第24話/文化祭:後編・探偵と探偵ゲームバトル!

さっそく中庭へやってくると、美嘉が中庭から廊下に戻ってきたところで、また走ってどこかへ行ってしまった。


「凄いな」

「やはり、普段から探偵をしている人は違いますね」

「俺達も負けてられねぇ!」

「はい」


さっそく中庭に出て、大きな池を覗き込むと、詩音が指を指して言った。


「ありました」

「本当だ!」


池の底にホワイトボードが沈んでいて、そこに【月の裏側】と書いていた。


「月の裏側?」

「人類が見たことなくて、実は宇宙人の基地とか、宇宙都市があるんじゃないかと言われていますよね」

「これがなんのヒントになるんだか、まったく分からないな」

「月に見える何かが学校にあって、その裏側に次のヒントがあるんじゃないですか?」

「プラネタリウムやってる教室なかったか?」

「美嘉さんの教室がそうです」

「行こう!」


急いでプラネタリウムを見に来たが、月なんてどこにもなく、ただただ十分間、人工芝生の上で星を見上げて癒されてしまった。


「いやー、綺麗だったな!」

「とても素敵でした。次は夏祭りのリベンジ、くじ引きをしに行きましょう」

「月の裏側はどうした!!」

「あ、忘れてました」

「俺も忘れてたけど」


その時、知らない学校の女子生徒二人が会話をしながら真横を通りかかった。


「あの月、凄いリアルだったね!」

「やっぱり、油絵だと立体感あっていいよね!」

「ねっ!」


そうか、美術室か!!


「行こう!」

「一緒にいこ♡ って言ってください♡」

「んじゃ、もう、一人で勝手に行け」

「あぁ♡ 突き放すようでへきに刺さる言葉です♡」

「美嘉にクリアされちゃうぞ」

「美術室へ行きましょう。それまで勝手にいっちゃダメですからね」

「また耳引っ張られたいか!!」

「引っ張るならブルーベリーにしてください♡」

「どこでブルーベリーの伏線回収してんだよ。今後、都合よくブルーベリーを使う気だろ」

「いえ、誰がなんと言おうとハッキリ言ってやりますよ。ティクビってね!!」

「はーい、さっさと行こうねー。あと、躊躇して若干違う感じに言ってんのバレバレだよー」

「痛い! 痛いです!」


詩音の耳を引っ張って美術室にやってくると、やっぱり、いろんな絵の中に一枚、月の絵が飾られてあった。


「あったな」

「耳赤くなってませんか?」

「なってる。猿みたいだ」

「DVご主人様」

「やめて!? ごめんって!」

「貴方の罪を許します。貴方に神の御加護がありますように」

「シスターさん‥‥‥ってそうじゃねぇ。この額縁の裏って見ていいのかな」

「いいよ! 探偵さんでしょ?」


美術部の先輩がそう言ってくれて、慎重に額に触れて裏を覗くと【五百八十円だけじゃない】と書かれていて、俺はすぐにピンときた。

 この高校の学食は全て五百八十円だが、週に一度、千八十円のステーキ定食が出る。次行く場所は食堂だ!


「食堂に行くぞ」

「分かりました」

「頑張ってね! 今のところ小さい子一人しかこの絵に辿り着いてないから、まだまだ可能性あるよ!」

「ありがとうございます!」


美嘉の奴、やるな。

 美嘉に追いつこうと、すぐに食堂にやってきたが、食堂は休憩室になっていて、大人達がお茶をしていて、なんかちょっと気まずい空気感だ。


「多分、次のヒントは券売機にあると思う」

「見てみましょう」


休憩の邪魔にならないように静かに券売機の前までやってくると、二つある券売機のうち一つのステーキ定食のボタンの値札が【本日無料】に変わっていて、さっそくボタンを押してみた。


「ヒントの紙が出てきましたよ」

「すげーな。なんか面白くなってきた」

「読みます【ご主人様はパンケーキが好き】そう書いています」

「は?」

「好きなんですか?」

「嫌いじゃないけど」

「教室に戻りますか」

「俺達のメイド喫茶でパンケーキを頼むのか?」

「はい。行きましょう」

「了解」


こんな話、教室で聞いてないけど、一部の人達だけの秘密だったのかな。

 とりあえずメイド喫茶に戻ってくると、詩音はすぐにクラスメイトに捕まってしまった。


「やっと来た! 午後の部始まってるよ!」

「遊びたいのでやりたくありません」

「そんなのみんな同じ! 接客が嫌ならドリンク作りに回って!」

「しょうがないな。あとは俺一人でやる」

「はい、五分で終わらせます」

「時間制だから後二十分働いてもらうけど」

「とにかくちゃんとやれ」

「分かりました」


んで、やっぱり美嘉はパンケーキ食べてるな。なんとか美嘉に追いついたことだし、ここからが勝負だな。

 それに、探偵専用パンケーキがメニューに追加されてる。これを頼めばいいのか。


「探偵専用パンケーキお願いしまーす」

「桐嶋さん、パンケーキに入れるはずの小さな紙をお渡しします」

「んー!! ちょっと二人とも! ずるい!!」


小さな口で必死にパンケーキを食べていた美嘉が立ち上がったが、俺は紙を受け取って教室を飛び出した。


「ズルズルー!!!!」


美嘉を無視して逃げるようにしながら紙を確認すると【独身拗らせ教師】と書いていて、すぐ頭に浮かんだ教師がいるが、なんか、それで会いに行ったら殺されそう‥‥‥。


「んー!!」


口をぱんぱんにした美嘉が走ってきて、俺は勝つために迷わず職員室に走った。


「木月先生!」

「ん?」

「独身拗らせ教師ですよね」

「いい度胸だな桐嶋」

「違うんです! これは探偵の!」


やばい!美嘉が来てしまった!


「先生、次のヒントください」


美嘉は木月先生ではなく、他の男教師に声をかけ、俺は一瞬で嫌な汗が止まらなくなった。


「はい! 一番乗りだよ! 頑張ってね!」


こんな問題分かるかよ!!てか、この学校の教師ほとんど独身じゃん!!


「桐嶋、他に言いたいことはあるか?」

「あるので殺さないでください!」

「まっ、私もあまり怒りたくはないからな。桜羽が暴れた件に関して、桐嶋からキツく言っといてくれ」

「俺でいいんですか?」

「あの店は無許可だったし、幸い怪我人も居なかった」


あの後、怪我人がたくさん出たんだけどね。


「だから私が怒る必要もないかと思って」

「わ、分かりました。行っていいですか?」

「そういえば」

「えっ」


美嘉は先に行ってしまったし、木月先生はなにか話し始めちゃったし、やばいな。このままじゃ負けてしまう。


「メイド喫茶の集客率は大したもんだな。これで赤字はないだろ」

「そ、そうですね。それじゃ俺は」

「でさ」

「いや、あの」


次の瞬間、校内放送が流れ始めた。


「探偵ゲーム終了でーす! 見事探し当てたのは天宮美嘉さんでしたー!」

「あー!! 悔しいー!!」





あれから、美嘉に聞いて、探し物は最初に紙をくれた人のカラフルなアフロの中に【文化祭の出店で、なんでも十回無料券】が入っていたと知った俺は、ちょっと欲しくて、尚更悔しくなってしまった。

 そして、美嘉と一緒に仕事が終わった詩音と合流することになった。


「お待たせしました。美嘉さん、おめでとうございます」

「ありがとう! 今から瀬奈ちゃんが吹奏楽部の演奏で、そのあと軽音部のライブがあるから、体育館に見に行かない?」

「俺はいいけど」

「是非行きましょう」


三人で体育館に移動し、吹奏楽部の演奏が始まったが、俺はなんとなく二人の横顔を見つめた。

 すると、演奏の音にビックリする顔や、演奏が激しくなって興奮する顔など、全く同じタイミングで同じ顔するのが面白くて目が離せなくなってしまった。





なんだかんだ三人で文化祭を楽しみ、気づけば文化祭も終盤、鳴海も合流して、最後にビンゴ大会に参加したりと、俺達は文化祭を満喫し尽くした。


「あー、終わっちゃったなー」

「ミスコンも凄かったですね」

「鳴海が勝てないミスコンなんて、なにかの不正が働いたに違いない」

「私が出れば、結果は同じでした」

「出ればよかったのに」

「桐嶋さんがミスコンの優勝者とのダンス券を手に入れたら出るつもりでした」

「なんだ? 俺と踊りたかったのか?」

「他の女と踊られるのは、そのっ‥‥‥想像したらムカッとしたので」

「あはは! なんだ? 嫉妬か?」

「‥‥‥」


えっ、なにその赤くした照れ顔。本当に嫉妬なの?気まずい気まずい。


「後夜祭に参加する人はこの紙に名前書いて下さーい!」

「後夜祭か。俺は帰るけど」

「参加しないのですか? 外でバーベキューするらしいですよ?」

「肉よりも、早く帰ることのほうが優先順位高いんだよ。詩音は楽しんだらどうだ?」


詩音が真剣に悩んでいると、美嘉がA組にやってきた。


「詩音ちゃん、後夜祭参加する?」

「私は帰ります」

「えー、参加しようよ」

「えっと、その」

「せっかくだし参加しろよ」

「本当にいいのですか?」

「当たり前だろ。楽しめ」

「はい! ありがとうございます!」


たまには俺がいない所での自由行動もないとな。俺は帰ってアニメでも見よ。





文化祭の余韻に浸りながら帰ってきて、一人で詩音の帰りを待ち、気づけば二十一時。やっと詩音が帰ってきた。


「ご主人様♡ 余ったお肉貰ってきました♡」


帰ってきた詩音は、汗で前髪がぺったんこになり、頬には墨が付いていて、ちゃんと楽しめたのが一目で分かる。


「楽しかったか?」

「はい! 鳴海さんとお友達になりました!」

「‥‥‥ん!?!?!?!?」

「それと、お誕生日おめでとうございます♡」

「そんなことより、気になることが聞こえたんだけど」

「今のままじゃご主人様に抱いてもらえないほど汗をかいていますので、お風呂失礼しますね♡」

「おい、話し聞いてる?」

「失礼します」


風呂に行っちゃったよ。

 てか、詩音と鳴海が友達!?ないない!!あり得ない!!とにかく本当に友達になったのか、この目で見るまで信じないぞ。





そして誕生日のお祝いは、風呂上がりにバスタオル一枚で出てきた詩音を舐め回すように見て、むしろ舐め回してほしいというリクエストを受けて、ひたすら無視して時間が過ぎていった。

 詩音の誕生日はちゃんとお祝いしてあげたのに!!いや?これも普通なら最高の誕生日プレゼントのはずなんだ。でも俺は、付き合っていない女の子を舐め回したりできないんだ!!

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