

「な、なんか言ってよ」

「気持ち悪いですね」

「はい!?」

「ヤンデレみたいな人がそんなセリフを言うなんて、絶対裏がありますよね」

「ないよ。桜羽さんが一人にならないで、輝矢くんも一人にならない。そのためには、二人がくっつくのが一番いいと思ったの。で? 本当に好きになった理由はそれだけ?」

「よく分かりません。それに、私は輝矢様が好きですが、お付き合いはできません」

「メイドだから?」

「いえ、輝矢様のご両親が亡くなったのは‥‥‥私のせいなので‥‥‥」

「‥‥‥輝矢くんは知ってるの?」

「知りませんが、いつか言わなければいけません。言えば、きっと家を追い出されるでしょう。それはしっかり受け止めます」

「い、いつ言うの?」

「心の準備が出来次第です」

「そっか。追い出されたら私の家に来なよ」

「嫌ですけど」

「私の優しさを返して」

「嫌ですけど」

「うざ」

「清楚な美少女様がそんな言葉遣いでいいんですか?」

「桜羽さんだって、みんなに見せない一面が一つや二つあるでしょ?」

「ありますね。輝矢様の下着を洗濯する前に、顔に当てて深呼吸しています」

「なにそれズルい!」

「えっ、冗談ですよ? そういうことがしたいんですね。引きました」

「‥‥‥」


二人は本当に友達になったのか微妙なラインの会話をして、ファミレスを出ることにした。



***



「おぉ! 分かる! まさか美嘉もあのアニメが好きだったとはな!」


俺達は真面目な話をしているうちに、何故か好きなアニメの話になり、あっさり仲良しになることができた。


「あれ? どうして二人が?」

「鳴海!?」


鳴海に声をかけられ、どう言い訳をするか、それだけが俺の脳内を駆け巡った。


「あ、あれだ! 美嘉とはたまたまここ出会って!」


これじゃ完全に浮気してるみたいじゃんか!!


「そっか! 美嘉ちゃんは良い子だから仲良くしてね!」

「お、おう」


なんか許された。これが美嘉じゃなかったらどうなっていたことやら。


「輝矢様、私達の会話が聞こえていましたか?」

「会話? 聞こえなかったけど」

「それは良かったです。帰りましょうか」

「う、うん。二人は遊び終わったのか?」

「はい」

「そうか。ん、んじゃ俺は帰るわ」


俺と詩音は一緒にファミレスを出て、ゆっくり歩き出した。


「何食べたんだ?」

「ポテトだけです」

「おっ! 俺もだ!」

「運命感じますね。ついでに輝矢様を感じさせたいのですが、このままホテルへ行きませんか?」

「なんで二人暮らしなのにホテル行かないといけないんだよ。あっ、家ならいいってことじゃないからな」

「ただ服を着て、抱きしめるだけでもダメでしょうか」

「却下」

「そうですか」


詩音にしてはあっさり諦めたな。楽で助かるけど、なんか変な感じだな。





真っ直ぐ家に帰ってくると、詩音はスクールカバンからあるものを取り出した。


「それどうした‥‥‥」


カバンから取り出された物は、手錠と猿轡さるぐつわだった。


「鳴海さんと買いに行ってました。雑貨屋にありましたよ」

「女子高生二人で買う物じゃないぞ!!」

「ん〜♡」

「猿轡付けんな!!」

「んはぁ。何故ですか? 意外といい感じですよ? ご主人様もどうぞ♡」

「お前の唾液が付いたやつを口に咥えろと?」

「そんなご主人見てみたい! はい!」

「ホストのコールみたいなノリでそんなこと言われても」

「飲んで飲んで飲んで! 飲んで飲んで飲んで! 唾液!」

「きったねぇな!!」

「でしたら、私に飲ませてください♡ 唾液以外も全部♡」

「無理。最悪、手錠ならいいけど」

「な、なら手錠をお願いします♡ うへっ♡」


やっぱりやめておこう。おもちゃとはいえ簡単に外れなかったら、なにされるか分からないな。それは詩音の変態的な表情が物語ってる。


「やっぱりやめとく」

「ご主人様、背中になにか付いてません?」

「え? なんだ?」


背中に手を回した時、詩音は素早く俺に手錠を付け、ニマァといやらしい笑みを浮かべた。

 完全にはめられた!!


「おい!」

「大丈夫です♡ 分かってますから♡ 嫌なふりして、本当はいじめられたい気分なんですよね♡ まずはベルトから失礼します♡」

「待て待て!! 外すな!!」

「やっとその気になってくれて嬉しいです♡ 手錠は私に使ってもらう予定でしたが、ご主人様がMなら私がSになりますよ♡」

「そうじゃない!!」

「ズボンも失礼します♡」

「おいー!!!!」


ズボンを足首まで下げられ、歩くのも大変になり、完全に逃げられなくなってしまった。


「まずは下着の上から失礼しますね♡」

「待て!! 触るな!!」

「是非、漫画で磨いたテクニックを堪能してください♡」

「し、詩音!! ベッドに行こう!!」

「それもそうですね。立ちっぱなしは疲れそうですもんね♡」


なんとか触られずに済んだけど、この後どうする!?


「とにかくズボンは全部脱いでしまいましょう♡ これで歩けますね♡」

「う、うん」


このままベッドに行ったら、本当どうなっちゃうの!?俺の初めてって、まさか今日なの!?明日から詩音をどんな顔で見ればいいんだよ!!鳴海に合わせる顔も無くなるし!!


「早く行きましょう♡」


俺は詩音の部屋に連れてこられ、なにか言ってこの場を逃れなければと思ったが、すぐにベッドに押し倒されてしまった。


「どうですか?♡ 私の匂いがします?♡」

「し、詩音。やっぱりやめよう!」


そう言うと、詩音は少し悲しそうな顔をして、俺の上に乗っかって、胸に耳を当てた。


「な、なにしてるんだ?」

「せめて、こうしていてもよろしいでしょうか」

「そ、それ以外なにもしない?」

「はい」

「わ、わかった。気が済んだら解放してくれ」

「はい」


詩音の軽い体重と、女の子の良い匂いを感じて、最初はドキドキしていたが、長い沈黙と不思議な安心感のせいで、俺は気づいた時にはウトウトしてしまっていた。





「んっ‥‥‥」

「おはようございます」


目を覚ますと手錠が外されていて、しっかり布団がかけられていた。

 そして詩音はいつものようにベッドの横に正座して、俺が起きるのを待っていたが、俺には一目で分かった。


「泣いたか?」

「な、泣いてませんよ? どうしてですか?」

「目の下が赤いから」

「メイクですよ。地雷メイクです」

「なにか思い悩んでることとかあるなら、いつでも聞くからな」

「‥‥‥私は‥‥‥」

「ん?」

「どうやってご主人様の初めてを奪い、同時に私の初めてを捧げることができるか。それを思い悩んでいます!」

「泣くほどやりたいのかよ。ちなみに俺は、泣くほど腹減った」

「あっ! 寝顔に見惚れっ、いや、見ていたらご飯を作るの忘れていました!」

「で、出前取ろう! 寿司!」

「そうですね。輝矢様の誕生日はなにもあげられなかったので、今日は私のお小遣いから奢ります」

「よっしゃ!」





寿司を注文して届いてすぐ食べ始めたが、寿司の値段がお小遣いの五千円を超えてしまい、詩音は泣きながら寿司を食べている。


「また目の下赤くなるぞ」

「メイクですもん‥‥‥」


俺が寝ている間、詩音がどうして泣いていたのか俺は分からない。

 今日は美嘉の涙も見て、なんかそう言う日なのかな。でも、美嘉が詩音を姉だと理解して、状況を見て今はなにもしないって話になった。良い進展もあったことだし良しとしよう。

 ただ、やっぱり詩音にはストレス発散が必要なのかな。明日は学校無いし、詩音を連れてどこか行こうかな。あっ、美嘉も誘ってみよ!

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